百聞は一見にしかずで記憶力旺盛期の兒童に實地觀察をなさしむることが教授上效果顕著であるのみならず兒童が教科に趣味を有する出發點となるのであるから兒童が每日目撃しつつある校舍等直觀物を利用することが實に生きた教材であると信ずる。
以上の見地より本校に於ける職員總がかりで校内に於ける教材調査を思ひ立ち一は以て拾萬に近い巨額を抛って改築された建築材料をして價値あるものたらしめ一は以て職員相互の建築上の研究趣味涌起となり兒童に影響する效果の至大なるを信じ七月一日の職員例會に提議し左記の日割により調査研究を遂げ漸く完成したるは全く分擔委員諸君の熱誠努力の結果であって實に感謝に堪へんのである。
七月六日 木材方面調査委員會
分擔 校舍 校具の名稱 堀部、高橋兩訓導
教科書との 連絡 大石、崎山兩訓導
七月七日 岩石鐵材其他方面調査委員會
分擔 岩石 鐵材其他の名稱 井上、近藤兩訓導
教科書との 連絡 松浦、福田兩訓導
七月八日 算術方面調査委員會
分擔 校舍 校具につき實則すべき名稱 渡部、新井兩訓導
教科書との連絡 伏間、伊藤兩訓導
七月九日 保護者會方面調査委員會
分擔 給與品の數量 市川(女)訓導
給與品の說明 石井、樹下兩訓導
貸與品の說明 後藤訓導
以上調査の方針
各方面に於て校舍に使用されある場所と名稱及び應用問題構成資料兒童の最も近接してある保護者會給與品等につき一應調査をなし又一方には各科の教科書といかなる連絡を有するかにつき調査の結果少しにても教科書に關連せる名稱は殘らず摘出し詳細なる說明を加へ其他は教授者の參考に資する目的を以て二者の調査を一々對照し更に左記日割により委員會を開き本調査書類が完成したのである。
九月十一日 岩石鐵材其他方面調査委員會
同 十四日 木材方面調査委員會
同 十五日 算術方面調査委員會
同 十七日 保護者會方面調査委員會
本調査は以上の順序にて出來上ったのであるが分擔委員諸君は或時は夏休み中酷暑をものともせず研究され或時は工事設計書の研鑽となり實地の調査となり大工石工煉瓦瓦職畳職等の實際狀況視察となり其他毛筆の製造所に墨付の製作者に一々問を質し精密確實なる調査が纒っているのであるから擔任諸君は分擔委員諸君の心勞を想察せられかかる生きた教科を實地に活用し近より遠に及ぼす主義の下に日常親しみてある校内に於ける直觀物を機會ある每に指示運用宜きを得て兒童の實力養成に資せられなば獨り本校舍に學ぶ幾多兒童の幸福なるのみならず分擔委員諸君の勞力は永久に價値あるものなるを信じ聊か緒言に所感を述ぶ
大正三年十月 駒木根 重 次
校内ニ於ケル教材調査目次
一 木材方面
1 校内ニ使用セル場所名稱教科書連絡一覽表
附 本校舍建築名稱調
2 教科書ニ關連セル教材ノ說明
松 杉 櫻 檜
栗 欅 鹽地 樫
二 岩石方面
1 校内ニ使用セル場所名稱教科書連絡一覽表
2 教科書ニ關連セル教材ノ說明
須賀川石 稲田石 鐵平石
澤田石 大谷石 間知石
多摩川砂利
附岩石
三 鐵材其他方面
1 校内ニ使用セル場所名稱教科書連絡一覽表
2 教科書ニ關連セル教材ノ說明
鐵 避雷針 煉瓦 屋根瓦
竹 疊 壁 硫黄
四 算術方面
應用問題構成資料
1 校具ノ實測
2 校舍内ノ實測
五 保護者會方面
1 給與品 應用問題構成資料
2 同 說明
筆 鉛筆 書方用紙
畫用紙 墨汁 雜記帳
3 貸與品ニ關スル說明
