【都長官、三区に再議を指示】 以上にみたように、芝・麻布・赤坂の三区ともに、都の統合決定を拒否した。そこで、都長官は、都制施行令第八十一条第一項にもとづき、三区の区長に次のような再議の指示文書を送付した。
昭和二十二年一月八日、貴区会の否決した区の区域の整理統合に関する件は左記理由により明らかに公益を害すると認められるから、都制施行令第八十一条第一項にもとづき再議に附せられたい。
記
本件は区域整理委員会の慎重審議を経て定められた答申にもとづいて、二十二区制を採択実施することになったものであり、且つ関係各区は現に二十二区制の実施を前提としてそれぞれ可決しつつある現況であるから、これが否決は公益上必要な整備統合計画を否定し、実施を不可能ならしめるばかりでなく、関係各区民に重大な影響を及ぼすことは明らかである。
右の都長官による再議指示を受けた芝・麻布・赤坂三区の各区長は、それぞれ区会に再議の提案を行なった。しかし、芝区会が、再議によって統合を決定したのに対し、麻布・赤坂の両区会は、依然として統合に難色を示した。
【芝区統合に同意】 芝区では、二十二年一月二十七日に、再議のための区会がもたれた。同日の区会は、この問題について一五名の議員から成る審査委員会の設置を決定した。そして、審査委員会の議を経た二月十五日の区会において、審査委員長中塚栄次郎議員より、区域整理統合に関する審査の経過概要および原案可決の意見報告が行なわれた。これを審議した芝区会は、同日都の原案を全員一致をもって可決したのである。
こうして、芝区会は、かつての強硬な反対姿勢を一転させ、何らの条件をつけることなく、都の整理統合案を受け入れることになった。
一方、麻布区ならびに赤坂区の再議のための区会は、二月十七日に開催された。両区会とも反対論が多数を占めていたが、この日麻布区会は、石橋力次郎議員を審査委員長とする一五名の区議からなる審査委員会を設けた。赤坂区会もまた、議員全員からなる審査委員会を設置した。
ところで、統合対象区のうち、都の統合案に反対していたのは、日本橋区、小石川区、本郷区、下谷区であったが、これら各区も、二月上旬には都長官の指揮による再議の結果、それぞれ原案賛成へと変化していた。
【植原内相が三区統合を斡旋】 このように麻布・赤坂の両区が、孤立化の様相を深めつつある状況下において、三区統合を決定づけた一つの重要な会議がもたれた。二十二年二月二十五日、都長官が設けた植原悦二郎内務大臣と三区の区長ならびに区議会議長をまじえた三区統合斡旋の場がそれである。植原内務大臣は、この席において、都制改革と区域再編成の意義を説くとともに、区長室(区役所本庁舎)を地理的に三区の中央たる麻布区役所に置くことを条件に、三区が統合を受け入れるよう強く要請した。