虚弱児童養護教育

   虚弱兒童養護教育ノ件通牒
昭和七年五月四日教發第六九四號伺出相成候標記ノ件
 右ハ伺出ノ通措置相成可然
 追テ右實施ニ關シテハ教育上ノ影響ヲ十分考慮シ萬遺漏ナキヲ期セラレ度
 (備考)
 一、目下東京市兒童中虚弱兒童二一、三七四人(一〇・五三%)榮養不良兒童九、〇二八人(四・四五%)ニ及ヒ
  之等兒童ノ養護教育上別紙具申ノ通熱海外氣學校ト協力シ職員兒童ヲシテ出張校外教授ヲ行ハントスルモ
  ノニ付本案ノ通通牒セントス
 
教育第六九四號
昭和七年五月四日
                            東京市長 永 田 秀次郎 印
 東京府知事 藤沼 庄平殿
   虚弱兒童養護教育ニ關スル件
本市小學校兒童中ニハ虚弱兒童二一、三七四人(一〇・五三%)榮養不良兒ハ九、〇二八人(四・四五%)アリ本市ハ養護學級ヲ設置シテソノ一部ヲ收容シ或ハ夏季衆落ニ依リテ健康増進ヲ圖リ又人工太陽燈ノ照射榮養給食肝油竝牛乳ノ服用等虚弱兒童ノ養護ニ力メツヽアル所ナルカ更ニ又熱海教育等ノ施設ニ依リテ虚弱兒童養護教育ノ可及的徹底ヲ期シ度キ方針ニ有之候就テハ今回別記熱海外氣學校ト協力シ左記ニ依リ校外教授ノ形式ヲ以テ虚弱兒童養護教育實施致度此段御承認相支度及稟請候也
     記
一、場所 靜岡縣熱海町咲見
二、本市ヨリ參加兒童付添訓導ヲ派シ外氣學校職員ト協力シ保健指導ニ當ルト共ニ尋常小學校ノ教育ヲ修メシム
三、參加兒童ハ每期三十名トシ左ニ該當スル者ノ中ヨリ選擇ス
 (イ)身長ノ割合ニ胸廓狹ク體重著シク少ナキ者
 (ロ)榮養丙又ハ乙ニシテ極メテ薄弱ナル體格ノ者
 (ハ)腺病質又ハ病氣缺席多キ者
 (ニ)病後ノ衰弱者
   但肺結核其ノ他傳染性疾患ノ疑アル者ヲ除ク
四、期日ハ三十日以内トス
五、保護者ヲシテ兒童一名一日ニ付金壹圓五拾錢也ヲ支出セシム
 
   外氣學校ノ施設槪要
一、目的 虚弱兒童並生徒ヲシテ海濱又ハ林間等ノ自然ニ親ミ易キ環境ニ置キ學習及規則的日常生活ヲ爲サシ
  メ以テ健康増進ヲ計リ體格ヲ根本的ニ改造セントスルニアリ
二、設備 白壁スレート屋根木造三階建洋舘ニシテ内ニ教室兒童休養室娯樂室食堂職員室温泉浴室ヲ設備ス
  各室ハ何レモ通風採光等衞生的條件ヲ具備ス
三、收容者
  イ、身長ノ割合ニ胸廓狹ク體重著シク少ナキ者
  ロ、榮養丙又ハ乙ニシテ極メテ薄弱ナル體格ノ者
  ハ、腺病質又ハ病氣缺席多キモノ
  ニ、病後ノ衰弱者
    但シ肺結核其ノ他傳染性疾患ノ疑アルモノハ入學ヲ拒絕ス
四、費用 兒童一名一日ニ付壹圓五拾錢也(食費會費學費等一切)
    附添人モ一樣
五、所持品寢具一切タオル石鹼齒磨用具
    箸(箸箱附)運動靴結髪具(女子)
六、本校特徴
 イ、學課指導者校醫看護婦等スヘテ校内ニ於テ寢食ヲ共ニシ一大家族生活ヲナスコト
 ロ、個性ノ調査研究ニツトメ兒童ノ長所ヲ助長セシメ且ツ健康日課表ヲ作製シテ合理的衞生生活ヲ行ハシム
   ルコト
 ハ、榮養食餌ヲ攝リ牛乳肝油ノ飮用日光浴晝寢學課時間ノ調節等ノ注意ヲナシツゝアリ

(都公文書館資料)


 
【付記】東京市における身体虚弱児童に対する養護教育は、静岡県熱海に熱海外気学校と協力して健康増進を図った。校外教授の形式をとり、教員・校医や看護婦等が寝食を共に一大家族生活をしながら養護教育をすすめる状況が示されている。港区固有の資料ではないが関連が深いので特に取り上げた。
 
 
関連資料:【通史編】 第5章 戦後教育の展開―戦後復興期の教育―
第8節 教育委員会制度の発足
第1項 教育委員会制度の発足と諸事業
(4)学校教育の推進
港区教育目標の設定