番傘 算盤
〔略〕
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附 本校々舍建築名稱調
一 校舍
(1) 建方 木造二階建、折曲、腰煉瓦幷ニ石材混合積外部建式
屋根 方形造リ六寸勾配、兩面磨キ藥引々掛ヶ棧瓦葺、棟須濱瓦
表門 柱煉瓦石材混合積、兩開キ鐵扉
(2) 外部 羽目板張リ、生子板張、木部總體生澁塗、軒廻リ漆喰塗、 出入口上霧除庇シ
亞鉛引鐵板製竪樋、床下空氣抜鑄鐵製銅網張リ、亞鉛引鐵板製竪樋鮟鱇付キ、三重石階段、亞鉛
引鐵板製庇軒樋蛇腹形付、軒先雪止メ、鐵柵、木製非常門、溜桝、溜桝蓋板、避雷針
(3) 内部 床板張、二連窓上ゲ下ゲ硝子障子、單窓上ゲ下ゲ硝子障子、開轉欄間、空氣抜キ開轉窓
掃出窓引違ヒ板戸、出入口引分ヶ唐戸(欄間硝子障子附)、出入口腰高引違ヘ硝子障子、出入口片
開キ唐戸、階上下教室出入口引違ヘ唐戸
階上下廊下附窓硝子引違ヘ障子
階段中溜押入明リ取窓硝子、教室黒板掛ヶ、兒童外套及帽子掛、階上二連窓人除手摺
階上單窓人除手摺、暖爐煙筒受目鏡石
木部「ワニス」三遍塗、天井砥粉拭ヒ
二 雨中體操場
(1) 建方 切妻造り鐵混式
(2) 外部 腰屋根附キ亞鉛引波形鐵板葺
(3) 内部 腰羽目大壁漆喰塗、腰屋根窓硝子、軒樋流シ樋、竪樋鮟鱇付キ、鐵骨ペンキ塗、欄間引違ヘ硝
子障子、アスハルト、出入口腰高硝子障子、出入口上窓硝子障子、出入口引分板戸、裏側窓上ゲ
下ゲ硝子障子
三 湯沸所使丁室物置
(1) 建方 日本小屋切妻造り
(2) 外部 生澁塗 藥引々掛ヶ棧瓦葺
(3) 内部 畳敷、木部總體砥ノ粉拭ヒ
四 便所
(1) 建方 日本小屋
(2) 外部 腰屋根附 五寸五分勾配藥引々掛棧瓦葺
(3) 内部 竪羽目板張り、砥ノ粉拭ヒ
出入口腰高硝子障子、窓引違へ硝子障子、大便所出入口
片開キ板戸、
亞鉛引鐵板軒樋竪樋
〔略〕
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2 校舍内ノ實測
高サニ關スルモノ
裏門ノ高サ地盤ヨリ笠石上部マデ一丈一尺
煉瓦塀ノ高サ 七尺
生子板塀ノ高サ 七尺六寸二分
各教室ノ高サ 一丈二尺
雨中體操場高サ 九間半
同 入口ノ戸高サ 六尺五寸二分(昇降口ノ方)
同 六尺一寸(非常口ノ方)
校舍軒高地盤ヨリ桁上端マデ 三丈
雨中體操場軒高地盤ヨリ軒桁上端マデ 一丈六尺
使丁室軒高地盤ヨリ桁上端マデ 一丈
便所軒高 同 一丈五寸
雨中體操場下ノ石垣高一丈四尺
鐵柵高サ 五尺
各教室出入口戸ノ高サ 六尺五寸
運動場日除ノ高サ 一丈
同 ブランコノ高サ 一丈
雨中體操場腰高硝子障子ノ高サ 七尺五寸
同 窓硝子障子ノ高サ 九尺
長サ及ヒ幅ニ關スルモノ
表門入ロノ幅 九尺六寸
同 通用門ノ幅 三尺
雨中體操場ノ長サ 十三間、幅 七間
運動場日除ノ長サ 八間、幅 五間
職員室及機械標本室ノ長 五間、幅 三間半
各教室 長 四間半 幅 三間半
醫療室 長 二間 幅 一間半
宿直室 長 二間 幅 一間半
使丁室 長 五間 幅 二間
物 置 長 四間 幅 二間
便所一 長 六間 幅 二間
同 二 長 九間 幅 一間半
〔略〕
(白金小学校資料 大三)
【付記】この資料は、目次中一、木材方面の附、本校舎建築名称調と、四、算術方面、2、校舎内ノ実測の二点を抽出し掲載した。