平成六年四月
港区教育委員会
第一、はじめに
・調査会設置に至る背景
(一) 港区立中学校をとりまく環境の急激な変化、とりわけ年少人口の減少等による小規模化の進行への対応の必要性。
(二) 中学校教育にかかわる改革(学習指導要領の改訂、学校週五日制、進路指導の改善等)への対応。
・調査検討事項
第二、港区中学校における現状と課題
一、定住人口の減少と年少人口の動向
定住人口の減少も著しいが、三十歳から三十九歳の世帯形成層人口の減少、少子化傾向とも相俟って、
年少人口の減少率は定住人口減少率を凌駕して、なお著しい。
二、幼児・児童・生徒数の動向
ここ十年間の幼児・児童・生徒数の減少について、平成五年の数字を昭和五十八年と比較をすると下の
ようになる。(上の数字が平成五年、下の数字と%が昭和五十八年からの減少数と減少率)
・幼稚園児数 六二二人、一二七三人(六七・一%)の減少
・小学校児童数 六六〇六人、六二一五人(四八・五%)の減少
・中学校生徒数 二八〇八人、二八七二人(五〇・六%)の減少
また、中学校段階の地域住民登録者数について比較すると、
・昭和五十八年の住民登録者数 七二一四人、
内港区立中学校在籍者数 五六四〇人(就学率七八、二%)
・平成五年の住民登録者数 四二六七人
内港区立中学校在籍者数 二八〇八人(就学率六五、八%)
となっている。
三、都市型生活の進展と社会の変化
少子化と子供の将来に寄せる親の期待の在り方、学校に寄せる地域や保護者の期待等について分析し、
豊かな体験活動の必要性、生涯学習の基礎づくりとしての学校教育の在り方について言及した。
四、港区立中学校の現状と課題
港区立中学校における生徒数減少が学校の活性化に与える影響、男女生徒数比率の不均等による学校生
活への影響について分析した。
また、区立中学校が取り組むべき課題として
○学習指導の充実による生徒の学力伸長
○家庭・地域社会の期待に応え、保護者や地域社会の信頼の強化
○適切な進路指導の改善による生徒の進路選択への援助
等が挙げられる。
第三、調査会における調査・協議の経過 〔略〕
第四、港区立学校の望ましい在り方を求めて〔別掲〕
第五、まとめ 〔別掲〕
(『特色ある中等学校教育についての調査会報告書の概要』)
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第四、港区立中学校の望ましい在り方を求めて
従来、各学校において創意・工夫する中で特色ある教育活動が行われてきたが、その一層の充実と今後の港区立中学校における実現可能な特色ある教育の実践に向けて、調査検討をしてきた結果を踏まえ、教育課程内に位置付けられる内容と教育課程外での学校教育にかかわる内容に分けて提言をする。
一、特色ある教育課程の編成と実施
(一) 望ましい学習指導についての在り方
ア、子供から大人へと発達する中学生の段階においては、個性の発達がより顕著になり、個性に応じた教
育の実施が望まれる。
このために、ティーム・ティーチング、選択履修幅拡大等の指導方法改善の研究が実施されていると
ころである。
これらの機会を積極的に利用して生徒の個性の伸長や多様な学習指導への要望に応えていくことが大
切である。
そこで、研究協力校や研究奨励校の充実を図るとともに、本区独自の特別研究生(教育研究員)制度の
充実について検討する必要がある。
イ、生徒の個性を生かすには、確かな生徒理解に基づいて、生徒一人一人の持ち味や優れた点を発見して
伸ばしていこうとする視点に立ちながら、一人一人を温かく指導することが大切である。
このためには、教師の資質や指導力の向上も求められるが、この実現のためには。港区教育研究会等
における授業研究を中心とした研究の充実が望まれる。
ウ、教員や嘱託員の定数については、東京都としての基準があり、港区独自の定数基準の設定が難しい。
しかしながら、学校教育活性化のためには、現在、各学校で活用されている外国人指導者の人数や時数
の拡大、地域の人材の積極的な活用の例のように補助的な指導者を活用することが望ましい。
一例として、特技を持つ人材を登録しておき、港区教育委員会独自の非常勤職員として導入し、各学
校の要望に応じて派遣するなどの制度について検討する必要がある。
エ、個別化の学習、個性を生かす学習、コンピュータ活用の学習等のような特色ある学習内容・学習方法
