(四) 病との闘い

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【疫病とのたたかい】 敗戦は、飢えとともに、いまひとつさまざまな病を発生させ、そして伝染させていった。
 これらの病と闘うために、昭和二十三年二月二十四日、赤坂衛生組合の結成をはじめとして、その防衛の組織化が進められていった。
 そして、この年十月一日に発足した保健所が、芝・麻布・赤坂に設けられ、以後ここを中心として、廃墟とセットされた病との闘いが展開されていった。
 また、全国一斉に、そうした病の温床ともなっている家や河川の清掃も行なわれた。昭和二十四年五月十日号の『港区政ニュース』は、次のように呼びかけている。
 
   戦禍により荒廃した日本を昔日の美しさにかえし国民の健康にして文化的な生活を確保するために五月十六日から二十二日まで全国に清掃美化運動が実施されることになりました。祖国の復興はまず手近なところから、あなたの周囲をきれいにいたしましょう。なお同期間中の行事は、次の通りであります。
  五月十六日 家庭清掃の日  五月十七日 下水河川清掃の日  五月十八日 道路公園清掃の日
  五月十九日 空地清掃の日  五月二十日 洗濯の日  五月二十一日 公共施設清掃の日
  五月二十二日 鼠、蚊、蠅取デー
 
 疲労と栄養失調に加えて、衛生施設の破壊や焼失とその資材の生産停止が、それらの疾病をさらに広めていった。
 慢性下痢、流行性黄疸、浮腫、結核、発疹チフス、赤痢などがそれであった。
【頭から真っ白―DDT散布】 昭和二十一年三月に発生し、爆発的に流行していった発疹チフスは、その象徴といえよう。GHQによる大量のDDT散布剤、発疹チフス・ワクチンの供給は、このとき登場したのであった。
 都は警視庁の協力を得て、予防接種班とDDT散布班を新橋や品川など国鉄の各駅に派遣して、予防接種を行ない、一方、病原の伝播媒介の主役とされたシラミ駆除のため、DDT散布器による、老若男女を問わず、服の手首や背中に散布器の口をつっ込んで、DDTを吹き込み身体中を真っ白にするという防疫作業を展開していった。そしてこの予防証明書を持たないものは乗車できないという、GHQの命令が出されたほどであった。
 この年、都内の患者数九、八六四人、死者九一四人であった。だが、この防疫が効を奏してか、翌二十二年には、一七二人の患者数にとどまったのである。
【結核には栄養を】 また、結核患者には、食糧の「増配」をし、一日も早く完治されるようにと配慮の手がうたれていった。
 
   結核の療養には医療と看護の外に、栄養を摂取し体力の消耗を補うことが特に必要とされ、病院、療養所等に入院加療中の患者には以前から主食その他の食糧を増配していますが、今回自宅療養中の患者にも同じく特配が認められることになりました。
   配給される食糧及び加配量は次のとおりです。
   主食 一人当たり一日一四〇瓦(七〇瓦は精米、七〇瓦は麦類)
   油脂 一人当たり一ヶ月三〇〇瓦(約一合九勺)
   砂糖 一人当たり一ヶ月三〇〇瓦
   加配を受けようとする方は医師の診断書を居住地区の保健所長に提出して「在宅結核患者証明書」の交付を受け、主食購入通帳並びに砂糖購入通帳及び原票(登録店より返還を求めて下さい。)と共に区役所または支所の経済課へ提出、検印を受け油脂購入券を受取って下さい。なおこの証明は三ヶ月毎に更新し、今回は九日分から配給を受けることができます。 (『港区政ニュース』昭和二十五年十月十日号)
 
 そしてその予防のためのツベルクリン反応検査およびBCGの無料接種などが行なわれた。
【赤痢の予防】 一方、昭和二十五年ごろから広がりはじめた赤痢も、昭和二十六年には患者数三倍となり、その蔓延が危険視され、その予防が呼びかけられた。
 
