近來虚弱兒童に對する養護教育が、學校衞生上重大なる意義を有することが知れ渡り、各校に於て養護教育施設が講ぜらるゝ樣になつて來ました。本校に於ても、各方面の御配慮と御盡力により、虚弱兒童に對する肝油服用が奬勵せられ、現在では七十五名の服用兒童が居ります。中には可なり著明なる效果を表はして居る兒童もあります。又保護者の方も槪して非常にお喜びの樣です。
昭和六年十一月より實施し、今日に至る約一年間を經過致しましたから、其成績の大要を述べて見ようかと思ひます。
一 肝油服用の狀況及び經費
1、肝油服用期間及人員 昭和六年十一月より始む、當時二十九名、昭和七年四月定期身對檢査迄六十名となり、檢査後現在七十五名。
2、服用時間 中食時又は休み時間。
1、服用量 一・〇cc(最初一週間)二・〇cc(二週間に入つて)三・〇cc(三週間以降)。
學年別に致しましては一年二年二・五cc。三年四年三・〇cc、五年六年四・〇cc
4、調味料ドロップ一ケ(後口)
5、費用は區費にて支拂ひ一人一日服用經費肝油七厘ドロップ六毛計七厘六毛
二、成績調査=家庭にて調べ記したもの(服用後の調査より)
1、血色好くなつたもの者 三五名
2、感冒に罹らなくなつた者 二八名
3、偏食のなおつた者 一八名
4、食慾の増した者 三五名
5、疲勞しなくなつた者 勉强 三二名
同 運動 二八名
6、元氣になつた者 三四名
7、睡眠がよくとれるようになつた者 二五名
8、便通が正しくなつた者 二五名
9、丈夫になつた者 四五名
10、胃腸の丈夫になつた者 二二名
以上は調査の大要であります。
三、臨時身體檢査の結果、發育槪評丙より乙になつた者二十一名、榮養丙より乙になつた者五十二名、體重は一人當り平均二・〇瓩増加して居ります。
健康兒の體重増加率は約二・二瓩なるも肝油服用兒は初めより虚弱兒を選定したわけですから其の増加率が健康兒に及ばないのは至極尤もなる次第で稍近い迄に達して居ります事は良好な成績と思はねばならないでしょう。尚この上の希望としては普通兒を凌ぐ位の體重増加率を得たいものと養護に努力して居ります。
(『氷川学報』第三号 昭八)
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虚弱兒童と養護施設
本校に於ける虚弱兒童數は、檢査人員八百十四名中百十名卽ち一三・二%に及んでいる。而してこれら氣の毒な兒童に對し、學校では學校醫又は市衞生技師と協力して常にその監察養護につとめ、健康診斷、檢便及寄生蟲驅除、身體檢査、肝油の服用、眼疾及齒の治療、種痘、豫防注射、夏季施設、養護學級編入其他衞生保健の指導に心を盡くしている。
然るにこれら養護施設も家庭との協力を缺いては、その實績をあげ得ないから、切に家庭の理解ある御助力を乞う次第である。
養護學級
虚弱兒童の養護教育と體質の改善、健康の増進に努め、兒童心身の圓滿なる發達を圖る趣旨のもとに、昭和九年四月創設された本學級は、目下第二學年男女合計二十四名の兒童を收容しているほんの初生兒に過ぎないが、次の指導方針の下に、これに適する諸種の施設により着々その歩を進めつゝある。
その指導方針は、
1、自然に親ませること
2、榮養、疾病豫防其他生活の調査に留意すること
3、心身の過勞を避け、愉快に學ばせること
4、個人の身體狀況及個性に卽して指導すること
5、保健に必要なる良習慣を養ふこと。
等である。紙面の都合上割愛するのは止むなきを遺憾とする試みに體重のみについて見るに、(一人平均體重)
昭和九年四月 一八・六瓩
昭和十年二月 二〇・七瓩
増 加 二・一瓩
因みに昭和十年度は更に本學級の拡張充實を圖ることになっている。父兄各位の御贊同を得て益々本來の使命達成に邁進せんことを期するものである。
(『氷川学報』第五号 昭一〇)
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養護學級便り
昭和九年度は第二學年の虚弱兒童男十三名、女十一名、計二十四名を以て一學級を編成した。同年末男八名、女五名、計十三名は成績可良となつたので十年度において原級に復歸せしめ、殘十一名は猶特別養護を適當と認めて繼續することにした。依つて十年度は新に進級した第二學年兒童中の虚弱者男八名、女八名、計十六名と第三學年男五名、女六名、計十一名の外に、別に第三學年より選んだ女三名を加えて總計三十名を以て複式學級を編成した。
その後、昭和十一年二月の檢査に依れば第二学年男三名、女四名、計七名。第三學年男四名、女九名、計十三名は普通の狀態に復したので、原級に復せしむる見込みである。
次に養護の方法の槪略を述ぶると、
1 榮養食(實費徴收)日本榮養協會獻立調理 2肝油(無料給與) 3牛乳(實費徴收) 4日光浴
5簡易なる體操 6散歩、遠足 7深呼吸 8齒磨 9手洗、含嗽 10午睡(夏季) 11太陽燈照射(特別虚弱兒)
12檢温 13其他。
猶身體的、精神的に表はれたる成績及身體檢査の結果を參考のためにあぐれば次の如くである。
