第一章 維持方法
第一條 麻布庶民夜學校ハ從來府立ニ屬セシ所這回區會ノ決議ニ因リ明治十四年七月ヨリ之レヲ當區公立小學
則チ麻布南山飯倉ノ三校ニ分離繼續シ各其附屬トナス
第二條 夜學ノ校務ハ各其所屬本校校務委員ノ兼任トシ經濟上ノ事項ハ當區公立學校維持條例ニ依リ之レヲ整
理ス
第三條 夜學校名稱ハ自今左ノ如シ
麻布小學附屬庶民夜學校
南山小學附屬庶民夜學校
飯倉小學附屬庶民夜學校
第四條 夜學ノ教科書及ヒ器械等若シ不足ナルトキハ其所屬本校ノ書籍備品ヲ以テ兼用スルモノトス
第五條 夜學ノ教員ハ各其所屬本校ノ教員中當分二名乃至三名ヲ撰拔シテ之レニ充ツ但シ其給料ヲ附與シ或ハ
慰勞金ヲ贈付スル等ノ件ハ更ニ屬者被囑者ノ結約スル所ニ任ス
第二章 規則
第六條 夜學校ハ晝間業務ニ暇ナキ者ニ工商二科ノ端緖ヲ教授スル處トス故ニ晝間就學シ得ベキ者ハ入學スル
ヲ許サス
第七條 夜學ノ生徒タラント欲スル者ハ其父母或ハ傭主等ヨリ入學ノ手續ヲナスベシ但シ女子ハ當分入學ヲ許
サズ
第八條 課業時間ハ每夜三時間トシ起業時間ハ夜ノ長短ニ因リ斟酌スベシ
第九條 生徒ノ昇校ハ起業時間十分前トス且ツ其昇校及ヒ參不參ハ適宜製表等ヲ以テ嚴ニ之レヲ調査シ不審ノ
事アレハ教師ヨリ其父母或ハ傭主等へ通知スベシ
第十條 一科タリトモ卒業ニ至ル者ハ每ニ試驗ヲ行ヒ合格ノ者ハ一科ノ卒業證書ヲ與ヘ置全科卒業ニ至テ全科
ノ卒業證書ト引換ユベシ
第十一條 校中ノ物品ヲ破毀スル者ハ其狀ニヨリ償却セシム
第十二條 生徒授業料ハ其意向ニ任シ或ハ無料就學ヲ許ス但シ第十五條第二項目以下ノ科業ヲ學ブ者ハ五錢ヨ
リ少ナカラサル月謝金ヲ納ムルモノト定ム
第十三條 休業定日ハ每日曜日各月十四日月末ノ一日トシ歳末ハ十二月十四日ヨリ翌年一月十五日迄暑中ハ七
月十一日ヨリ八月三十一日マデ休業スト雖モ時宜ニヨリ斟酌スル事アルベシ
第三章 教則
第十四條 生徒ハ年齡大凡十二年以上トシ在學ノ期ヲ三年ト定ム
第十五條 學科ノ課程ヲ分ツテ左ノ三項トシ先ツ第一項ノ大略ヲ學ハシメ而シテ後チ其望ミニ應シ第二項或ハ
第三項ニ移ラシム作文習字ノ如キハ假令第二項第三項ニ移ルモノト雖トモ第一項中ヲ勘酌シテ授クルモノトス
但シ第一項課程ノ學力ヲ有スルモノハ此限ニアラス
第一項
講讀 小學商業書 東京府地誌 日本地誌 日本歷史 簡易經濟書
口授 萬國地誌 簡易物理談 養生說
算術 八算見一 相場割 利息算 平均算 損益算 差分
四則混用算及多數ノ寄引算
習字 名頭 改正消息往來 改正商賈往來 番匠往來
作文 諸鐙書式 送狀受取爲檢手形 約定書ノ類 普通手紙文 公用文
電信文 積書
以上商工科ヲ偏セズ一般學フベキモノトス
第二項 〔略〕
第三項 〔略〕
第十六條 講讀ニ用ユル書籍中未タ適當ノ書ナキモノハ原書中ヨリ譯出シ之レヲ授ク
第十七條 算術ハ和算ヲ授リ寄引算混用算等ハ特ニ熟鍊セシムルヲ要ス 但シ生徒ノ望ミニ任セ洋算ヲ交ヘ授
クルモ妨ゲナシ
第十八條 口授ハ日常適切ノ事ヨリ漸次高尚ノ事ニ及ブベシ修身物理養生談ハ良書ニ就キ或ハ實跡ヲ擧ゲ之レ
ヲ解說シ萬國地誌ハ地圖地球儀等ニ就キ各國ノ位置都府開港場及ヒ人口物産等其要領ヲ授ク細密ニ捗ルヲ要
セズ
第十九條 習字ハ漸次細筆速冩ニ及ボシ作文ハ日常要用ノ文ヲ撰ヒ之レヲ授ケ傍ラ文談ヲナスベシ
第二十條 實地演習ハ郵便電信及ヒ銀行等ノ各局ニ分ケ生徒ヲシテ既ニ學ビ得タルモノヲ實地商業上ノ取引ニ
擬シ活用セシム故ニ諸課ヲ率リタル後チニアラザレバ之レヲ授クルヲ得ズ
(都公文書館資料)
【付記】学齢期にありながら、就学しない児童が半数を数える状態のため、明治十年、五校の「商業夜学校」が公立小学校内に設立された。明治十二年にこの「商業夜学校」を廃止し、府立の「庶民夜学校」として、麻布区飯倉学校が設立された。明治十四年に、府立から麻布区立となり、麻布・南山・飯倉の三校に分離し、各その附属となった。