三十九年三月から九月にかけての港区議会は、前述の地方自治法改正について見るべき動きをしていない。区議会が、事務移譲について論議を展開したのは、改正地方自治法の政令が公布された十一月に入ってである。この時、区議会が主として問題としたのは、第一に、建築基準行政事務の遂行にともなう人員確保問題、第二に、行政機構改革問題の二点であった。
前者の建築基準行政事務にともなう人員確保は、区議会のみならず区側理事者も憂慮していた。このため両者は、都に事務の処理が可能となるように配慮を求めた。
ところで、区議会と理事者との間で争点となったのは、後者の区役所機構の改革である。これは四十年の事務移譲にともなう港区政上最も論議をよんだ問題であった。
当時、特別区協議会と都行政部は、区への大幅な事務移譲を控え、区役所行政機構のモデルを作成していた。この「特別区標準組織」と呼ばれるモデルの骨子は、事務処理の効率化のために区長の行政管理権限の強化を図ることにあった。具体的には、従来の課制に代えて部制をしくこと、支所の業務を出張所並みの窓口業務に限定し事務の集中をはかることなどが構想された。
【「特別区自治権確立に関する意見書」】 このような構想が次第に明らかになると、港区議会には異論が台頭してきた。そして、三十九年十二月十二日の第四回定例会において、区議会は左記の「特別区自治権確立に関する意見書」を議決し、都、自治省をはじめとする関係方面に提出した。
特別区自治権確立に関する意見書
自治権の確立は憲法に示された自治の精神に則り区長公選の実現が基本でなければなりません。しかしながら今次地方自治法等一部改正に伴う政令公布に先だちわれわれは自治権の拡充という原則に立って、とくに財政措置に充分な配慮をされること、区の機構の改革については各区の特殊事情と自主性を尊重されるべきこと等を強く要望してきましたところが十一月十六日ようやく発表された政令、都の事務事業移管対策本部の要綱および区理事者に示された都側の草案によると当初からわれわれが危懼していた多くの欠陥が具体的に表われています。二十三区の間に最も不評をかっていた財政調整の問題も旧態依然として残されているばかりか人口増や車両の激増によって破壊された道路がそのまま区に移管され、財源の見透しも全く明示されていないことはまことに遺憾であります。
とくに支所廃止、部長制の実施というような機構改革を極めて安易にかつ画一的に処理されることは天下り人事と労働強化を招来するおそれがあり、また事務量の増加に伴う人員配置についても何等配慮がなされないことも明々白々であります。したがって都側の意図している事務移管がそのまま強行されるならば法改正の趣旨に全く反し、区の行政効果をあげることは到底困難と思われます。
このような段階においてわれわれは特別区がさきに発表した首都行政制度の構想実現のため、今後一段とまい進する決意をここに明らかにし、速やかに善処されんことを強く要望するものであります。
右地方自治法第九十九条第二項の規定に基づき意見書を提出いたします。
昭和三十九年十二月十二日
東京都港区議会議長 真下 義光
関係方面あて