をより一層具体的に進める必要がある。
特にコンピュータの技術革新には目を見張るものがあり、教員も研修を重ねているところであるが、
さらに十分なものにしていくことが大切である。
したがって、コンピュータの活用については、その研修体系を確立し指導力のある人材を育てること
が望まれる。
また、これらの研修の講師として外部からの人材の導入も考えられる。
オ、小学校の教員は中学校の学習内容について案外無関心であり、同様に中学校の教員は小学校の学習内
容に無関心である、という傾向がある。また学習指導上における小・中学校の連携という点から考える
と、小学校、中学校はそれぞれの完結性を持った学校としてとらえられ、小学校六年間と中学校三年間
の学習においての連続性や継続性についての認識がうすい。
このためにも小・中学校の教員がお互いに授業参観するなどの交流を図り、お互いの学習内容、指導
法、あるいは児童・生徒の発達段階や各学校の取り組みを確認・理解し、相互の連携をより深めること
が望まれる。
(二) 港区の特色を生かした国際理解教育の推進
ア、外国人英語指導者の活用によって、ヒヤリング、スピーキング等の能力が向上し、また、外国人との
交流が円滑に行えるなどの点が顕著になった。
特に、港区においては、小学校段階でも、国際理解教育推進の立場から外国人指導者を派遣しており、
小・中学校の継続性を大切にすることが望ましい。
これらの点に鑑みて、今後とも授業の中での外国人英語指導者の派遣事業の積極的な活用はもちろん、
部活動等での積極的な活用まで拡大・充実していく必要がある。
イ、各中学校の学校行事等に区内在学・在住の外国人中学生を招待したり、外国から来日した生徒との交
流会を開いたりすることは、国際理解教育推進の上からも意義がある。
これらの機会を拡大・充実させることが望ましい。
(三) 学校行事と小・中学校の連携の在り方
ア、区立中学校の種々の学習成果の発表の場は、当該学校の保護者や地域に発表されるくらいである。
そこで、これらの機会を活性化するために、区内の弁論大会、研究成果の発表会、ボランティア体験
発表会、生徒会交流会等の生徒の地道な活動に光を当て、広く区民にも理解してもらい、これらの活動
を称揚する場面を設定することが望まれる。
イ、港区立中学校全三年生を対象に実施している音楽鑑賞教室は、情操教育の推進に多大な貢献を果たし
ているところである。
一人一人の生徒の豊かな心を育てるためには、現在港区教育研究会音楽部会で主催している港区立中
学校音楽交歓会を生徒の学習成果の発表の場とし、さらに充実・発展を期することが望ましい。
ウ、地域の学校間の音楽発表を通した交流会、合唱コンクールへのPTAの賛助出演等、地域に根ざした創
意ある取り組みがなされている例がある。
これらが発展すれば、地域の音楽祭として小・中学校と地域が一体となった特色ある活動になる可能
性を持っている。
このためには、これらの活動への支援体制の確立を図る必要がある。
エ、生徒数の減少により各中学校においては、余裕教室も増え、その有効活用が望まれる。
その一例として、ミニギャラリー等を設置することが考えられる。
ここに生徒の作品を展示し、小・中学校間及び各中学校間において鑑賞しあうことにより、各中学校
間の交流を図り、相互の励みになるようにすることが望まれる。
オ、様々な学校行事の中でも、運動会は小・中学校合同での実施が比較的可能な行事である。
港区のように児童・生徒が減少していく中では、多くの児童・生徒の参加が得られたり、地域に開か
れた学校行事という視点から考えると、小・中学校合同の運動会も新しい試みとして具体化が望まれる。
(四) 港区立中学校における進路指導の在り方
ア、今日の高学歴志向の風潮の中で、中学校における進路指導が、ともすれば高等学校への進学指導であ
るという狭い概念でとらえられていた側面があった。
このことが、ひいては中学校入学段階からの私学志向に拍車をかける一因ともなっている。
そこで、港区立中学校における進路指導は、一人一人が自分を知り、生きがいを見い出しその実現に
向かって進むことができる主体性を育成することにあるという進路指導の原点に立ち返る必要がある。
イ、上記の点を踏まえて、各学校における進路指導計画を点検し、学校や生徒・保護者の実態を踏まえた
