第一節 總 論
各教科教授に關シテハ法令ノ明示セラルヽ所ト敢テ異ナル所無シト雖モ教授ニ際シテ其ノ要點トスル所ハ大凡次ニ述ブル點ニアリ
各教科何レノ教授ニ際シテモ教材ハ兒童ノ心身發達ノ程度ニ適應セシメ實際ノ生活ニ必須ナル事項ヲ選ビ努メテ各教科ノ聯絡ヲ計リ道徳的ニ關スル事項ニハ特ニ重キヲ措キ教科ノ多キヲ望マズ可成小單元ニ區分シテ然カモ確實ニ収得セシムル方針ヲ採レリ勿論其方法ニツキテハ注入開發鍛練活動何レヲ採ル場合モアルベシ又一時間ノ中ニ開發的ニ教フル所或ハ大ニ鍛練主義ヲ採用シテ練習スルコトモアリサレバ何レニモ偏スルコト能ハズ要スルニ以上ノ主義ヲ適當ニ配合シテ始メテ完全ナル實地授業ト稱スルヲ得ベキナリ故ニ本校ニ於テハ何レノ主義ニモ偏スルコト無シト雖モ兒童ヲシテ可成活動セシメ復習及練習ニ重キヲ措キ事情ノ許ス限リニ於テ個性ノ發逹ヲ助長シ以テ教授ノ目的ヲ達スルコトニ努ム以下各教科ニ分チテ其ノ主義方針及教授ノ方法並ニ實績ニツキテ聊カ述ブル所アルベシ
第二節 各 論
第一項 修身科
一主義方針
本科ハ教育勅語ノ御趣旨ニ基キ兒童ノ徳性ヲ涵養シ道徳ノ實踐ヲ指導スルヲ以テ主眼トス卽チ十分ナル品性ヲ確立セシメ道徳上ノ例話及作法等ニ關スル知識ヲ以テ諸般ノ場合ニ應シ適當ニ實行スル方法ヲ會得セシメ徳性ノ涵養ニハ心理的基礎ヨリ道徳的感情判斷並ビニ道徳的意志ノ練習ニ重キヲオク
二方法
(一)勅語及詔書ノ取扱
勅語及詔書ヲ小學兒童ニ授ケ聖旨ノアル所ヲ奉載シ現今及將來ノ處世上ニ資センガタメ本校ニ於テハ初學年ヨリ稍々順序的ニ授ケテ尋常六學年ニ終了スルノ最モ適切ナルヲ信ジ考案配列スルニ至レリ以下各學年ニ分チテ其取扱ヒノ大要ヲ述ベン
〔略〕
(二)教科書ノ取扱
イ 例 話
例話ハ道徳實踐ノ方法ノ模範トナリ徳性涵養ノ根據トナルモノナレバ可成兒童化シテ教授ス
ロ 教訓及格言
教訓ハ例話ヨリ抽出シテ兒童ノ實踐ニ適合シ得ル樣努メ可成適切ナル格言ニ導キ日常ノ動作ニ資スル所アラシム格言ノ標準ハ平易明確兒童ヲシテ感奮興起セシムル力アルモノヲ選擇シテ之ヲ記憶セシム
(三)偶發事項ノ取扱
偶發事項ハ其ノ效果極メテ偉ナルモノナレバ是カ取扱ニ於テハ寧ロ教科書以上ノ注意ヲ拂ヒ最モ適切ナル要旨ノ下ニ適當ナル說語ヲ案出シテ各擔任ヨリ各級兒童ニ或ハ校長ヨリ全校兒童ニ訓話ス
(四)作法教授
作法教授ハ繁雜ヲ避ケ主トシテ兒量相當ノ作法ニ習熟セシメンコトヲ期シ特ニ四學年以上ニハ左ノ教授ヲ配當セリ
要目 | 教授事項 | 要目 | 教授事項 | 要目 | 教授事項 | 要目 | 教授事項 |
姿 勢 | 立テル時 腰掛ケル時 座セル時 | 歩 行 | 室内廊下 (一人或ハ二人以上ノ場合) 戸外 (一人或ハ二人以上ノ場合) | 應 接 | 取次送迎座席 談話暇乞 進メ方 (包ミ方進メ方受ケ方) | 儀 式 | 勅語捧讀及君が代ヲ歌フ時ノ作法 慶弔ノ挨拶服装 證書ノ受ケ方 |
容 儀 服 製 | 頭髪襟帯、袴、外套、襟巻、靴下 靴等 | 言 語 | 呼掛及返事 人ト問答スルトキ 挨拶(朝夕外出時) 自他ニヨリ敬語ノ區別 | 物 品 授 受 | 學用品刃物團扇杖等 傘火鉢煙草盆、茶、コーヒ 菓子類料紙硯箱 | ||
敬 禮 | 普通敬禮 (立禮座禮) 逢遇ノ禮 戴帽持品途中廻廊階段等 諸種ノ場合 面前通過禮 | 出 入 | 教室 教員室等 客室 戸障子襖ノ開閉等 | 食 事 | 一般ノ作法 箸ノ上ゲ下ゲ 蓋ノ取リ方 椀ノ持チ方 食事前ニ手ヲ洗フコト |
第二~六項〔略〕
第七項 唱歌科
一主義方針〔略〕
二教授及ビ實績
1 基本教練
基礎教練ニ爲スベキモノ
イ 呼吸練習
ロ 發音練習
ハ 音階練習
ニ 音程練習
ホ 聽音練習
ヘ 拍節練習
ト 樂譜教授
〔略〕
ハ 音階練習
音階ハ音律ノ基礎ナリ兒童ノ腦裏ニ深ク印象セシムベキモノニシテ音階圖ヲ使用スルニシクハナシ教室ノ前面兒童ノ常ニ視線ノ注カルベキ位置ニ次ノ如キ音階圖ヲ掲ゲテ兒童ヲシテ不知不識ノ問ニ印象セシメントス音階音程練習ノ際ハ勿論成ルベク多ク音階圖ヲ利用センコトニ努メタリ其結果兒童ノ八音ノ特質ヲ感得シ音ノ高低ヲ確知シ發聲ヲ調整シ聽覺ヲ銳敏ニシ音程練習ニ資シ唱歌上ニ多大ノ效果ヲ見ルノ覺エタリ
音階練習ノ際特ニ注意スベキ點ヲ擧グレバ
(イ) 各個人ノ矯正ニ努ムベキコト
(ロ) mifasiノ上行ノ際ニ正確ノ音度ニマデ達セザル傾向アリfaノ音下行ノ際ニ高キニ過ギlasiノ音下
行ノ際低キニ失セントスル傾向アリ
(ハ) 音階ハ餘マリ强聲ヲ要セザルコト
(ニ) 極メテ愼重ナル態度ヲ要スルコト
(ホ) Cdurノミニ偏セザルコト
(ヘ) Sda唱法ヲ用フルト共ニア或ハナ音ヲ用ヒテ唱ヘシムルコト
(ト) 換聲法ニ留意スベキコト
(チ) 時ニ旋律ヲ構成シテ練習セシムベキコト
〔略〕
(『笄小学校教育梗槪』明三四)
【付記】笄小学校で明治四十三年に教育の梗概として学校教育全般に亘り細かく規程が示されている。その中に教科教授に関し、児童の心身発達に適応し、実生活に必須な事項を選び指導内容がしるされている。その中、修身科・唱歌科の二教科を例としてとりあげ 明治時代に、小学校教育が、徐々に充実していった教育方法・内容の実際を知ることができる。