(1) 旗本・御家人屋敷の分布

207 ~ 213 / 1465ページ
【国字名分集】 前述のように自らの知行地をもつ二千数百人の地方(じかた)知行者をはじめとして、旗本・御家人は原則としてすべて江戸城下に居住するものであった。表6は『国字名分集』(渡辺一郎編『徳川幕府大名旗本役職武鑑』第二巻所収)によって家禄五〇〇〇石以上の旗本の居住地について整理したものである。『国字名分集』は版元、編者ともに不明であるが、文政十年(一八二七)閏六月成稿、同十二年十一月成刻の旗本武鑑で、乾坤二冊、イロハ順で五〇〇石以上全一六六九人の旗本の姓名その他を、たとえば「藤原氏・本国大和・交代寄合・家紋波引車・八千石・下谷御徒町・生駒大内蔵」とか、「清和源氏・本国美濃・家紋上羽蝶・四千七百石・愛宕下烏森・大嶋左衛門」というように記載している。五〇〇石以上の旗本一六六九人という数字は先の宝永年間の資料(表3)にあてはめれば、直参総数の七・四パーセント、旗本総数の三〇・一パーセント、そのうちの地方取(じかたどり)総数の七一・〇パーセントにあたる資料ということになる。居住地の区分については、浜田義一郎編『江戸切絵図』所載の江戸区分図に従って全三〇地域とし、それぞれの地域ごとに石高別に何人の旗本が居住していたかをみたものである。
 

表6 文政十年旗本居住地

 地域


石高
江戸全域1234567
大名小路外桜田・
永田町
番町駿河台・
小川町
日本橋・北
神田・浜町
日本橋南京橋南・
築地
芝・愛宕下芝・高輪
%%%%%%%%%%

9500~
9000~
8500~
8000~
7500~
7000~
6500~
6000~
5500~
5000~
4500~
4000~
3500~
3000~
2500~
2000~
1500~
1000~
500~
その他
 (注1)

1
1

4
2
10
4
17
11
62
14
24
16
83
51
100
119
299
786
65


0.1
0.1

0.2
0.1
0.6
0.2
1.0
0.7
3.7
0.8
1.4
1.0
5.0
3.1
6.0
7.1
17.9
47.1
3.9











2


1


















66.7


33.3
















2
1
4
1

1
7
5
9
8
13
24
3









2.6
1.3
5.1
1.3

1.3
9.0
6.4
11.5
10.3
16.7
30.8
3.8






1


1
2
5



7
5
7
20
58
150
9






0.4


0.4
0.8
1.9



2.6
1.9
2.6
7.5
21.9
56.6
3.4







1

1
1
8
3
7
5
9
10
20
23
52
122
4







0.4

0.4
0.4
3.0
1.1
2.6
1.9
3.4
3.8
7.5
8.6
19.5
45.9
1.5







4

2
1
1
1
1
1
2
1
1
4
14
16
1







8.0

4.0
2.0
2.0
2.0
2.0
2.0
4.0
2.0
2.0
8.0
28.0
32.0
2.0









1

1



1




1










25.0

25.0



25.0




25.0











1
4
1
2

9
1
5
4
15
11











1.9
7.4
1.9
3.7

16.7
1.9
9.3
7.4
27.8
20.4






1



2

5
3
2

5
4
12
10
15
20
3





1.2



2.4

6.1
3.7
2.4

6.1
4.9
14.6
12.2
18.3
24.4
3.7









1
1
1
1
1
1
2


1
3
3
1









6.3
6.3
6.3
6.3
6.3
6.3
12.5


6.3
18.8
18.8
6.3

 
1669
100.0
 
3
 
 
0.2%
78
 
 
4.7%
265
 
 
15.9%
266
 
 
15.9%
50
 
 
3.0%
4
 
 
0.2%
54
 
 
3.2%
82
 
 
4.9%
16
 
 
1.0%

 地域


石高
14151617181920
目黒・白金麻布赤坂青山・渋谷千駄谷四谷大久保市ヶ谷・
牛込
小日向音羽小石川
%%%%%%%%%%%

9500~
9000~
8500~
8000~
7500~
7000~
6500~
6000~
5500~
5000~
4500~
4000~
3500~
3000~
2500~
2000~
1500~
1000~
500~
その他
 (注1)

















