(三) 寒暖の歴史

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【寒暖七〇〇年周期】 年ごとに、多少の寒暖の差があるのは常識であるが、生物の生息に影響を与えるには、氷期と間氷期ほどの寒冷化と温暖化が必要だろうとつい思ってしまう。しかし実際には、平均気温で二度もちがえば、数年を経ずして生物相に変化が起こりはじめ、四、五〇年もたてばほどんど入れかわり、一〇〇年以上経過すれば完全にその気候帯の動・植物にとって変わられるものである。
 港区内には、古くから続いている原始林はまったく存在していないので、自然の遷移によるこれらの移りかわりが観察できないが、古木の年輪調査や、周辺区などを含めて発掘された貝塚に含まれる貝や魚などの種類から、生物の種類分布に影響する大きな気温変化が、ほぼ七〇〇年ごとに繰りかえされたことが証明される。
 証拠のはっきりしている過去三〇〇〇年を調べてみると、ちょうど紀元前一〇世紀ごろは寒い最中であったことがわかり、続いて紀元前二~三世紀、紀元後五世紀、一二~一三世紀、一九世紀に寒冷期が襲来している。これに対し紀元前六~七世紀、一~二世紀、九世紀、一六世紀ごろには温暖期が訪れているのである。したがって、現在の港区は、江戸時代末期前後の寒冷期から脱して、二三世紀の温暖期に向かう途中にある、とみて差支えなく、これからの生物は、暖地系のものが主体となるものと思われる。
【北地系の植物】 過去の寒冷期に南下し、港区内に住みついた植物にはコウヤワラビ、サカゲイノデ、ホソバノハマアカザ、ニリンソウ、コウモリカズラ、ナガボノシロワレモコウ、レンリソウ、ヤマハギ、マルバヤハズソウ、ツルフジバカマ、ツルマメ、ハチジョウナ、ウシクグなどがあげられる。
【暖地系の植物】 これに対し、南方系の暖地植物にはカニクサ、ウチワゴケ、イノモトソウ、オオバノイノモトソウ、タチシノブ、オニヤブソテツ、ベニシダ、ミゾシタ、ゲジゲジシダ、ヒメワラビ、ノキシノブ、マメヅタ、ドクダミ、イタビカズラ、イヌビワ、カラムシ、ボントクタデ、ザクロソウ、シキミ、サネカズラ、クスノキ、ヤブニッケイ、タブノキ、シロダモ、フユイチゴ、コミカンソウ、ムクロジ、ツキヌキオトギリ、ツボクサ、チドメグサ、マンリョウ、ネズミモチ、オオバイボタ、ヒイラギ、コバノタツナミソウ、テリミノイヌホオズキ、ウリクサ、トキワハゼ、フタバムグラ、センダングサ、トキンソウ、ハハコグサ、アキノゲシ、シュウブンソウ、オニタビラコ、オヒシバ、ネズミノオ、ジュズダマ、ヤブランなどがある。これら寒・暖両植物が、いつの時代に港区に侵入し定住したかは、はっきりしないが、いずれにしてもそれぞれが最適気温のときに渡来し、そのまま遺存されているわけである。