港区の特殊学級の状況

  特殊学級の一年を顧みて
 本区に特殊学級が開設されたのは三十一年九月、その後区教育委員会はじめ各方面の熱心な御指導と御支援によって、漸次その成果が挙がりつつあることはまことに喜ばしい次第であります。実際入級後三ヵ月もたつと、子ども達が見違えるように明るくなり、遊びや作業や学習等、集団生活の中で毎日生き生きと張りのある生活をするようになって来ます。親達にもその変化が身に泌みて感じられると見えて「……一年間にこれだけの変化を来すとは親の私達ですら想像もしておりませんでした。前の級に居たのでは相変らずお客様扱で過ぎた事でしょうに……」(S子の母)とか「……毎日学校へやるのにおこってみたりなだめてみたり色々苦労したものです。…それが特殊学級に入ってからは学校に行くのが楽しみになり、休まず元気に出かけるようになったのです。一年前の事をふり返ってみるとまるで夢のようです……」(T夫の母)というように数多くの感謝と喜びの感想が寄せられています。また中学卒業生も印刷、組立包装電気等の工員、花屋の店員等に就職、その後の経過も概して良好ですし、小中学を通じて先ず先ず好成績だと言えるでしょう。
 本年は丁度開設後三年目に当るので、経過報告と学級公開を兼ねて、十一月二十七日神明・城南両校合同で研究発表会を開催しましたが、遠く他郡市からの参会者もあって合計八十名、予想以上の盛況でした。当日は教育長指導室長をはじめ、小中学校長も多数列席され、学級公開後渡辺・保科両主事の司会で協議会に移り、(中島・生野)研究発表、学級生活のスライド映写都指導主事小杉先生及び教育大教授、杉田先生の講評と講演があり、参会者も多くの感銘を得られたことと思います。
 続いて十二月には指導室御指導の下に、区内精薄児の実態調査を行うと共に、それらの資料に基き該当児童生徒の保護者及び担任教師を対象として、一月十二日教育相談と講演の会を催した所、参会者約五十名、東大教授三木安正先生の「ちえ遅れの子どもをどうするか」の講演後、参会者から教師や親としての悩みや特殊学級入級の切々たる願いが述べられ、学級増設の強い要望もなされました。
 尚二月六日七日は神明、城南両校で入級テストを兼ねて教育診断を行いましたが、申込者小中合わせて四十二名、西谷、石橋教授の専門的な診断と教育相談が行われました。これらを通じて、教師や親に特殊教育への理解と関心が深められたことは、今後特殊学級運営上極めて有効であったと思われます。特に本年度は区内特殊教育研究員及び養護教諭の方々が、積極的に御援助下さったことは心強い限りでした。
 一方学級参観者も少くなく、本区議会文教常任委員の方々が視察されたのをはじめ、アメリカンスクールの教師三名、職業教育全国協議会から三十数名、セイロン職業指導担当官、広島県小学校長六名、川口市教育局指導主事三名等が神明または城南を参観されました。
 本区特殊学級は小中四学級、現在の在籍は次表の通り四九名ですが、先日の実態調査によりますと、本区の精薄児は小五八六、中一六五、計七五一名となっておりますので、内輪に見ても約七〇〇名の精薄児が、普通学級の片隅でいわば『お客様』として日々を心佗びしく過しているわけです。これは本人の不幸であるばかりでなく、担任教師の頭痛の種でもあります。どうしても今後早急に『学級の増設整備』『教育相談施設の充実』を図ると共に、『特殊学級担任教師の養成と研修』『保護者及び一般社会への啓蒙』についての努力が必要だと思われます。
 I・Q神明中城南中
41~505510
51~60628
61~706410
71~80369
81~905712
252449

 幸い文部省でも来年度は特殊教育の振興を重点施策の一つとして取上げるそうでありますが、過日国連で可決された『児童の権利に関する宣言』第五条「身体的精神的社会的にハンディキャップを持った子どもは、特別な取扱教育管理を受ける権利がある」(大意)の精神を体し、お互い恵まれない子ども達の為に努力を続けて行きたいものであります。

(『指導室だより』第二号 昭三五)