沼津養護学園の生活

  恵まれた環境の中で健康増進を
  からだが弱い児童のための区立沼津養護学園
 
○マット運動はきびしい。だが……………………。
 「学園に入園する時は、なんだかさみしかった。学園は三か月だから、がんばろうと思った。
 長くきていると、友達の名前を時々忘れるが、友達の顔は思い出す。
 にぎやかな東京駅の人ごみの中をくぐりぬけて、沼津行の電車が発車するホームに出る。十時四十六分のベルがなる。笛といっしょにドアーがしまる。
 東京と三か月お別れだなあ、と思うと心が引きしまる。駅のホームからはなれると、東京の町の中が明るく見えた。
 学園についた。前方は小高い牛臥山、その両側は海である。
  ◇       ◇
 朝六時半起床。
 かんぷまさつ、洗顔、熊手をもって外そうじにとりかかる。それがすむと行進およびラジオ体操である。
 食事だ。食堂は、ゆげでもうもうとしている。
 食事が終わると六年生は、ニワトリ当番だ。毎朝、たまごを三つぐらい生んでいるので、三年生から交替で配給する。
 一時間目が始まる。少ない人数のため、本を何回も読まされる。五、六時間目は、校庭でマット運動、ボール運動がきびしい。
 私はなんのために来ているのか。集団生活を身につけるため、体をじょうぶにするためにきたのだ。
 これは、沼津養護学園で生活した児童のひとり、高橋佳子さん(当時六年)が学園紙〝うしぶせ〟に寄せた作文です。
 
○養護学園はどんなところ
     ―一問一答―
 入園できるのは、どのような子どもですか。
………区立の小学校に通っている三年生以上のお子さんで、次の条件のいずれかに該当するとき、入園できます。
 (1)血色が悪く、栄養や発育状態がよくない (2)風邪など病気にかかりやすい (3)ツベルクリンが陽転した
 (4)病気の回復期にある (5)家庭でなおすことができないほど偏食がはげしい 
 (6)家庭環境の面から、衛生やしつけが不十分
 なお、これらの条件がそろっていても、伝染病にかかっているときやテンカン・心臓病など特異体質のお子さん、性行不良のお子さんは入園できません。
 
 どのような目標で、教育されていますか。
――三方を松林にかこまれ、海はすぐ近く、富士山の勇姿も目の前、東京のほこりと騒音が嘘のように静かで美しい環境の中で、親もとをはなれ、集団生活を通して思いやりのある、健康で、がまんづよく、よくできる子になるよう健康増進を第一に考えながら、心身ともに健康で自主的な児童の育成につとめています。
 
 学力がさがる心配はないでしょうか。
――体を丈夫にするだけと誤解されているようですが、児童が少ない(40人)ため勉強に集中できるし、個別指導にも適しているので、むしろ成績のよくなるお子さんが多いようです。
 学習は一般の小学校と同じにおこなうのは勿論ですが、恵まれた自然環境は、都会では得られない豊かな学習資料ですから、とくに臨地学習を重視しています。
 
 家庭を長い間離れるのが心配ですが……。
――学園は、学校であると同時に、家庭でもありますから、お互いに愛情をもって楽しく生活できるよう心がけています。
 また、家庭との通信をとおして生活態度や物事の考え方などを指導する一方、寮母を中心に、家庭生活を営ませ、いろいろの作法も身につくよう指導しています。毎月、家族との面会日もあります。親もとを離れた子どもたちのストレス解消に、タイコを用意して、思いきりたたかせています。
 
 学校を離れると友達とも遊離してしまうことはありませんか。
――学園から帰ると英雄扱いされ、かえって友達がふえるようです。なかにはクラス委員長になった子もいます。
 
 入園したいときは、どうすればよいのでしょうか。
――在籍している学校の先生にご相談ください。校長を通じて、教育委員会へ入園申込書を提出していただきます。
 入園期間は、4月から翌年3月までの一年間を原則としていますが、各学期ごとの入退園もできます。経費は、賄費その他として一か月九六〇〇円かかります。
 このほか、学園について、くわしく知りたいときは、教育委員会学務課〓区役所内線三二八にお聞きください。
 学園は、沼津市我入道蔓陀ヶ原五〇九、〓〇五五九―31―〇四一二。沼津駅下車、バスで15分です。
 
○退園したら、家の手伝いもしようと思う
 「ぼくは家でお手伝いというものはやったことがありません。退園したら、これからは家のお手伝いをしようと思います。学園の五時のお手伝いは、寮のおそうじです。一人でも、おそうじはたいへんではありません。土曜日と、日曜日は机をかたづけるので、少したいへんですが、友達が手伝ってくれるのでたすかります。」
高次国広くん(当時三年)、〝うしぶせ〟から

(広報『みなと』昭四九)