自治権拡充運動

826 ~ 828 / 1465ページ
【二二区長会が自治権拡充を具申】 地方自治法の施行によって、特別区は市なみの権限をもつ自治区となった。だが、その実体は、前述のようにはなはだしく脆弱であった。二十二年五月、早くも二二区区長協議会は、都に対して次のような具申書を提出した。それは、「区域統合の趣旨並びに地方自治法に基づく特別区制定の精神に鑑み、現状の如くでは全く区制存置の意味を没却し、斯くては到底区政、都政の円満活発なる発展は期し得られないから至急都政区政の本質に立脚し、人事権、財政権並びに事務事業の全般に亘り之を合理的に是正することが必要であるとの結論に達しましたので茲に之を取まとめ具申することとする」との本文で始まり、人事権、財政権の確立、教育行政、民生行政、衛生行政、経済行政、土木水道行政についての事務移譲を要求した。
 だが、これら特別区の要求は実現をみず、逆に区の事務は、二十三年の保健所法、児童福祉法の制定によって縮小の道をたどった。
 ところで、港区議会においても二十三年に入ると、区長と議員との間で区自治権の確立、都における自治のあり方をめぐって、活発な議論が交わされるようになる。この議論は広範な問題に及んだが、その核心は、区財政自主権の確立にあった。それゆえに、区長に対し先の具申書の内容はそれ自体結構な話であるが、果たして事務事業の受入れ体制の整備に自信をもてるのか、区長はまず財政自主権の確立に努めるべきである、といった疑問が投げかけられもした。
 ともあれ、日本経済の困窮、税財政制度の目まぐるしい変化、区財政の絶対的不足を背景として、二三区の自治権拡充運動は、その実、財政自主権の確立運動として展開された。港区議会が、他区と足並みをそろえて二十三年十二月に財政常任委員会を設け、さらに二十四年三月に、自治権拡充常任委員会を設置したのも財源の委譲運動を行なうためであった。
 二十四年八月、シャウプ税制使節団の勧告が政府に提出された。これは、地方税制の自主性、地方税の合理化、都道府県民税と市町村民税の分離、事務の再配分を骨子としていた。二三区は、この時をとらえて区長協議会、議長協議会、自治権拡充委員長協議会、財政委員長協議会およびこれら四者協議会を頻繁に開き、国会、政府、都などに、特別区課税権の法定、一般平衡交付金制度に準じた都区財政調整制度の確立を要求していった。港区議会も「特別区の財政自主権の確立について」なる決議を、十一月十一日に行ない、他区と一体となって運動を展開することを表明した。
【税財政制度とシャウプ勧告】 政府は、シャウプ勧告を受けて、二十五年にわが国地方税財政制度を改革した。これにともない東京都特別区税条例も改正されたが、シャウプ勧告の方向とは逆に、特別区の課税権は、著しく制約された。すなわち、二十五年九月に施行された右改正条例では、それまでの一一項目の税目が整理され、区の税源は特別区民税、自転車税、荷車税、木材引取税、接客人税、使用人税、犬税の七項目となった。さらに、翌二十六年五月になると右の税目から使用人税が廃止され、さらに特別区民税は個人のみへの課税(法人分は都税)と改定された。このように、特別区の財政自主権確立運動は実らず、これを契機として都と区の抗争は一段と高まっていった。