芝区の身体虚弱児の指導

大正十三年九月二十四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　文部大臣官房長學校衞生課
　東京府内務部長殿
　　身體虚弱兒童取扱ニ關スル件
本年一月二十五日附子學四四九〇號外二四ニ渉リテ御報告相成タル標記調査物ハ大部分二通有之タルヲ以テ重複ノ分別紙返戻候也
　
　　身體虚弱兒童取扱ニ關スル件
麻布區ニハ特別施設ノナセルモノ無シ
　
　　身體虚弱兒童取扱ニ關スル件
赤坂區ニハ特別ノ施設ノナセルモノナシ
　
　　　身體虚弱兒童取扱ニ關スル報告
一、學校名　　　　　　　　　　　　　　東京市芝尋常小學校
　　所在地　　　　　　　　　　東京市芝區三田四國町二番地
二、身體虚弱ト認メタル兒童數
年　齡七八九一〇一一一二一三一四計
兒　童
身體虚弱ト認メタル兒童數男二六一二一八一一一〇九一一八八
女二九一五二二一〇一八一〇　　一〇四
在校兒童數男一四六一四一一五三一四六一三七一五七七一八八八
女一五七一二九一四三一四三一一八一四二三　八三五
前者ノ後者ニ對スル百分比男一七、八一八、五一二、七六七、五三七、三〇五、七三一四、二九一〇〇、〇〇九、九一
女一八、四七一一、六三一五、三八六、九九一五、二五七、〇四　　一二、四六

三、當該兒童ノ選定方法
　　大正十二年五月定期身體檢査ノ結果、槪評榮養丙ナル兒童ヲ學校醫ノ再檢査ニヨリ選定セリ
四、當該兒童ノ取扱方法
　　イ、擔任教員ニ於テ特ニ適當ナル戸外運動ヲ選ビ奬勵セリ
　　ロ、學科ヲ免除セル兒童ハナキモ兒童學習豫定遂行ニ關シテハ擔任教員ニ於テ適宜斟酌ヲナセリ
　　ハ、豫習、宿題ハ技能科ヲ除ク外免除ニ近キ取扱ヲナセリ
　　ニ、運動上ニ於ケル注意トシテ運動及ビ竸技ノ全部或ハ一部ヲ禁止セルモノ左ノ如シ
　　　　　高度貧血性ノモノ、ヘルニヤ、高度脊柱灣曲ノモノ
　　　　　心臟腎臟等慢性疾患ノモノ、癲癇等
　　ホ、肝油供給
　　大正十三年一月以降學校醫ト協議ノ上家庭ニ通知シ肝油ノ飮用ヲ奬勵セリ特ニ希望者ニハ之ヲ給與ス、給與セルモノ七名
五、經費
　　給與肝油五本、價格金六圓、兒童保護者會支拂
六、效果
　　體重ノ増加率ニ徴シテモ相當效果ヲ擧ケタルヲ信スルモ確タル統計ナシ
七、將來ノ計畫
　　從來虚弱兒童ニ採リ來リタル取扱ハ繼續ス
八、其他參考トナルベキ事項
　　イ、聽力、視力異常者ハ座席ヲ變更シ學習上都合ヨキ位置ニ居ラシム
　　ロ、呼吸器弱キ兒童ニハ當番等ノ作業ヲナサシメズ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
　　　　　　――――――――――――――――――――
　身鱧虚弱児童取扱ニ関スル報告
一、學校名　　　　　　　　　　　　　　東京市芝浦尋常小學校
　　所在地　　　　　　　　　　　東京市芝區新網町北十八番地
二、身體虚弱兒童數
年齡七八九一〇一一一二計
兒童
身體虚弱ト認
メタル兒童數		男一三七一三六三一四三
女一一一二二一三三四四五
在校兒童數男六九四八六六六八五五二〇三二六
女七三六三六九六六四八二四三四三
前者ノ後者ニ
對スル百分比		男一八・八四一四・五八一九・七〇八・八二五・四五五・〇〇一三・一九
女一五・〇一一九・〇〇二・九〇一九・七〇六・二五六・六七一三・一二