1 身體的方面の一般的徴候
イ、風邪を引くことが少なくなつた。ロ 頭痛、腹痛等に罹り易い者が減少した。
ハ 夜尿症の者がなおつた。ニ 一般に睡眠狀態がよくなつた。ホ 食欲が増進した。
ヘ 食物の好き嫌いが減少した。ト 一般に血色がよくなつた。チ 運動が活發となつた。
リ 疲勞が少くなつた。ヌ 凍傷等に罹り易い者が減少した。
2 精神的方面
イ、衞生上の良習慣がついた。ロ 朝晩齒を磨くようになつた。ハ 姿勢がよくなつた。
ニ 間食する者や間食の量が少なくなつた。ホ 快活になつた。
3 身體發育の狀況
調査 年月 | 學年 | 性別 | 身長 (糎) | 増加 | 百分比 | 體重 (瓩) | 増加 | 百分比 | 胸圍 (糎) | 増加 | 百分比 |
一〇、四 | 三 | 男 | 一二〇、三 | 四、八 | 三、八三 | 二二、三 | 一、八 | 七、四六 | 五八、二 | 一、六 | 二、六七 |
一一、一 | 三 | 同 | 一二五、一 | 二四、一 | 五九、八 | ||||||
一、〇 | 三 | 女 | 一一八、八 | 四、二 | 三、四一 | 二〇、五 | 二、一 | 九、二九 | 五五、五 | 一、三 | 二、二八 |
一一、一 | 三 | 同 | 一二三、〇 | 二二、六 | 五六、八 | ||||||
一〇、四 | 二 | 男 | 一一三、三 | 四、九 | 四、一四 | 一八、八 | 一、五 | 七、三九 | 五五、八 | 一、二 | 二、一〇 |
一一、一 | 二 | 同 | 一一八、二 | 二〇、三 | 五七、〇 | ||||||
一〇、四 | 二 | 女 | 一一八、五 | 四、四 | 三、五八 | 二〇、〇 | 一、七 | 七、八三 | 五五、〇 | 一、四 | 二、四八 |
一一、一 | 二 | 同 | 一二二、九 | 二一、七 | 五六、四 |
發 育 槪 評 | 榮 養 | ||||
昭和十年 四 月 | 昭和十一年 一 月 | 昭和十年 四 月 | 昭和十一年 一 月 | ||
甲 | 三 | 一一 | 甲 | 〇 | 〇 |
乙 | 一四 | 一四 | 乙 | 二七 | 二九 |
丙 | 一二 | 四 | 丙 | 二 | 〇 |
計 | 二九 | 二九 | 計 | 二九 | 二九 |
養護體育要領及施設
一、養護體育要領
1、個々の身體狀況及養護體育環境を精査し、個々の兒童を目標として適切な方法を講じる
2、環境の調査及養護上の支障除去に力める
3、心氣の暢達に留意する
4、疾病乃至身體的故障の早期發見と早期處置に力める
5、學校と家庭の連絡協力の徹底をはかる
6、長期休業時の利用をはかる
7、日光浴外氣浴運動榮養休養に注意し徒歩主義野外生活を奬勵する
8、感覺及運動機能の發達、體力の充實鍛錬をはかる
9、學校生活の規律及課業は先づ養護體育に注意し訓練教授に及ぶ
10、學習に際しては教授衞生及負擔の輕重に充分注意する
11、設備の完全施設の充實をはかり、保健思想の徹底訓練を期する
12、體操科理科の體育衞生に關する實際的機能を活潑ならしめる
二、機 關
體操衞生研究部、衞生係、學級擔任、週番、東京市衞生技師、校醫、齒科醫、衞生婦、武道教師
三、設 備
1、衞生室 救急器具藥品、齒科機械、人工太陽燈、肝油給與器具、寢臺、消毒器、ガスストーヴ、其他
2、養護學級 食器、檢温器、攜帶用寢臺及腰掛、蒸汽發散器、其他
3、檢査器具 體重計、身長計、偏平足檢査器、卷尺、視力檢査表、色盲檢査表、握力計、肺活量計
4、運動場 屋内體操場(一〇六坪)、運動場(六五〇坪)、屋上運動場(三五〇坪)、柔道場(一四坪)、
砂場(一五坪)、足洗場、日光浴場、
5、暖房換氣其他 蒸汽暖房、換氣口、湯沸器
四、調 査
1、身體檢査(定期身體檢査、卒業期身體檢査、健康兒童銓衡檢査、新入學豫備檢査)
2、健康診斷(夏季、冬季、遠足前、其他)
3、衞生檢査(身體服裝學用品座席筆記文字、其他清潔整頓)
4、眼鏡檢査
5、口腔檢査(口腔、齒ブラシ)
6、寄生蟲檢査
7、體温脈搏檢査(虚弱兒童)
8、榮養調査(辨當、偏食、嗜好其他)
9、傷害調査(傷害と其原因)
10、疾病調査
11、生活調査(起床就寢時刻、睡眠休養時間、勞務、其他家庭衞生狀況)
12、傳染病調査
13、季節衞生調査
14、體育調査
五、施 設
1、養護學級(二、三年虚弱兒童編入)
2、紫外線照射
3、肝油給與
4、寄生蟲驅除
5、榮養食(虚弱兒)
6、救急手當
7、點 眼
8、齒科手當
9、監察矯正
10、ラヂオ體操
11、夏休施設(保健所、學校開放、ラヂオ體操會)
12、課外運動(劍道、柔道、水泳、競技)
13、清潔法
14、訓練日(齲齒豫防、結核豫防、健康週間、交通訓練)
15、保健訓練
16、表 彰(健康兒童、口腔衞生優良兒童)
六、保健訓練項目
早寢早起、規則的生活、清潔整頓、榮養、口腔、眼、耳鼻咽喉、皮膚、休養、服裝、學習、運動、消毒法、
救急法、常備藥品、自己診斷等に關する知識並實行事項
(『氷川学報』昭一一)