普通学級では学級仲間からはずれて孤独か、すねものか、暗い性格だったりしたものが、この学級に入ると、明るく素直で積極的な態度に変わってしまうという例が殆んどです。友達の圧迫や、勉強の重圧から解放され、仕事をすることに自信をもつようになるからです。
一例として担任の観察記録から抜粋した、H(男)の行動事例により、ぎんなん学級に入級した子どもの変わり方をみてみましょう。Hは内因性(発生原因が遺伝、または放射線や化学的刺激などによる突然変異)の軽い精神薄弱児で、知能指数七〇、学業の遅滞が著しく、普通学級においては孤独で遊び仲間がなく、性格が暗くて、働らく意欲に乏しい子どもとみられていた。
4・ 7 掃除はいやだといってやろうしない。(勤労意欲全くみられない)
4・25 あそびの時間に皆の仲間に入らず、ひとり離れてオルガンをひいていた。(仲間と協調できず、ぶつぶつ独りごとをいう)
5・ 8 大暴れ、三人の子どもと次々に喧嘩をする。(心理的解放期の特徴で、喧嘩も自己主張が出来るよ
うになった一つのあらわれ)
5・19 掃除等の仕事はだんだんやるようになってきたが、自分から仕事を探してはしない。
6・14 朝七時頃登校、学校が面白いと言う。前の担任の悪口を盛んに言う。
7・ 7 早い登校が続く、仕事はよくするようになってきた。(生活態度に活気がみられる様になった)
7・17 箱根合宿訓練に参加し、年下の子どもの世話をよくやっていた。(心理的安定期に入る)
8・ 4 夏休み中、海水浴に行った時の様子を葉書にかいて担任によこす。(文字の書き方が丁寧になる)
9・21 紙粘土工作を汗をかきかき頑張る。先生疲れたろうと言って肩をもんでくれる。(勤労意欲が益んに
なり、他人に対しても関心を持つ様になった)
10・14 小皿に種を蒔き、発芽の状況を観察ノートに書いている。(探究心がみられるようになる)
11・20 暗くなる迄学校に残って、紙粘土の作業をしていく。(早く帰宅してもつまらないと言いながら)
12・13 珠算による計算力がつき、できない友達に教えていた。(加減計算は大体出来るようになった)
1・ 1 冬休み、校長、担任に年賀状をよこす。
1・20 春休みには前の担任の家へ遊びに行くと言う。(前担任に対する、みかた、感じ方が変わってきた)
2・ 3 節分の豆まきに自分から追放すべき鬼(自分の欠点や悪癖など)は「無駄なおしゃべり」だと言う。
(自分の欠点を知り、日常生活を反省する態度が少しずつみられるようになってきた)
以上の行動事例が示すように、Hは入級当初において、まず自己解放が行われ、普通学級の刺激に萎縮していたものが、本然の自分を発揮するようになり、次に荒れた日の後にくる和やかな日の様に、行動にも落ちつきが見られ、仕事を求めるような心理的安定期を経て、三学期には生活態度には殆んど問題が無くなり、本人の能力に応じた学習指導を受け入れられる態勢になってきた。生活態度の変化に伴い、知的学習にも興味を示しその伸び方も大きくなっている。
ぎんなん学級概況
(イ) 学年別児童数 |
3 | 4 | 5 | 6 | 計 | |
男 | 1 | 4 | 2 | 2 | 9 |
女 | 1 | 1 | 3 | 0 | 5 |
計 | 2 | 5 | 5 | 2 | 14 |
(ロ) 精神年齢別(M.A) |
5:0~ 5:11 | 6:0~ 6:11 | 7:0~ 7:11 | 8:0~ | 計 | |
男 | 0 | 2 | 6 | 1 | 9 |
女 | 1 | 1 | 3 | 0 | 5 |
計 | 1 | 3 | 9 | 1 | 14 |
(ハ) 知能指数別(IQ) |
50~ 59 | 60~ 69 | 70~ 79 | 80 | 計 | |
男 | 0 | 2 | 5 | 2 | 9 |
女 | 1 | 3 | 0 | 1 | 5 |
計 | 1 | 5 | 5 | 3 | 14 |
(ニ) 通学状況 |
5分~ 10分 | 11分~ 20分 | 21分~ 30分 | 計 | ||
徒 歩 | 2 | 6 | 2 | 10 | |
都 電 | 1 | 2 | 3 | ||
バ ス | 1 | 1 | |||
計 | 2 | 7 | 5 | 14 |
(『氷川教育』十号 昭三七)
【付記】精神薄弱児の教育を受け持つ「ぎんなん学級」が氷川小学校に開設されたのは昭和三十六年四月であった。本資料は開級から一ヶ年間の観察記録(児童の変容記録)である。