適切な進路指導が行われているかどうかを再確認する必要がある。
そして、生徒が自分を生かす進路を主体的に選択できる能力を、各教科、道徳、特別活動等を通して
育成していくことが大切である。
ウ、各中学校における多くの保護者の関心は、個性を生かした人間としての生き方の進路指導よりも、高
校への進学指導や入学状況に関心が向きがちである。
そこで、区立中学校においては、一人一人に応じた校内の進路相談体制を充実して、生徒や保護者の
希望や期待に応えるとともに、適正な進路指導にかかわる情報を収集し、それを生徒や保護者にも提供
していかなければならない。
二、地域に根ざした中学校を目指して
(一) 港区立中学校の良さのPR
学校に対する多様な価値観をもつ住民の増加により、地域の子供が区立中学校にそのまま入学するという
時代ではなくなってきた。そこで、区立中学校であっても、地域住民に区立中学校の特色や現状を知っても
らう努力をする必要がある。そのためには、次のようなPR活動が考えられる。
ア、港区が発行している広報『みなと』の紙面やケーブルテレビジョンを活用し、区立中学校の施設・設
備、学習の様子、学校行事等を時期に合わせて紹介する。
イ、区立中学校の施設・設備、学習や学校行事等を紹介するビデオを作り、区立小・中学校・図書館・区
立施設等で放映や貸出しをして紹介する。
ウ、区立中学校全体の概要を掲載したパンフレットを作り、幼稚園・小学校・中学校の保護者を対象に配
布し、区立中学校の状況を提供する。
(二) 地域及び行政との連携の在り方
ア、学校行事に地域の人たちが参加できるような催し物を工夫し、地域の人々が親しみを持てるような学
校づくりに努力する必要がある。
また、地域には外国人も多く居住し、伝統工芸等のいろいろな才能や特技等を持った人材が多数いる
と思われる。そこで、登録制による人材センター的なものを設立し、学校教育への協力を得ることが望
まれる。これらの人材を得て、港区立中学校の活性化や多様化を図ることが大切である。
イ、学校が地域に開かれるには、地域の人々が学校に入ると同時に、学校もまた地域に出る必要がある。
その一例として、教職員の才能を生かした成人学級・講座等の社会教育面での指導者として参加し、
学校が持つ専門的能力を地域に提供する等も考えられる。
ウ、これらを実施するにおいては、学校、地域及び行政とが連携を深めて、それぞれの立場から協力をし
て有能な人材を得て学校の活性化に資することが大切である。また、「ふれあい講習会」のような障害
のある人々との交流の機会を得て、豊かな心、温かい心を育てることが大切である。
(三) 地域に開かれた学校としての施設・設備の在り方
ア、中学生に対して、地域の人々との触れ合いの大切さの意義を分からせ、将来の地域の一員としての自
覚を持たせることは大切なことである。
これらの意義を踏まえて、地域の人々との触れ合いの場の提供や行事の計画等に創意工夫をすること
が求められる。
イ、余裕教室を生徒の学習資料室的な活用の他に、社会教育的な場としての活用が考えられる。
特に、中学校が地域のコミュニティセンター的な役割を果たしていくことは、生涯学習社会の発展に
とって大切なことである。
ウ、教室を多機能的な施設、例えばオープンシステムへの対応やティーム・ティーチングヘの対応ができ
るような施設としての活用が求められる。
そのためには、教室の広さが弾力的に変えられたり、パーソナル・コンピュータが使いやすいところ
に用意されているなど、各校の指導上の工夫に応じた施設づくりが大切である。
エ、今後の学校づくりとしては、学校教育では指導の個別化、学習の個性化等による学習者の多様なニー
ズへの対応、また生涯学習の観点からは人々が自主的・主体的にいつでも、どこでも学習できるような
環境づくりが求められる。
このような要求にも応えられる、高度の情報通信機能と快適な学習・生活空間を備え、地域共通の生
涯学習、情報活動の拠点としてのインテリジェント化された学校づくりを推進する必要がある。
(四) 部活動の在り方
ア、区立中学校における小規模化の進行に伴って、指導者がいないことや、一校でチームを構成する人員
がいないなどのために、部活動の実施が難しくなり、生徒の多様な要望に応えられない状況がある。
