(一) 『万葉集』にみる古代の武蔵国

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【東歌】 武蔵国の古代の景観を知る史料のひとつに『万葉集』があり、その東歌(あずまうた)には都合九首の武蔵国の歌が残されている(三三七三~八一)。
 このなかでは、「うけら」の花を詠んだ、
 
  恋しけは袖も振らむを武蔵野の うけらが花の色に出(づ)なゆめ(三三七六)
 
などの数首が、古代の武蔵野の自然を彷彿(ほうふつ)とさせよう。
【防人歌】 また、荏原郡関係には防人歌(さきもりのうた)が知られ、主帳物部歳徳(もののべのとしとこ)の、
 
 白玉を手に取り持(も)して見るのすも 家なる妹(いも)をまた見てももや(四四一五)
 
そして、その妻椋椅部刀自売(くらはしべのとじめ)の、
 
  草枕旅行く夫(せ)なが丸寝(まるね)せば 家なるわれは紐解かず寝む(四四一六)
 
さらに、上丁物部広足(もののべのひろたり)の、
 
  わが門(かど)の片山椿(かたやまつばき)まこと汝(なれ) わが手触(ふ)れなな上に落ちもかも(四四一八)
 
などの歌が、律令制のもと、防人として遠く西国に赴く人々の哀感をよく伝えている。