一 學校名 東京市都尋常小學校
二 全兒童數 一四三一名(男 七一五名 女 七一六名)
三 特別學級ニ編入スル兒童數 一七名(男 一〇名 女 七名)
四 兒童選擇ノ方法
1 學業成績 2 精神檢査 以上ノ二方法ニヨリ選擇シ、保護者ノ承諾ヲ得タル後ニ身體檢査ヲ行フ
五 編制方法及學級擔任
學 年 | 在籍兒童數 | 擔任教員 職氏名 | 仝上教員經驗趣味 | ||
四學年 | 男 五 | 女 四 | 計 九 | 訓導 岡本嘉之助 | 擔任者ハ兒童ノ研究ニ趣味ヲ有シ大正十一年該學級擔任以來特ニ、英米ノ原書ヲ參酌シツツアリ |
五學年 | 四 | 三 | 七 | ||
六學年 | 一 | 〇 | 一 | ||
計 | 一〇 | 七 | 一七 |
(備考 定員二十名ナルヲ以テ缺員ハ目下選擇中)
六 教科及教材ノ取扱法
1 學習材料ヲ低下シ、各自ノ能力ニ適應セル所ヨリ出發シテ教授ス
2 教材ハ量ノ多キヲ望マズ成ルベク愉快ニ且ツ確實ニ修得セシメンガタメ小分量ヅツヲ課ス
3 本學級ハ個人教授ナルヲ以テ、自學自修ノ態度ニヨリテ教授ヲ進ム
4 教材ハ出來得ル限リ具體化シ、直感ニ便ナラシメ以テ兒童ニ興味ヲ起サシメ、且ツ筋肉運動ニ訴ヘテ
作業化シテ取扱ハシム
5 自學ニ便ナラシメンタメ各種ノ教便物ヲ準備シ、又種々ノ玩具ヲ揃ヘテ、學習ニ疲勞シタル際自由ニ
遊バシム
七 效果ノ槪要
イ 精神ニ及ホセル影響
編入當時ハ元ノ學級ニ復歸シタキ傾向見エ多少意氣消沈セルヤニ見エシモ、次第ニ性質モ一變シ、小
供ラシク活發トナリ、態度モ發動的トナリ、彼等通有ノ沈欝的、沈黙的、受動的且ツ無氣力ノ風ハ漸
次ニ消失シ日々愉快ニ學習シツツアリ。彼等ノ最モ苦痛トスルコトハ友達ヨリ「促進」「促進」ト呼
バルコトニテ、實際ニ促進學級ヲ嫌ヘルニ非ルコトハ彼等ノ綴方ニヨリ明白ニ表ハル。
ロ 身體ニ及ホセル影響
本學級ノ兒童ハ學習ニ倦怠ヲ覺ユル時ハ屋外ニ出テ適宜ノ遊戲及運動ヲナシ、或ハ備付ノ玩具ニテ靜
ニ遊ブヲ以テ、自然ニ身體モ壯健ニ向ヒ從テ血色モヨクナリ動作モ活發トナリ、從來病氣ノタメ缺席
セシ者モ本學級ニ編入後ハ缺席ノ度數モ減少シ、或ハ全ク缺席ナク每日熱心ニ學習セル者モアリ。又
一方ニ於テハ嚴密ナル身體檢査ノ結果、視力ノ弱キ者ニハ眼鏡ヲ使用セシメ、耳、鼻、咽喉、齒牙等
ノ障害ニツキテハ適宜ノ處置ヲ講ゼシタメ、種々ノ刺激ニ對スル反應及活動ノ敏速圓滑ニ行ハルルコ
トニナリ。
八 學業成績ニ及ホセル影響
學習態度及ビ環境ノ一變セルタメ學力ノ進歩モ亦著シクナリ、殊ニ能力上ノ缺陥ヨリモ過去ノ教育取扱上
ノ缺陥ノタメニ、成績不良トナリシ者ハ急速ノ進歩ヲ示シ、原級ニ復シテ普通兒ト同一ニ學習シ得ル程度
マデ促進サレタルモアリ。又能力上ノ缺陥ヨリ來タリシ成績不良ナル者ハ原級ニ復サシメ得ルコトハ不可
能ニシテ、カカル兒童ニハ能力相應ノ程度マデ促進セシメ得ルヲ限度トセザルベカラズ。
九 其他參考トナルベキ研究、調査事項
1 研究
(イ)低能兒發生ノ原因に關スル事項
(ロ)低能兒ノ醫學的考察ニ關スル事項
(ハ)低能兒ノ教育的取扱ニ關スル事項
2 調査
(イ)家系ノ調査
(ロ)環境ノ調査
(ハ)每日ノ金錢使途ニツキ
(笄尋常小学校資料 昭三)
【付記】昭和三年、笄尋常小学校における学業不振児童に対して個別教授を施す目的で、特別学級の実態を東京市長に提出した報告書である。児童の能力に応じた個別教授を実践していた。