(1) 復興の市民精神

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 江戸っ子以来、伝統的につちかわれてきた楽天主義、たとえそれが頻発する火災によってニヒルになった市民が、それをつき破り乗りこえての楽天主義であったにせよ、この大震災後の復興に当たっても、驚嘆するほどの落ち着きと努力によって、破壊された都市東京を見事にたちまちのうちに復興させた。復興に当たってのノンキ節の流行、「天災じゃ仕方がないとすましてる。へへのん気だね―」といったこの歌は、文字どおり市民を元気づけ、急速な回復に役立ったといえる。この楽天的市民精神は復興した都市東京の新しい階層、通勤サラリーマンたちの共感をよんだ『ノンキナトーサン』という麻生豊の漫画となってマスコミにとりあげられ、市民の大好評を博した。その後間もなく襲った不況時代のなかにあっても、のん気な楽天的生活意識と社会観は、江戸から引き続いた市民の共通した精神であるといえよう。
 区内においては、前述のように、芝区内は相当に大きな被害をうけたが、たちまちのうちに見事に近代的都市によみがえらせ、芝っ子的たくましさをみせて、復興をなしとげた。麻布にしても赤坂にしても、こうした復興の波は次第に市街を変貌させて、より明るい市街になっていった。
 ことに芝浦のすばらしい発展は、港として、工業地帯として、東京における重要な地位にのしあがつていった。