3
2
2
1


















37.5
25.0
25.0
12.5








1


8

1
1
2
1
3
6
15
20
1








1.7


13.6

1.7
1.7
3.4
1.7
5.1
10.2
25.4
34.0
1.7


1







1
1
1
1

3

5
3
10
28
2


1.8







1.8
1.8
1.8
1.8

5.4

8.9
5.4
17.9
50.0
3.8









1
1
1
1


1

1
2
5
10
1









4.2
4.2
4.2
4.2


4.2

4.2
8.4
20.8
41.7
4.2




















1





















100.0








1

1

1



4
1
1
1
8
40
3







1.6

1.6

1.6



6.6
1.6
1.6
1.6
13.1
65.6
4.9















1


1

6
2















10.0


10.0

60.0
20.0



1




1
1
1
1
1
2
1
6

3
4
13
83
3



0.8




0.8
0.8
0.8
0.8
0.8
1.7
0.8
5.0

2.5
3.3
10.7
68.6
2.5






1

1


2


1
1
2
1
4
6
64
6






0.8

0.8


1.7


0.8
0.8
1.7
0.8
3.3
5.0
52.9
5.0


















1
2
2
1


















16.7
33.3
33.3
16.7







1



2

2
1
3
3
7
2
8
38
2







1.4



2.9

2.9
1.4
4.3
4.3
10.1
2.9
11.6
55.1
2.9

8
 
 
0.5%
59
 
 
3.5%
56
 
 
3.4%
24
 
 
1.4%
1
 
 
0.1%
61
 
 
3.7%
10
 
 
0.6%
121
 
 
7.2%
89
 
 
5.3%
6
 
 
0.4%
69
 
 
4.1%

 地域


石高
21222324252627282930その他
(注2)
駒込巣鴨根岸・谷中本卿・湯島下谷浅草・蔵前浅草・箕
輪・今戸
向島・
隅田川
本所深川
%%%%%%%%%%%

9500~
9000~
8500~
8000~
7500~
7000~
6500~
6000~
5500~
5000~
4500~
4000~
3500~
3000~
2500~
2000~
1500~
1000~
500~
その他
 (注1)