三、當該兒童の選定方法
　　東京市技師ノ榮養狀態體格檢査ニ依ル
四、取扱方法
　虚弱ナル兒童ノ原因ヲ種々ナル方面ヨリ長時日ニ亘リ調査セシニ先天的ニ父母ノ體質境遇等ノ影響ヲ受ケテ虚弱ニ陷レルハ極メテ稀ナリ、其主ナルモノハ後天的卽チ住居ノ關係(家屋ノ日當ノ善惡、居室ト換氣ノ良否、家族數ノ多少)幷ニ榮養狀態ノ良否生活ノ規律的カ不規律的カ、生活ノ安定ト不安定娯樂ノ適不適ニアルヲ認メタルヲ以テ學校ハ是等ノ原因ニ對シテ消極的ニ防止シ得ル範圍ニ於テハ極力防止ニ務メ、積極的ニ改善シ得ルモノニ對シテハ生活狀態ノ改善ヲ試ミツヽアリ。例ヘバ常ニ屋内ニアルヲ避ケ近接セル公園、海岸等ニ出デ新鮮ナル空氣ヲ呼吸セシメ或ハ生活ヲ規律的ニシ間食等ニ對シテハ適當ナル指導ト選擇方法、榮養上ニ關シテハ日々、東京市社會局ヨリ受ケル給食ヲ與ヘ榮養狀態ノ向上計劃ス。
　食料療法トシテハ以上ノ外ニ肝油ヲ一日四瓦乃至六瓦ヲ用ヒ榮養補給トシテ鶏骨スープニ葱・菜類ノ野菜ヲ多量ニ混入シタル、ウドンヲ給シ、ヴー〔ママ〕タミンA、缺乏ヨリ起ル夜盲症疥癬ノ類ノ病氣ヲ根絕セシメ得タリ。
　學科ニ關シテハ輕減シ又ハ運動方法等ニ特設事項ナシ學校家庭間ノ連絡施設トシテ調査シタル虚弱原因ヲ示シ學校ニ於テ取リ組メル方法ヲ充分了解セシメ共ニ協力シ、健康體ニ導キ日々家庭ニ於テ兒童ガ取リタル食事ノ主副食物、品目、數量等ヲ報告セシメ是レニヨリ其適不適ヲ注意シ併セテ指導ヲス特ニ選ビタル五十六名ノ兒童ニ對シテハ先ニフランス病院送リ種々ノ施設ノモトニ健康増進ノ方法ヲ講ゼリ、尚三週間每ニ體重、身長、胸圍ヲ檢査シ發育ノ經過ヲ具體的ニ調査シ適宜應變ノ處置ヲ取ル。
五、東京市社會局及内務省ノ經營ニシテ其出費額ハ不明ナリ。
六、效果ハ頗ルヨクピルケー氏榮養指數ニ依ルニ全クノ榮養不良虚弱兒童ハ殆ンド認メ得ザルニ至ル。
　家庭ト連絡ヲ取ルタメ家庭ニ於ケル榮養上ノ問題モ亦具體的改善シツゝアリ。
　將來ノ計畫トシテハ從來ノ方法ヲ尚一層科學的ニ自然的ニ研究シ繼續セシメ行カントス。
　兒童ニ保健衞生榮養上ノ知識、思想ヲ與ヘ得タル點家庭ニ對シ種々育兒上ノ方法ニ對シ具體的ノ貢獻ヲナシタル點身體ト成績ノ良否ニ關スル調査ヲナシタル點。
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　　　身體虚弱兒童取扱ニ關スル報告
　一、學校名　　　　　　　　　　　　　東京市白金尋常小學校
　　　所在地　　　　　　　　　　　　　東京市芝區白金今里町
　二、身體虚弱ト認メタル兒童數
年　齡七八九一〇一一一二一三一四計
兒　童
身體虚弱ト認メタル兒童數男一〇〇一三〇〇〇五
女一一〇〇〇二〇一五
在校兒童數男八九八九一〇五一二六一二三一一七三一六五三
女一〇六一〇九九六九二一一三一〇七八一六三二
前者ノ後者ニ對スル百分比男一、一二〇〇〇、七九二、四四〇〇〇〇、七七
女〇、九四〇、九二〇〇〇一、八七〇一〇〇〇、七九

　三、當該兒童ノ選定法
　　　體質不良兒　　發育槪評榮養共ニ丙ノ内特ニ虚弱ト認メタル者
　　　腺病質ノ者　運動ニヨリ症狀ノ増惡ヲ來ス者　結核性ノ者
　四、當該兒童ノ取扱方法
　　　運動上ニ於テハ體操時間ハ免除シ見學ヲナサシム
　　　學科上ニ於テ、宿題ヲ輕減又ハ免除ヲナス
　　　家庭ト學校ト連絡ヲナシ該兒童身體上ニ注意ヲナス
　五、本校ニテハ之ヲ行ハズ
　六、效果ニ於テハ年々虚弱兒童ノ數ヲ減ズ

(都公文書館資料)


　
【付記】大正十三年度における、港区地域学校の「身体虚弱児童の実態調査」報告書で文部省より返還された資料である。この報告書の中で、当時の学校でどのような該当児童を身体虚弱児童とみて選定したのかや身体虚弱児童の指導方法・経費や将来の計画などが詳細に記されている。