二十二年五月三日の日本国憲法と地方自治法の施行によって、地方自治体は、地方自治の民主化に向けて新たな歩みを開始した。
【特別区に市なみの権限】 区域の整理統合を経た区は、地方自治法の施行によって特別区となった。特別区には、政令で特別の定めをするものを除いて、原則として市なみの権限が与えられた。けれどもこの規定は、特別区を市と同等の立場におくものではなかった。
特別区の事務は、地方自治法施行令附則第四条によって、道路法、水道法、伝染病予防法、都市計画法の一部ないし全部の適用を除外された。これら法律にかかる事務は、都の事務とされたのである。また、生活保護法、児童福祉法など個別の法律の適用も除外されていた。
加えて、地方自治法附則第二条のただし書きによって、都は、特別区の存する区域について、市としての事務を処理することができた。したがって、都制時代からの伝統が、地方自治法上においても残存していた。この法制上の矛盾は、「都と区の有機的一体性」の確保のためとされたが、しかし、区の事務が、市のそれから程遠かったことは歴然たる事実である。この結果、特別区の事務は、実際には、小・中学校等の教育事務と、わずかな土木管理事務などに限定されたのである。
財政的にみても、特別区の税は東京都特別区税条例によって、地租付加税、家屋税付加税、特別区民税、自転車税など七税目(その後一一税目)であり、財政基盤は脆弱であった。さらに、都は区固有職員のほかに必要な都の吏員を配属することができると地方自治法に定められ、区長の人事権は著しく制約された。加えて、身分上都吏員であるにもかかわらず、区は給与の八割の負担を強いられたのである。
本節では、昭和二十二年から二十六年にかけての港区政が当面した主要な問題を扱う。