1





1

1
6












11.1





11.1

11.1
66.7





















8
2




















80.0
20.0

















































1

1


1
5
1
3
1
4
6
8
3
13
24
7





1.3

1.3


1.3
6.4
1.3
3.8
1.3
5.1
7.7
10.3
3.8
16.7
30.8
9.0





1



1

2


1
2
5
3

12
18






2.2



2.2

4.4


2.2
4.4
11.1
6.7

26.7
40.0






1

1





1

2
2
3
2
5
4
1





4.5

4.5





4.5

9.1
9. 
13.6
9.1
22.7
18.2
4.5











1



1



1

3











16.7



16.7



16.7

50.0



















































1
1
3

4

1
1
11
5
9
16
24
68
7







0.7
0.7
2.1

2.8

0.7
0.7
7.6
3.5
6.3
11.1
16.7
47.2
4.9











2





1
1
4
6
1











13.3





6.7
6.7
26.7
40.0
6.7




















11
3























9
 
 
0.5%
10
 
 
0.6%
78
 
 
4.7%
45
 
 
2.7%
22
 
 
1.3%
6
 
 
0.4%
144
 
 
9.0%
15
 
 
0.9%
14
 
 
0.8%

(注)渡辺一郎編『徳川幕府大名旗本役職武鑑』第二巻所収『国字名分集』により作成。
(注1) 石高表示でないもの
(注2) 京・駿府・甲府・八王子在住のもの


 
【旗本の分布】 これらの資料によれば、旗本の居住は、番町および駿河台・小川町両地域に圧倒的に多く、次いで番町地域に臨接した市ケ谷・牛込地域、さらに本所地域が多くなっている。第八~第一三地域のうち港区地域については全一六六九人のうち一四・四パーセントに相当する二四一人が居住しており、全体で、番町(3)あるいは駿河台・小川町(4)のそれぞれ一地域内に居住する旗本数にほぼ同じ人数となっている。そのうち、大名屋敷地帯でもある芝・愛宕下地域(⑧)に八二人と集中し、麻布地域(⑪)に五九人、赤坂地域(⑫)に五三人、となっている。
【港区地域の旗本】 石高別にみると、港区地域では江戸全域と同様に五百石台から、千五百石未満の下層の者が多く、この階層で全体の五四・七パーセントを占めている。一方、三千石から五千石クラスの中層の旗本が江戸全域での分布の割合に比べてやや多くなっているのも特徴的である。なかでも芝・愛宕下地域がもっともそのような特徴を示している。愛宕下居住の八千石・本堂内蔵助を最高に、五百石台から二千石台にかけての分布が多い。芝・高輪地域は三田松本町の六千石・大久保播磨守を最高として分布数は全一六人とあまり多くない。白金地域は全八人で白銀御殿跡に居住し、いずれも石高千五百石の荒木十左衛門、内田伊三郎、藤沢織部が最高である。麻布地域は市兵衛町の曽我伊予守が六千五百石で筆頭であるが、五千石台が八人とやや多く、次いで五百~千石台に分布が多い。赤坂地域では九千五百石の赤坂溜池端横田筑後守が筆頭を占め、なお、五百石~千石台の分布が多い。青山地域は全二〇人で、青山宿の青山備前守が五千五百石の最高位である。これらを核としながら港区地域全体では付録地図にもみるように、旗本・御家人の居住地域は相当に広範囲にわたっていることが確認できるであろう。
【旗本屋敷の面積】 ところで、寛永元年(一六二四)三月の規定(『徳川禁令考』二三四二)によれば、一万石以下旗本の屋敷地の面積について表7のように決められている。また、慶安二年(一六四九)十月には、旗本軍役について表8のような規定がある(『徳川禁令考』一九八・一九九および新見吉治『旗本』一二八ページによる)。たとえば、二〇〇石取りの旗本の場合、総勢五名(侍一人、甲胄持一人、鑓持一人、馬口取一人、小荷駄一人)の家臣を抱えて、いったん事ある時に備え、およそ六〇〇坪ほどの屋敷を構えるべきものとされていたわけである。
 もっともこれらはあくまでもたてまえとしての規定であって、泰平の時代にあっては、二〇〇石の武士で馬を飼っている者は珍しく、五〇〇石高でも一頭を飼っていたらよいほうで、なかには馬を飼う身で馬に乗れない未熟者もあったという(笹間良彦『江戸幕府役職集成』)。
 

表7 旗本の屋敷割基準

石    高
間   数
坪 数
   石     石 
10000 ~ 40000※
6,000 ~ 4,000 
3,500 ~ 1,600※
2,500 ~ 1,600 
1,500 ~  800 
 700 ~  400 
 300 ~  200 
  間  間 
50 × 50
40 × 40
30 × 40
33 × 33
30 × 30
25 × 30
20 × 30

2,500坪
1,600 
1,200 
1,089 
 900 
 750 
 600 

(注) ※は典拠史料『徳川禁令考2342』のまま。


 

表8 慶安2年(1649)旗本軍役人数割

石 高総人数鉄 砲騎 士雑 兵
(石)(人)(挺)(張)(本)(人)(人)(人)(本)
  200
  250
  300
  400
  500
  600
  700
  800
  900
 1,000
 1,100
 1,200
 1,300
 1,400
 1,500
 1,600
 1,700
 1,800
 1,900
 2,000
 3,000
 4,000
 5,000
 6,000
 7,000
 8,000
 9,000
 10,000
5
6
7
9
11
13
15
17
19
21
23
25
27
28
30
31
33
35
36
38
56
79
103
127
148
171
192
235





1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
2
2
2
2
3
5
5
10
15
15
15
20




1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
3
5
10
10
10
10
1
1
1
1
1
1
2
2
2
2
3
3
3
3
3
3
4
4
4
5
5
10
10
10
10
20
20
30
1
1
1
2
2
3
4
4
5
5
5
6
6
7
7
8
8
8
8
8
8
9
9
10
11
12
14
16




















2
3
5
5
6
7
8
10
3
4
5
6
7
7
7
7
10
12
13
14
16
17
17
18
18
20
21
22
36
57
71
87
96
107
125
149






















2
2
2
2
2
3

(注) ① 『徳川禁令考198,199』および新見吉治『旗本』(128ページ)による。
 ② 旗1本につき旗指し3人を雑兵に算入。