そこで、部活動を隣接校と合併することや一つの部活動を拠点校化して活動内容の充実を図るなどの
取り組みを進めること等も考えられる。
イ、社会教育・社会体育・部活動が一体となり、部活動の指導者の確保を図ることが大切である。
そのためには、関係機関との連携を図り、これらの可能性についても積極的に検討する必要がある。
ウ、中学校の部活動においては、体育系の部活動だけではなく、文科系の英語部、コンピュータ部、音楽
部、生産系の栽培部、勤労奉仕的なボランティア部等の多様な部活動の意義を考え、学校の特色を生か
した部活動の在り方を追及することも大切である。
(五) 教職員の資質の向上 〔略〕
(六) 海外派遣研修の充実について 〔略〕
第五、まとめ
―港区立中学校の諸課題の解決にむけて―
これまで述べてきたように、年少人口の減少による中学校の生徒数の減少は、港区ばかりでなく東京都の一般的な傾向であることは言うまでもないことである。
このために、中学校の小規模化が振興し、学校経営上でも様々な支障をきたし、その対応に苦慮する中学校が増えてきている。すでに中学校の適正規模、適正配置を図るために学校統廃合についての取り組みを始めた区市もある。
港区立中学校は、昭和四十四年の北芝中学校と愛宕中学校の統合によって、御成門中学校が誕生して以来、四半世紀に相当する期間にわたって、十一校体制が維持されてきた。この間都市化の進展の著しい本区において、集団教育効果を補うための創意工夫などをする中で、この体制の維持に努めてきたところであるが、このことに関係者の港区立中学校に対する愛着と期待の深さを感じとるのである。
しかしながら、これらの努力や期待とは裏腹に、定住人口の減少率以上に学齢人口の減少は著しく、これに加えて学区域に存在する学齢児童のうちの区立中学校への就学率が低下するという問題も生じてきた。港区は従来より私立学校が多く存在し、かつ交通も便利なことから私立学校への志向が強い傾向にはあった。これに、近来の私立志向の風潮や諸々の理由によって、先にも述べたことではあるが学区域の中学校学齢期相当の住民の港区立中学校への就学率の低下が見られるようになったのである。
昭和五十年代から六十三年までは、学区域の中学校生徒の学齢相当住民の七〇%台が区立中学校に在籍していたが、平成元年以降六〇%台となり、平成五年度には六五・八%となっており、地域によってはようやく過半数を維持するという状況も見られるようになった。
また、私立志向は女子生徒に強く見られることから、女子の就学率の低さも学校運営上問題となっている。女子には厳しい高校受験を回避させたいという保護者の要望や、公立中学校の生活指導に対する不安があるのか、女子の区立中学校への就学率の低さが目につくことである。
これらの状況を踏まえて、種々の調査を行い、協議を重ねてきたところである。調査・協議を進める中で様々な問題点が明らかにされ、焦点化がなされた。問題点が浮き彫りにされても公立中学校としての制約や限界という壁は厚く、様々なアイディアや方策を考えたにもかかわらず、この壁の前に引き返さざるを得ない思いをしたことがたびたびあった。
この制約や限界を踏まえつつも、公立中学校としてできうる限りの努力をしようと考えたのが、本文の「第四、港区立中学校の望ましい在り方を求めて」の部分である。
すなわち、国や都における教育施設や教員定数の基準を踏まえつつ、港区立中学校の望ましい在り方について議論をして、まとめたものである。
公立中学校の望ましい在り方について、議論をすれば限りがないであろう。
公立中学校には、多様な人生観や価値観をもつ保護者のもとに育つ生徒、様々な学力の差の生徒が入学するからである。このため、公立中学校には多様な価値観をもつ生徒、様々な家庭環境の生徒が在学し、中学校に期待すること、中学校への要望も多種多様である。
言葉を換えて言えぼ、公立中学校の特徴は様々な個性や能力をもつ生徒が通学してくるということである。さらには、生徒一人一人の個性や能力を伸ばす多様な教育を行うところにこそ公立中学校のよさがあるのではないか。極言するならば、これが本調査会の結論とも言えることである。本文の「第四、港区立中学校の望ましい在り方を求めて」の提言の根本も、この点に集約できる。
