苦悩のなかの麻布・赤坂区合意

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 内務大臣の斡旋を麻布・赤坂区は受け入れざるを得なかった。しかし、麻布・赤坂区会の統合案承認はまさに苦悩に満ちていた。
 麻布区会は、内務大臣斡旋の翌二月二十六日、区会を開き三区統合を公式に決定した。この日、石橋力次郎審査委員長は、次のように統合問題の審査経緯を説明している。
 
  (前略)ソモソモ本案ガ去ル二月十七日ノ区会ニ再議ニ附スベキヤ否ニツイテハ私共ハ再議不用寧ロ返上論ヲ主唱シタ一人デアリマシタガ事案ノ重大性ニ鑑ミ各方面ノ客観情勢等モ勘案ノ末再度調査研究スベシトノ御意見多数アリテ、区会トシテハ曩頃ノ一切ノ行懸リヲ白紙ニ戻シテ再調審議シ其ノ結論ヲ見出サントシテ設ケラレタルノガ本委員会デアッタ。
  斯クシテ委員等慎重審議ヲ重ネ、其ノ間情勢ハ一日一日卜形勢変貌シ強硬ト伝へ聞イタ日本橋区或ハ小石川本郷更ニ下谷区ノ如キ漸ク原案賛成区ガ増大シ、残ル当三区モ芝ノ如キモ既ニ大勢決シタルヤノ情勢トナリ加ヘテ選挙期日ノ告示等ノ事情モアリ事態ハ愈急迫シ、昨二月二十五日ニハ内務大臣、都長官ノ臨席ヲ得テ政府筋ノ意向等モ最後ハ原案執行ノ決意ヲ仄カサルルニ至ッテ、ヤガテハ原案執行ノ前ニ屈セネバナラヌ終局ニ逢着シタノデアッタ。ソコデ委員等協議ノ上日本行政史上曽テナイ此種事案ノ原案執行ノ責任ヲ採ル一歩前ニ於テ、寧ロ幾分ナリトモ区民ノ為公共ノ福祉ヲ増大スベキ有利ナル協約ヲ得テ原案賛成ニ進ムルヲ最モ賢明ノ策ト信ジ既ニ都長官ノ裁決ノミデ可能トスル次ノ条項ノ御承認ヲ御願ヒ申上ゲ委員長ノ御報告トイタシマス。何卒賢明ナル各位ノ御承認ヲ御願ヒ申上ゲ委員長ノ御報告トイタシマス。
 
 この委員長報告後、麻布区は左の五項目の附帯条件を決議して、ようやく原案を承認することになった。
 
      覚
   麻布区会ガ都長官ノ発案サレタ二十二区案ニ賛成スルトキハ大体次ノヤウニスル
      記
   一 区長室ハ三区ノ中央ニ位スル麻布区ニ置ク
   二 新区名ハ三区協議ニ基イテ決定スル
   三 三支所ノ連絡ノ便ニ供スルタメ連絡バス(公衆用)ヲ開設シ青山浜松町間ノ都電車ヲ復活スル
   四 麻布区教育会ガ計画シテイル教育会館建設事業ノ遂行ニツイテ都長官ハ十分ナ協力援助ヲ与ヘルコト
   五 東京都区域整理委員会答申案ノ附帯条項ハ即時実行ニ着手スルコト
 
 赤坂区においても、二月二十六日に区会が開催された。この日、区会は内務大臣斡旋を受け入れ、三区統合の議案を可決したが、その際に区会は、左記の四項目にわたる附帯決議を行ない、統合後の新区の運営にあたって赤坂地区を重視するよう都に要請した。
 
      附帯決議
   一 自治権の拡充に伴って、その行政が末端まで手が延びるような組織にしてもらいたい。
   二 区域の境界に著しく不自然なものがあるが、速かに是正して新区の運営に遣憾なきを期してもらい
     たい。
   三 六三三制の教育施設について我が赤坂区は戦災のために、その被害が甚大であったので、今後児童
     の通学、修学上遺憾のない施設としてもらいたい。
   四 交通の便利ということで、青山一丁目から浜松町一丁目に至る電車の運転を急速に実施して欲しい。
 
 こうして、難航した芝・麻布・赤坂三区の統合は、都・内務省の指導のもとに解決したのである。