桜田小学校ことばときこえの教室の指導

児童名 小学校五年 男主訴ことばがはっきりしない
昨年度の様子
 スピーチエードの状態を確認するとともに、発音の様子を観察した。(指導回数 二回)
目標
 スピーチエードをはずした時の発音明瞭度を高める。
経過
 ゴードをはずして語音・発語明瞭度を検査した。本児からの積極的な話をさせるため、プレイを中心に友との交流面を主として行動を観察した。会話を楽しむように仕向けた。
 五三年六月の聴力検査では、八〇〇〇Hzに四〇dBの損失が見られたが、五三年一〇月は特記事項は認められなかった。
 五三年一一月に主治医に依頼状を送り、エード装用・構音指導面での意見を聞いた。エード装用については経過をみたい、構音治療は完了してもよいのではないかという返事があった。
 五三年一一月に学校生活調査(EIS)学力向上要因診断検査(FAT)を行なったが、学級・担任ともうまくいっているようなので五三年一二月をもって通級を中止した。
備   考
初来室
四九・一・三〇
    ( 幼稚園)
口蓋裂による構音異常。四九年一〇月にスピーチエード装用現在に至る。
――明瞭度 八八%
第六回判定委員会で構音面はよいのではないか、チェックとして受け入れたらという意見だった。
東京医科歯科大学口腔外科
  (教室の紹介)
所見
 教室の歴史とともに通級した児童である。五三年三月で終了してもよいケースだったかもしれないが、学友で登校拒否をしていたO君の対する本児の気持ちや家族ぐるみの配慮によって通学するまでになった事は本児の行動面で非常にプラスとなっている。O君も二~三回一緒に来室し教室担当四人とともに楽しくかかわった事もあった。
 担任にはEIS・FATの結果も面談の折に連絡した。

指導回数
  一一回
五三年一二月
  通級終了

児童名 小学校一年 女主訴ワ行音がうまく言えない
昨年度の様子
 幼稚園での構音検査では、t/s、ts/sに置換されていた。(五三年一月三一日)
 おとなしく、隅のほうでままごと遊びを好んでやる静かな子であった。
備   考
初回来室
 五三年二月一四日
目 標
 /s/音の誤りを改善し、正しい語音の定着を図るとともに、人との関わりをスムースにする。
 
経 過
 声は鼻声であり、低音である。
 一学期は[su」音に取り組んでいたが、二学期は[sa]音が改善音に近かったので、音の弁別発音練習・歌を通し、[sa]音の定着を図った。単語では八〇~九〇%の正答率であったが、三学期になると文章の中でも定着したようだ。
 表記は正しくできる。
 遊びの中では、教室に慣れてくると攻撃的な態度がみられたが、現在では落ち着いて遊べるようになってきた。
 ITPA検査では、ことば・絵の理解・類推・数の記憶・絵さがし等をやる。生活年齢より低い項目はあったが、特に問題になるような点はみられなかった。
 語音発語明瞭度 検査
  母親 九三%   担当者 九二%
扁桃腺 アデノイド肥大の為に手術
 五三年六月二八日
聴力検査
(五三年七月一〇日)
 右 一〇dB
 左 八・七五dB
本児の指導中、母親と姉(小学二年)は買物に行っていたが、教室にいるようにお願いをする。
 五四年二月
所 見
 [sa]音のみでなく、[si][su][se][so]にも汎化され、/s/音が改善されつつあるようである。
 発音の誤りのみなので、見通しは明るいように思われる。
 

児童名 小学校二年 男主訴カ行の発音がおかしい。口が重い
昨年度の様子
 通級回数四回。構音では、to/ko、ra/wa、do/go、dw/gwの置換、浮動的にtw/kwの置換がみられ、[ka]は語頭・語中で歪み、語尾では[to]に置換されていた。舌の動きはなめらかでなく口をとがらすことができなかった。ボール投げをして遊んでいたが、積極的な遊び方を示さず指示されるまでフラフラと歩き回っていた。
備   考
初来室
 五三年二月二三日
 
四八年五月から約一年間、東中野日本心身障害児協会療養センターへ週一~二回通った。
昨年度は教育センターに週一回通級。主に母親がカウンセリングを受けた。
当教室へは教育センターの先生の紹介。
目 標
 [ki」を除く/k/音の正しい構音の獲得とその定着を図る。
経 過
 /k/音と/t/音の聞き分け練習、/k/音を含む言葉の聞き取り、ストローを使って/k/音の構音のコツをつかむ練習(ストローを口の中に少し入れ、ストローに舌を触れないように/k/音を構音する)をした。/k/音と/t/音の聞き分けは一学期は一〇〇%出来たが、二学期からは混同がみられコマをトマと書くなど、表記面にも誤りがみられることがあった。ストローを使うと正しい構音が得られ、また言葉の中でも正しい構音が得られることもあったが浮動的であり、定着がなされなかった。
 毎回積極的に通級してくるが、ことばの学習に集中する時間が短く自分のやりたい遊びに気が移ってしまう。テレもあるのか自分の気持ちをストレートに出せず、暴力をふるうことがある。母親には本児に対する細かい注意や指示を少なくして本児の気持ちを十分汲み取ってやるように話している。
 
脳波検査は、四八年五月、五三年二月の二回受けており、薬を使うほどではないが少し乱れがあるという所見を得ている。
所 見
 三月二日、小川口先生にみていただく。今後の指導方針として構音練習は一つの音にしぼる。言語力を伸ばす練習(絵を見て口頭作文など)をする、構音器官の運動技能を伸ばす練習(無意味音節つづりなど)をするなどの助言をいただいた。
 

(「桜田小学校ことばときこえの教室」資料 昭五四)


 
【付記】桜田小学校の通級学級「ことばときこえの教室」は、構音障害・発達の遅れ・難聴などの児童の教育を担当する障害児教育施設である。本資料は昭和五十四年当時の指導事例である。