すなわち、生徒の多様な個性や能力を生かすための教育課程の編成、実施及び教育課程外の取り組みを行っているところであり、このような港区立中学校の教育への取り組みをいかにして区民に知ってもらい、区立中学校の正しい評価を得るかという視点からの提言である。これらの視点を踏まえて提言の趣旨を生かし、港区立中学校の活性化を図ることが学校及び行政に求められることである。
ところで、平成元年十二月の東京都港区立学校適正規模等審議会の答申(以下、「適正規模審答申」という。)によれば、港区立中学校の望ましい学校規模として学年当たり三学級確保し、全学年で九~十八学級程度が望ましい規模とされた。平成元年度当時、望ましい学校規模とされた学校が十一校中七校であった。これが平成五年度には、わずか三校という状況になっている。
また、適正規模審答申の中では学齢人口の減少下にある都心区ではある程度の小規模化はやむを得ない事態と認識し、その特性を踏まえ、港区における小規模校としてのガイドラインを、様々な事情を勘案して次のように規定した。
すなわち、学校規模としては安定して二〇〇人程度の生徒が確保できる規模であること。また安定して全学級が少なくとも六学級であることとされた。
このことの背景には、生徒間の人間関係や教育的な配慮などから学年における単学級を極力避ける意図があったと思われる。平成元年当時。この小規模校に該当すると思われる学校が二校あったが、平成五年度には小規模校のガイドラインとされた六学級を下回る五学級編成となる状態も生じてきた。また、学級数は六学級あるものの生徒数が二〇〇名を下回る一六〇余名という状況の学校も出てきた。
この他にもいわゆる小規模校に近い二五〇名以下の生徒数の中学校が、過半数近くを占めるようになった。
このように港区立中学校が小規模化へと進行する状況の中では、適正規模審答申の小規模校のいわゆるメリット、デメリットについて言及した部分について想起せざるを得ない。(適正規模審答申の「Ⅲ望ましい学校規模と通学圏・地域性を配慮した学校配置」中のP二四~三七の部分)
この部分では、小集団の中での教育上の利点は認めながらも、思考力・創造力の育成、自己と他者との関係等の人間関係における認識、学校行事の盛り上がり等々に欠けること、学校経営の面からの困難状況等が指摘された。
すなわち、中学生という年代は、発達段階から考えても視野の広がり人間関係の広がりや思考の広がりが見られる年代である。これらの年代において狭い人間関係の中では豊かな人間関係は育ちにくいと考えた。
中学生という青年前期にさしかかる時期の発達段階から考えたとき、多くの級友と出会い、多くの教師と出会うことは大切なことである。つまり、多くの人と出会うことにより触発され、刺激されて自らを高め向上しようとする意欲をもつことはこの時期の特徴である。
小規模、少人数の学校は人間関係が深まり、指導する教師の目が行き届きやすいという利点がある。しかし、多くの人と出会い触発、刺激を受けるという多人数の中での学校生活というのも、生徒にとっては大切な要素ではないかと思われる。
これまで、港区立中学校教育においては、小規模、少人数に見合った効果的な教育の創造を目指して努力しているにもかかわらず、ますますの小規模、少人数化が進行するならば、教育効果の面からも憂慮される状況が進行しているのは明らかである。
提言の趣旨に基づいて、港区立中学校の活性化を図るために努力することは言うまでもないことである。しかしながら、現状では港区立中学校十一校を維持しつつ生徒数を増やしその活性化を図ることは、港区の人口の動向を考えたとき非常に困難な課題である。
これらを勘案すると、二五年間も維持されてきた港区立中学校十一校体制であるが、極端に小規模化しつつある学校については上述の適正規模審答申の趣旨を踏まえて、より充実した教育環境確保のための対応策を講ずることは避けて通れない課題となってきていると言えよう。
戦後の学制改革の時期において、まさに焼土の中から新生日本の担い手を育てようとして、新制中学校が発足した。地域の中学校として確立され、地域の学校として育てられてきた経緯を考えると、今日の状況は寂しいばかりの限りである。これらの港区民の区立中学校への愛着と期待の深さを考えたとき、本報告書の提言の実施に取りかかり、港区立中学校の活性化を図ることが求められている。
(『特色ある中学校教育についての調査会報告書』平六)