東京都港区立西桜幼稚園
園外保育が幼稚園に於いて幼児を教育する上に最も大切な使命を持つ事は申す迄もない事で「幼児の心身の発達を助長せしむる」為め欠く事の出来ない重要性を持つて居ります。
子供は戸外の遊びを喜び、殊に他処に連れて行つてもらう事は何よりも嬉しい事なのであります。恵まれた環境・完全な設備の幼稚園の中で如何に立派な保育がなされて居るとしても、より良い心身の発達の爲めに又健康保育の目的の爲めにも園外保育は是非とも必要なものであります。
幼児を園外に連れ出すことによつて、社会生活の観察や、社会道徳の実践をする事が出来ます。
当園では特に園外保育を重要と認めて四季を通じて度々多く実施いたして保育の不備を補う事に致して居ります。
当園に於て特に園外保育の重要な理由
1 当園の施設から見て
○小学校に併設されて居るので専用の庭園を持たない。
○運動場が狭いので砂場を設ける場所がない。
○運動場の周囲に自然物が少ない。
2 家庭の地域環境から見て
○交通繁華な都心にある為に自然に接する機会がない。
○家庭は商家が多く幼児の教育に関心を持つ暇が乏しく郊外に連れて行く事が少ない。
○附近に自由に遊べる広場がない。
右の事情にある当幼稚園では子供達が大空の下に大地をかけ巡り、四季の自然観察・動植物の観察等自然に親しむ機会を園外保育によつて充分に与え度いのであります。
昭和二五年度 年次計画表 |
月 日 | 目的地 | 目 的 | 方 法 |
四月初句 | 愛宕山 | ○園外保育の基礎をつける。 ○先生、友達と親しむ。 ○桜の花の観察 ○春景色の観察 | 集 合 校 庭―九時 出 発―九時半 徒 歩―十五分 帰 園―十一時 |
四月下旬 | 明治神宮外苑 | ○一日を楽しく過す。 ○保護者との親睦をはかりこれからの外園保育の場所を示す晩春の自然の観察。 | 集 合 校 庭―九時 出 発―九時半 地下鉄虎の門―青山一丁目迄利用 帰 園―一時半 |
五月中旬 六月初旬 | 日比谷公園 芝 公 園 | ○附添なしでおべんとう持つて出かける事 ○事故なく行く事。 ○電車通りを行く時の躾の基礎をつける。 | 集 合 校 庭―九時 出 発―九時半 徒 歩―二十分 帰 園―一時半 |
六月下句 | 明治神宮外苑 | ○初夏の自然観察。 ○乗物を利用する場合の躾の基礎をつける。 | 集 合 校 庭―九時 出 発―九時半 地下鉄虎の門―青山一丁目利用 帰 園―一時半 |
七月初旬 | 日比谷公園 | ○珍らしい遊具によりたのしく遊ぶ。 ○夏になつた事を感じさせる | 集 合 校 庭―九時 出 発―九時半 徒 歩―二十分 帰 園―一時半 |
七月中旬 | 同 右 | ○水遊びのたのしさを味わい自分の身のまわりの始末をさせる。 | 同 右 |
九月中旬 | 明治神宮外苑 | ○虫取り等により自然の中で一日を元気に過す。 | 集 合 校 庭―九時 地下鉄虎の門 青山一丁目迄往復 利用 |
九月下旬 | 井の頭公園 | ○保護者の親睦をはかり一日をたのしくすごす。 ○珍らしい自然文化に接し見聞をひろめる。 | 集 合 校 庭―八時半 出 発―九時 国鉄新橋―吉祥寺間利用 解 散―二時半 吉祥寺駅前 |
十月初旬 | 日比谷公園 | ○遊具によつてたのしく遊ぶ。 ○公共物の取扱方の躾をつける。 | 前に同じ |
十月中旬 | 上野動物園 | ○動物の生活を観察し動物愛護の精神をつくる。 | 集 合―九時 出 発―九時半 地下鉄虎の門―上野間往復利用 帰 園―一時半 |
十月下旬 | 稲田登戸 | ○秋の自然山の登り等を味い保護者と共に一日をたのしくすごす。 | 集 合 新宿駅前―九時 小田急 小田原急行新宿―稲田登戸間往復利用 解散二時 新宿駅前 |
十一月初旬 | 明治神宮外苑 | ○四季のうつり変りを感じさせ秋の收穫の喜びを感じさせる。 | 同 前 |
十一月中旬 | 日比谷公園 | ○一日をたのしく遊ぶ。 | 同 右 |
十一月下旬 | 上野動物園 | ○同 前 | 同 前 帰 園―二時 |
註 十二月以降は寒さに向う折計画出来ない。
明治神宮外苑行の園外保育に於てはその時々の自然の観察と共に一年を通じて度々行く事によつて四季の
移りかわり(特にいてふの葉)を子供に味わせる事が出来ると思う。
(『幼児教育』第四号 昭二五)
【付記】交通繁華な都心で、しかも児童数の多かった頃の小学校との併設のため、幼児にふさわしい環境が与えられにくいことから積極的に園外での保育を実施し経験を豊かにさせている。