公立幼稚園の設置促進

1 桜田幼稚園創設
 昭和三十五年も暮れようとする頃、新橋地区のある私立幼稚園から、「曩に病歿した園長に代って、経営して戴きたい」との思いがけない懇請を受けた。事情察するに余りはあるが、校長職にある私にできることではないので辞退した。しかしながらそのために閉園にでもなれば、園児の去就に迷うのは見るに忍びない。かねがね桜田小学校児童が漸減することは予想していたので、その対策のためにも、この機会に公立幼稚園を併設しようと考えた。私のこの意向を長井頼逸PTA会長が全面的に賛成し、ともに水も漏らさぬばかりに桜田幼稚園創設を企画し、合理的に推進した。
 港区当局としては、幼稚園の新設は全然念頭にもなかったところに、降って湧いたような創設運動なので、いたく困惑したようだが、情理を兼ね備えた桜田地区の要望には応ぜざるを得ず、区議会もまた満場一致で賛意を表し、桜田幼稚園が港区の第五の幼稚園として出現することになった。しかし何分にも唐突のことであり、煩瑣な行政手続上の関係もあって、園児募集なども新年度に入ってから始めたが、諸事万端が滞りなく整って、昭和三十六年、四月の陽光の下に、桜田幼稚園は晴れやかに開園したのであった。
 誰しも夢想だにしなかった区立幼稚園新設という画期的な大事業が、一瀉千里の勢いで短時日間に成功したのは、ひとえに桜田学区民各位の教育優先にたぎりたつ精神と献身的努力の賜である。

(桜田幼稚園資料)


2 青南に幼稚園を
 私立幼稚園の廃園にともない、青南小学校PTAでは、次のような請願書を港区議会議長宛に、陳情書を教育委員会宛に提出した。
   区立幼稚園設置に関する請願書(要旨)
当地域では青南小学校前の「私立青山南町幼稚園」に通園する幼児が多く、青南小学校とは密接な関係にありました。
 ところが、園長田中香氏には、八十歳の高齢のため四十一年度より廃園の方針を決定され、四十年度の園児募集は中止されました。青南小学校児童保護者並びに当地域居住者は、幼児教育振興上、青南小学校に公立幼稚園の設置を要望しております。この機会に「昭和四十一年度より区立青南幼稚園」をという声が、日ましにたかまってきております。
 当港区でも毎年区立小学校に幼稚園が増設され、幼児教育にも、特別な関心が深められております。
「私立青山南町幼稚園廃園」のこのさい、地域の熱心な要望にこたえられ、是非青南小学校に区立幼稚園を設置されるよう請願いたします。
 昭和四十年二月十八日

請願者代表  港区立青南小学校 
PTA会長 伊藤 一


(青南小学校資料)


 
【付記】私立幼稚園が廃園になるに伴い区立幼稚園の設置を望む地域の要望が出され、桜田幼稚園が設立された。青南小学校でも学校前の私立幼稚園がなくなることにより、PTAとして陳情書を出し、幼稚園設置を要望した。