町人の階層差はこのように住む場所とともに、住宅のつくりや規模にもはっきりと現われていた(内藤昌『江戸と江戸城』)。表通りの、おもに大商人の店蔵として利用されたのは土蔵造りの家屋で、すべて厚い漆食いで仕上げられた耐火建築である。間口も京間五~一〇間(九・八~一九・五メートル)ほどもあった。
地借層の住宅に多いのは、塗屋(ぬりや)造りと呼ばれる一部を土壁漆食仕上げにした簡易耐火建築である。間口は京間二間半(四・九メートル)程度である。店借層の多くは、焼屋(やきや)に住んでいたが、名前のとおり火に弱い建築である。裏長屋には間口九尺(二・七メートル)と二間(田舎間=三・六メートル)の、いわゆる「九尺二間」の裏長屋が多かった。
木挽町六丁目北角より三軒目(現・中央区)を例にすると、最大の宅地は一六坪半(一軒)で順次、九坪(四軒)、六坪七五(二軒)、五坪半(一軒)、五坪(五軒)、三坪七五(七軒)である。一戸当たり平均坪数は七坪八五だが裏店の十三軒をみると、わずか四坪三六しかなかった(松本四郎「幕末・維新期における都市の構造」『三井文庫論叢』四号)。
【港区地域の宅地規模】 港区地域に関しては、松本四郎が『文政町方書上』から作成したものにもとづき、芝地区の平均宅地面積を町ごとに比べてみよう(表21)。
表21 芝地区の1戸当たり宅地面積
地 区 ・ 町 名 | 総戸数 | 町内 面積 (坪) | 宅地 面積 (坪) | |
1 | 芝口一丁目西側 芝口一丁目東側 二葉町 芝口新町 汐留三角屋敷 芝口二丁目 芝口三丁目 | 199 47 140 54 11 161 140 | 3,267 726 1,395 764 165 2,568 2,296 | 16.4 15.4 10.0 14.1 15.0 16.0 16.4 |
2 | 源助町 露月町 柴井町 芝新銭座町 宇田川町 宇田川横町 芝三島町 神明町 | 229 160 337 53 387 32 109 185 | 2,575 2,407 3,930 1,138 3,875 567 1,764 2,363 | 11.2 15.0 11.7 21.4 10.0 17.7 16.2 12.8 |
3 | 芝神明門前町 芝七軒町 芝片門前一丁目 芝片門前二丁目 芝中門前一丁目 芝中門前二丁目 芝中門前三丁目 | 47 29 82 85 178 238 169 | 1,081 498 1,049 1,227 2,109 2,123 1,467 | 23.0 17.2 12.8 14.4 11.8 8.9 8.7 |
4 | 芝浜松町一丁目 芝浜松町二丁目 芝浜松町三丁目 芝浜松町四丁目 芝土手跡町 芝新網町 芝湊町 | 138 282 211 155 27 632 28 | 1,647 3,125 1,972 1,815 717 5,772 1,190 | 11.9 11.1 9.8 11.7 26.6 9.1 42.5 |
5 | 芝青松寺門前町 芝青竜寺門前町 芝青竜寺門前町代地 芝北新門前町 芝富山町 芝光円寺門前町 芝御霊屋御掃除屋数 | 49 4 12 25 52 9 67 | 327 108 141 294 554 85 1,095 | 6.7 27.0 11.8 11.8 10.7 9.4 16.4 |
6 | 芝金杉通一丁目 芝金杉通二丁目 芝金杉通三丁目 芝金杉通四丁目 芝金杉同朋町 | 79 170 140 144 15 | 900 1,733 1,868 1,823 569 | 12.5 10.2 13.3 12.7 37.9 |
7 | 芝金杉裏一丁目 芝金杉裏二丁目 芝金杉裏三丁目 芝金杉裏四丁目 芝金杉裏五丁目 | 72 117 89 133 56 | 1,670 1,582 891 1,316 903 | 23.2 13.5 10.0 9.9 16.1 |
8 | 芝金杉片町 芝金杉裏三丁目経覚寺門前町 芝金杉浜町 芝金杉橋戸安楽寺門前町 芝西応寺町 | 100 3 108 4 329 | 923 24 1,437 41 5,135 | 9.2 8.0 13.3 10.3 15.6 |
9 | 本芝一丁目 本芝二丁目 本芝三丁目 本芝四丁目 | 226 269 212 162 | 2,324 2,384 2,243 3,112 | 10.3 8.9 10.6 19.2 |
10 | 本芝材木町 本芝下タ町 芝六軒町 芝寿命院上ヶ屋鋪 本芝入横町 芝横新町 芝通新町 | 113 89 55 28 112 133 162 | 1,024 1,045 655 327 1,406 1,676 2,658 | 9.1 11.7 11.9 11.7 12.6 12.6 16.4 |
11 | 芝田町一丁目 芝田町二丁目 芝田町三丁目 芝田町四丁目 芝田町五丁目 芝田町六丁目 芝田町七丁目 芝田町八丁目 芝田町九丁目 | 114 183 163 96 107 146 36 71 69 | 4,627 4,870 4,153 4,431 2,543 4,159 4,393 5,169 2,289 | 40.6 26.6 25.5 46.2 23.8 28.5 122.0 72.8 178.1 |
12 | 芝築地同朋町代地 芝南新門前町一丁目代地 芝南新門前町二丁目地代 芝中門前町三丁目代地 芝松本町一丁目 芝松本町二丁目 芝新網町代地 | 61 60 62 17 132 34 37 | 775 463 908 299 2,291 674 954 | 12.7 7.7 14.6 17.6 17.4 19.8 25.8 |
13 | 芝車町 芝大円寺門前町 芝泉岳寺門前町 芝如来寺門前町 | 276 1 48 21 | 8,221 7 795 1,001 | 29.8 7.0 16.7 47.7 |
(注) 松本四郎「幕末・維新期における都市の構造」『三井文庫論叢』4号より引用。
芝地区全体の一戸当たり宅地面積は一五・七坪であるが、地区により、また町ごとにかなり格差が大きい。地区では、田町辺(11)が最高で三七・二坪、次いで車町辺(13)が二九・〇坪であるのにたいし、芝片門町辺(3)、浜松町辺(4)、増上寺門前町辺(5)および本芝辺(9)では一一坪台で小さかった。
宅地面積の大小にはいろいろな背景が考えられるが、まず、住民構成との関連をとりあげるべきだろう。一般的にみた場合には、店借層が多いほど宅地規模は零細になる傾向があるといえよう。地区では(4)・(6)・(9)・(10)が該当するだろう。店借率が七〇%を超える町は柴井町・宇田川町(以上(2))、芝中門前(3)、芝浜松町・芝新網町(4)、芝金杉通(6)、芝金杉裏(7)、芝金杉片町・芝西応寺町(8)、本芝(9)、本芝入横町・芝横新町・芝通新町(10)、芝田町(11)、芝松本町(12)、芝車町(13)であるが、この町々の多くが、平均よりも狭い宅地面積であった。
ただし、店借率も比較的高い芝田町辺(11)で宅地規模が例外的に大きい(三七・二坪)のは、大名の抱屋敷があったこと、海岸沿いのために築地が行なわれていたことがその理由として考えられている。