区庁舎と区会

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【区役所の開庁と所在地】 三区設置とともに、同年十一月二日、区役所の所在が決められ、同月四日に開庁した。この区役所は「大区小区制」時代の区務所の系統をひいてきているものが多かった。
 
芝区役所 芝公園地大門通の浄土宗安養院を借りて開庁。この建物は太平洋戦争の戦火で焼失してしまったが、同十九年九月愛宕町三丁目六番地(御成門十字路の東角)に移転するまで庁舎として使用された。同四十年九月区会議事堂の失火により一時芝公園六号地一番の仮庁舎に移り、同四十三年八月愛宕町の新庁舎に復帰した。
 
麻布区役所 麻布宮村町の竜沢寺の旧区務所を区役所にあてた。のち麻布市兵衛町二丁目六三番地と隣接の六二番地の土地を買収、同十五年十二月移転した。のち移転問題が起こり、麻布永坂町、麻布仲之町などが候補地にあがったが、結局、同四十二年六月麻布市兵衛町二丁目六二番地二号三号、六三番地の一部などを買収して庁舎新築。この間、区役所は麻布鳥居坂町一三番地の東洋英和女学校内にあった日本加奈太メソヂスト宣教師社団所有の二階建家屋を借りて事務を執っていた。
 
赤坂区役所 はじめ赤坂表町三丁目五番地に設置され、同十三年五月表町三丁目一〇番地の小原久万所有の建物を借りて移転し、さらに翌十四年十月表町一丁目一一番地の元赤坂警察署跡へ移った。同二十四年三月、市区改正事業の一環として表町通りに直線道路を開通することになり生じた赤坂離宮の飛地一一四五坪が下付され、同年十一月二階建煉瓦造りの庁舎の竣工をみた。庁舎の所在が皇宮地趾であることを記念し、昭和四年九月「皇宮地下付記念碑」が役所表玄関前に建立されている。
 
 初代区長には、芝区長に相原安次郎、麻布区長に前田利充が十一月二日付で発令されたが、赤坂区長はこの日発令がなく、区長事務代理に東京府御用掛浦田長民が命ぜられ、翌十二年一月島津忠亮が任命された。
 
