【宝徳寺】寺院をみると、区内でもっとも古い創建といわれるのは、宝徳寺である。はじめ区外の地域で大同二年(八〇七)に空海によってはじめられたというが、その後の移転の問題とあわせて証明すべきものは存しない。
【善福寺】 天長元年(八二四)に同じく空海により麻布の善福寺が開かれたといわれる。空海は弘仁十一年(八二〇)に京都を離れて東国へ至り、下野あたりまで巡歴したといわれ、この途中で港区内に足を止めたとみるべきであろうが、定かではない。善福寺は、のち鎌倉時代の寛喜元年(一二二九)に真言宗から浄土真宗にかわった。これは当寺の中興の祖といわれる了海が、親鸞に師事した結果とされる。親鸞が善福寺へ立ち寄り、去るに際してもっていた杖を地にさし、それが大銀杏となったと伝えるものが、今も善福寺境内にある。
これとても後世の付会であろうが、本寺と親鸞とのなんらかのつながりを連想させてくれるものである。
【承教寺】 承教寺は正安元年(一二九九)の創建と伝え、本区内におけるもっとも古い日蓮宗寺院である。
ほかにも他区から本区へ移り、その創建を中世以前とするものも二、三あるが、紙面の都合で省略したい。
なお、芝の神明社、烏森神社、麻布の善福寺には中世文書若干が伝承されているので、その内容については別稿でやや詳しく述べてみたい。