   昨年来赤痢患者の増加は甚だしく殊に本年は昨年同期に較べすでに三倍という数字を示しており、春から夏にかけて蠅の発生とともに今後ますます増加する恐れが多い。この増加の原因については食糧事情の好転に伴い過飲過食の多くなったこと、これに乗じて飲食店等の進出は目覚ましく中には衛生的に見て施設の不備な店も相当数あること等が挙げられているが、区民各位におかれても、この際赤痢予防について充分の注意を払われたい。例えば食事の前に必ず手を洗うとか、暴飲暴食を避け外での食事はなるべく店格の標示が「秀」または「優」の店でとること等が要望されている。
   次に挙げるのは昨年八月関東民事部より発せられた赤痢予防に対する注意事項であるが、今回更にこれらのことに関心をたかめこの病禍から身を護りたいものである。なお、区内各保健所ではこの対策の一つとして現在食品取扱業者の検便を実施中である。
     赤痢予防に関する注意
   赤痢は食物、指、蠅および大便によって蔓延します。左記の事項を守って赤痢を予防して下さい。
   a 飲料水や食物には覆いをして蠅がたからぬようにすること。
   b 飲料水は当局の認めた井戸や水道から取りそれ以外の水を飲む時には、漂白粉を入れてあるかある
    いは煮沸してあるかを先ず確かめましょう。
   c 便所から出たら手を洗うこと。
   d 下痢、しぶり腹その他胃腸病の徴候がある時は他の人の食物や食器に手を触れないこと。
 (『港区政ニュース』昭和二十六年二月二十六日号)
 
【戦後の象徴のひとつ?―新害虫アメリカシロヒトリ】 そしていまひとつ、廃墟の街に猛威をふるったものに、街路樹を襲った「アメリカシロヒトリ」の発生があった。この新しい害虫の正体と予防について、広報紙は次のように詳細に報じている。
 
   一昨年ごろより、鈴かけ、ポプラ、柳等の街路樹やその他の樹木また農作物にアメリカシロヒトリという害虫が発生し、恐るべき勢いで繁殖しています。農林省では緊急防除策を講じてその駆除に全力を注いでいますが、今年もまたその幼虫の成長期に入り、都内の樹々にもそろそろ虫害の兆しが見えてきました。区では都の防除策の趣旨に添って区役所にこの防除本部をおき区内の樹木の監視、発生状況の調査および駆除について早急に対策をたて、近くその実施にうつることになりました。
   アメリカシロヒトリとは長さ一糎位の小さい白蟻で、五月中旬ごろと八月上旬ごろの二期に発生し、すぐ産卵するので幼虫もまた六月上旬から七月にかけての一期と八月下旬から九月上旬ごろの二期に分かれて発生し、盛んに樹木の葉を食害して成長します。卵は淡緑色で直径〇・五粍、普通六〇〇から八〇〇粒が樹木の葉にかためて生みつけられ、白い毛で蔽われています。幼虫は長さ三糎位、頭や胴の背や腹部は黒色、横側は淡黄色で各関節にいぼがあり、そのいぼから三十数本の長い毛が生えています。主として鈴かけ、桜、梅、ポプラ、トネリコ、柳、楓等の葉につきますが、桑、稲、大豆、甘薯、とうもろこし等にもつき、くもの巣のような白い糸で葉を何枚もつづりあわせたり、巻いたりしてその中に棲み、盛んに葉を食べて殆んど丸坊主にしてしまいます。この幼虫の時期に徹底的に駆除することが最も効果的であるので、調査員は区内の樹木を監視し、発生場所を調査して防除員に連絡すれば直ちにその被害葉茎の徹底的除去につとめますが、区民の皆様にもこの防除班に協力されて、自宅や附近の樹に注意され見つけ次第退治して下さい。駆除方法は虫のついている葉や枝を切り落し、焼却するかまたはふみつぶし、あるいはDDT、BHC等の殺虫剤をかけて殺します。学校、工場、事業場等で沢山虫が発生し、どうしても駆除出来ないときは区役所経済課または支所の経済係へすぐ連絡して下さい。 (『港区政ニュース』昭和二十六年六月十一日号)