 明治十二年一月二十三日府布達第四号をもって「区会規約」および「町村会規則」が定められた。町村民会の発展のうえで重要な役割を果たしたのは、九年十月の「区町村金穀公借共有物取扱土木起功規則」の公布である。かくて地主制の展開を背景に資産を有する階層の地方行政への参加・活動をある程度まで容認した形態がとられ、三新法体制のもとで、区会開設へとすすむ方向となった。
 区・町村会議員の被選出者となる資格要件は、満二〇歳以上の男子で、区内に本籍を有し住居を定め、区内に土地を所有する者でなければならない。さらに選挙資格要件は、満二〇歳以上の男子で、その区内に本籍を有し住居を定め、または満三カ年以上寄留する者とした。これらの制限は府会議員のそれにくらべやや緩和されたものになっていた。
 ついで二月三日、府布達第一一号をもって区会議員の人員が定められ(芝区三五人、麻布区二〇人、赤坂区二〇人)、同月、第一回区会議員選挙が行なわれた。同十三年四月八日、政府は太政官布告第一八号をもって「区町村会法」を公布するに至り、ここに区町村会は、その区町村の公共に関する事件および経費を議決する機関となり、区会の規則はその区の便宜に従って設け、府知事の裁可を受くべきものとした。また、区会の議決は区長が施行すると規定し、ここに議決機関の事務と理事機関の事務とが区別された。行政権の側からする規制が強められている反面、地方の慣習・便宜に委任する幅を大きく許容しており、原則として区町村単位の財政事項についてかなりの権限委任が行なわれたともいえる。区会規則の一例として明治十五年六月九日改正の芝区の区会規則の一部を次に掲げる。
【区会規則】
芝区会規則
   第一章 総則
 第一条 区会は通常会と臨時会との二類に分つ
 第二条 通常会は定期之を開き、臨時会は臨時之を開くものとす
 第三条 通常会臨時会を論せす、会議の議案は区長より之を発す
 第四条 区会に於て区内公共に関する事件及経費の支出徴収方法に付、議員より意見書を出す時は、之を取
  捨し、当に議すへき意見と認むるに於ては之を会議の議と為すへし
  但、臨時会に於ては、其会議を要したる事件に限り意見書を出すを得
 第五条 区会の議決は区長之を施行すと雖も、猶施行十日以前府に報告すへし
 第六条 通常会期中、議員の内区内の利害に関する事件に付、府庁へ建議せんとする者あるときは、之を会
  議に付し、可決したるときは、議長の名を以て建議することを得
  但、臨時会に於ては、其会議を要したる事件に限り建議することを得
 第七条 区会は府庁より区内に於て施行すへき事件に付、意見を問ふことあるときは之を議す
 第八条 区会は議事の細則を議定し、区長の認可を得て之を施行すへし
 第九条 区会は議員の内招集に応せす、又は事故を告すして参会せさる者を審査し、其退職者たるを決する
  を得
   第二章 選挙
 第十条 略
 第十一条 議長及副議長は議員中より公選して区長に報告すへし
 第十二条 議長副議長及議員は俸給なし、書記は議長之を選ひ、庶務を整理せしむ、其俸給は会費の中より
  之を支給す
 第十三条 区会の議員たるを得へき者は満二十歳以上の男子にして、区内に本籍住居を定め、区内に於て土
  地を有する者に限る
  但、左の各款に掲くる者は議員たることを得す
  第一款 風癲白痴の者
  第二款 旧法に依り一年以上懲役、国事犯禁獄の刑に処せられ満期後五年を経さる者、新法に依り公権を
   制奪及停止せられたる者、又は一年以上軽重禁錮の刑に処せられ満期後五年を経さる者
  第三款 身代限りの処分を受け、負債の弁償を終へさる者
  第四款 官吏教導職及陸海軍諸卒現役の者
  第五款 府県会及区会に於て退職者とせられし後四ケ年を経さる者
 第十四条 議員を選挙するを得へき者は満二十歳以上の男子にして、区内に於て土地を有し、其部内に本籍
  住居を定むる者及満三年以上間断なく寄留する者に限る。但、前条の第一款、第二款、第三款、第五款に
  触るるもの及陸軍々人現役の者は選挙人たることを得す
 第十五条 議員を選挙せんとするときは、区長は少なくも十日以前に選挙会を開くことを公告し、区役所に
  於て投票を為さしむ、但、便宜に依り役所外に於て選挙会を開くことを得
 第十六条 投票は区長より附与したる用紙に選挙人自己の住所姓名及被選挙人の住所姓名を記し、予定の日
  之を区長に出すへし、但、投票は代人に托し差出も妨けなし
 第十七条 投票は選挙人の面前に於て区長之を披閲し、最も多数の者を以て当選人とし、同数の者は年長を
  取り、同年の者は鬮を以て之を定む
 第十八条 投票披閲終るの後、区長は選挙人名簿に就て当選の当否を査し、又被選人名簿に就て当選の当否
  を査す、若し法に於て不適当なる者あるか、或は当選人自ら其選を辞するときは、順次多数の者を取る
 第十九条 当選人の当否を査定するの後、区長は其当選人を役所に呼出し当選状を渡し、当選人は請書を出
  すへし、但、当選人請書を出したる後、区長は其姓名を区内に公告す
 第二十条 議員の任期は四年とし、二年毎に全数の半を改選す、但、第一回二年期の改選を爲すは抽籤を以
  て其退任の人を定む
 第二十一条 議長副議長は議員の改選毎に之を公選すへし
 第二十二条 前二条の場合に於ては、前任の者を再選することを得
 第二十三条 議員中第十三条に掲くる諸款の場合に遭遇する者あるか、其区外へ転籍するか、其他に依て欠
  員あるときは、更に其欠に代る者を選挙す
   第三章 議則
 第二十四条 議員半数以上出席せされは、当日の会議を開くを得す
 第二十五条 会議は過半数に依て決す、可否同数なる時は議長の可否する所に依る
 第二十六条 区長若くは其代理人は、会議に於て議案の旨趣を弁明するを得ると雖も、決議の数に入ること
  を得す、但、第四条に掲くる議案の旨趣は意見書を出せる議員之を弁明することを得
 第二十七条 会議は傍聽を許す、但、区長の要求に依り、又は議長の意見を以て之を禁するを得
 第二十八条 議員は会議に方り充分討論の権を有す、然れとも人身上に付褒貶毀誉に渉ることを得す
 第二十九条 議場を整理するは議長の職掌とす、若し規則に背き議長之を制止して其命に順はさる者ある時
  は議長は之を議場外に退去せしむるを得、其強暴に渉る者は警察官吏の処分を求むるを得
   第四章 開閉
 第三十条 区会は毎年五月に於て之を開く、其開閉は区長より之を命し、会期は十日以内とす、但、区長は
  会議の衆議を取りて其日限を伸ることを得ると雖も、其事由を府庁に報告すへし
 第三十一条 通常会期の外、会議に付すへき事件あるときは、区長は臨時会を開くことを得、但、区長は議
  会を要する事由を府庁に報告すへし