愛宕中学校科学部の活動

                                 三C 細井 保治
 昨年五月二十七日校友会科学部が創めて組織されまして以来、私達科学部員は、この愛宕中学校の名を恥かしめない内容の充実した科学部を私達の手で築き上げようと只管努力を続けて参りましたが、何といっても創立間もない頃でありましたので、当時は真の同志もその数、十指を数える程度でありました。しかし私達は、「去ル者ハ追ワズ、来タル者ハ拒マズ」の心構えをもって、同好相助けて唯々内容の充実発展を計るのに全力を集中致して参りました。幸にして諸先生方の御力ぞえによりまして漸くその活動が軌道に乗り始めた今日、皆様方に私達の努力の跡を発表する機会をいただきまして、私達科学部員一同誠にうれしく思っております。
 それではこれから「気象班の活動」及び「洋傘修繕班の内容」に就いて少しお話致します。先月十一日から屋上にひるがえっている天気予報信号旗に就いては、皆様方も既に御存知の事と思いますが、これに関連して三B谷内君、三D平澤君からお話を願います。
 
 (一) 気象班の活動
                                 三B 谷内  茂
                                 三D 平澤  繁
 校友会科学部が創設されて間もなく、先生から、「科学部内に気象班というものを作って、屋上に天気予報信号標を掲揚して、実際に僕達で、毎日の気象を観測するならば、一般の人々の為にもなるし、又一方、この地域の気象上の特長を統計によってはっきり知ることが出来るし、私達自身の勉強にもなるがどうだろう。」と云うお話がありました。そこで私達は相談した結果、「それはよい。是非やろう。」ということにきまりました。
 それでは天気予報信号標はどのようにして屋上に掲揚されるかについてお話します。現在、気象班の班員は全部で二十二名おりますが、私達は、これを二名一組として、十一組を編成しております。そして、毎日順番に、一組ずつ当番をさだめて居ります。此の当番は、毎朝始業前三十分に登校して、その日の天気予報信号標も掲揚致します。此の信号標は、その日の、新聞又はラジオによる、最も新しい天気予報に基づいて、掲揚されるのでありますが、前のお話にもありました様に、旗布が十分ありませんので、先ずどの旗を掲揚すべきかを定めてから、色々の旗を組み合さなければなりません。
    〔略〕
 このようにして上げられた旗は、午前中屋上にひるがえって居ります。更に当番は、二時間目と三時間目の間の休時間を利用して、職員室から電話で、直接中央気象台へ電話をかけます。そして、明日の天気予報も聞きます。此の時聞く明日の天気予報は、その日の朝の、新聞ラジオによる天気予報より、更に新しい天気予報であります。そして三時限と四時限の間の休時間及び昼休を利用して、旗を適当に組み合せ、縫う所は縫って、正午に旗をとりかえます。従って、午後は、翌日の天気予報を示すわけであります。更に、午後四時になりますと、当番は旗を下します。このようにして、午前はその日の天気予報を、午後は明日の天気予報を、当番はその日の始業前三十分から午後四時迄、責任を以て、掲揚するのであります。勿論当番には、日曜も祭日もありません。唯黙々としてその責任を果すのであります。天気予報信号標は毎日どの様にして掲揚されるのか、については、これで一通りお分かりのことゝ思います。
 
 (二) 洋傘修理班の活動
                                 三A 安藤 義治
 今度科学部では洋傘修繕班を新しく作る事にいたしました。たゞ今、気象班から色々と気象の事について発表がありましたが、この様に、気象班の活動を、今後続けて行う為には、又更に発展させる為には、どうしても現在使っている品物を修理したり、或は新しい器具材料を購入しなければ成りません。たとえば旗について申上げますと、晴れた日だけ上げるのではなく、「雨が降っても」、「雪が降っても」、「暴風になっても」、一年中一日も欠かさず使用されるのでありますからどんな丈夫な布でも、何ヶ月かたつと切れ始めてまいります、勿論現在屋上に上つております旗は、先程の発表にもありました様に、上等の品ではありませんから、何れ破れたりする事が考えられます。いや、もう既に切れ始めているのもあります。それで、これ等を修理したり、その他必要と思われる器具材料を購入する費用を得る為に、私たちは、「科学部の事は科学部で」と、自主独立の意気を持って、洋傘修繕事業を計画したのであります。それで、私達が洋傘を選び出したのは技術がやさしく、又皆様方の洋傘を調べて見ましたら、三十本あるうち二十本の傘がどこかしらこわれているので皆様方自身も、大変お困りの状態を考えたからであります。
 調べて見ますと、町での修理費も仲々馬鹿にはならない事が分かりましたので、その修理費も市価の三分の一位の値段でやろうと思っております。例えば、骨一ヶ所折れた所を修理するのに、町では十五円いたしておりますが科学部では、五円でやる計画であります。今は、先生を店主として我々科学部員は全力を上げて修理の技術を練ってるところであります。どんな傘でも必ず立派にして、又見上げる様な傘にして返上いたすつもりでおります。これは、皆様方も学校側も又科学部も、皆んなの利益になる事でありますから、私達はこの計画を是非実行したいと思います。それで来週から毎週月曜日の放課後科学部員が、各クラスで受付ますから、その日が晴れていても、雨であっても、こわれた傘がありましたら、遠慮無く御持ち下さい。昔から「治にありて乱を忘れず。」と言って、平和のうちにも、常に乱世にそなえておく事が、政治の大きな問題の一つとされておりましたが、私達も天気の時にこそ雨の日を思って準備をしておく心構えを持ちたいものであります。
 一つ注意いたしておきますが、私達はまだ運針法の練習中なので、布の切れた傘は修理しかねますから、破れている所は各自のお家で直して頂きたいと思います。安い値段で、しかも責任ある修理をする科学部の事業に挙って御協力下さることを希望して私からの洋傘修繕班の内容についての御話を終ります。

(愛宕中学校校友会誌『若葉』一号 昭二四)