区本庁舎の芝移転

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【区本庁舎の芝移転のいきさつ】 前述のように、三区統合後の港区は、区長室の設けられた麻布支所を本庁舎と称していた。しかし、二十二年八月ごろになると、区理事者は行政管理権限の体系化と港区の発展のために、行政機構の改革ならびに本庁舎移転を構想した。
 こうして、区長室は、機構改革案の作成と本庁舎の位置選定にあたった。しかし、前者が職員組合との交渉に手間どったこともあり、区長は、まず十一月初頭の議員懇談会において、非公式に本庁舎の芝地区への移転案を示した。だが、この案が非公式とはいえ発表されると、芝地区には区役所移転促進同盟が生まれた。だが、他方、麻布地区には反対期成同盟が結成され、三区統合時に地区間にみられた対立が再燃したような状態となった。
 区長は、住民間に対立の深まった十一月二十八日の臨時会本会議に、港区役所位置変更に関する条例、ならびに港区役所芝支所廃止に関する条例を上程した。井手区長は「区役所本庁舎は……区におきまする行政運営の本拠であり、その中心である事務執行の機関であるという性質に鑑みまして、区政運営上の最適地に設置するを要する」として、諸基準を検討した結果、芝に移転することが妥当との結論を得たと説明した。すでに区長の条例案事前審査要請を受けてこの移転問題を検討した区議会総務委員会は、十一月十二日と二十一日に委員会を開き芝移転が妥当であるとの結論を出していた。だが、前記二条例案の上程された本会議では、麻布・赤坂地区選出議員ならびに社会党、共産党の議員から反対意見が提出された。
 反対意見には、議員の立場によって若干の違いがみられるが、次の諸点にまとめることができる。すなわち、第一に、三区統合は、地理的中心である麻布地区に区役所本庁舎を置くことによってまとまったものである。今は自治区としての基礎を固めるときであり、本庁舎移転はそれを阻害するものである。第二に、移転には六、七〇万円の費用がかかるが、財政的にみてこの多額の費用負担は好ましくない。それだけの余力があるならば困窮する区民の救済に向けるべきである。第三に、機構改革案をまとめる以前に本庁舎移転を決定するべきではなく、まず港区の新しい行政機構案を示すべきである。
 このような意見が続出したが理事者側ならびに移転推進派は、芝地区の交通の利便性、港湾に近い所に区役所を置くことによって得られる区の発展可能性、といった諸点から移転によって得られる利点を論じた。結局、右の議案は、同日の討論終了後採決され二〇対五をもって可決成立した。以来、今日に至るまで港区役所本庁舎は、区発足時の芝支所(旧芝区役所)におかれている。