(二) 発足期の港区財政

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【終戦直後の混乱期】 ところで、以上のような特別区財政の一般的な特徴は、港区の財政にどのような形であらわれているであろうか。また、この時期は、終戦直後の社会的・経済的混乱期であり、深刻な食糧難とインフレによる物価の高騰が続くなかで、戦災復興事業や新たな行政施策の遂行が区財政のうえに重くのしかかってきたときでもある。港区財政はこれにどのように対応したであろうか。
【昭和二十二年度歳入】 港区の昭和二十二~二十四年度の歳入決算額の構成比は、表3のとおりである。二十二年度における区税(配付税を除く)の比重は二九・二%、配付税の比重は四・四%で、いずれもきわめて低い。この数字は、二三区平均(表2)とあまり変わらない。この少ない税収入を補っているのが都支出金で、これが歳入の約六割を占めている。これも二三区平均(六二%)とほぼ同じ比率である。
 

表3 歳入決算額の構成比(港区)

区 分昭和
22年度
2324
特別区税
 都税附加税
 独立税
 配付税
財産収入
使用料・手数料
都支出金
寄付金
繰入金
繰越金
雑収入
  合 計
33.7
15.6
13.6
4.4
0.0
1.8
59.5
1.8
0.3
0.2
2.7
100.0
61.2
34.2
16.9
10.1
0.2
1.5
25.0
2.6
0.0
2.8
6.7
100.0
67.5
47.9
12.7
6.9
0.3
2.0
17.8
0.8

7.4
4.2
100.0

(注) 一般会計。


 
【貧弱な区税収入】 このような区税収入の状況について、区長は議会で次のように訴えた。
 
   今回都が与えました課税権は……地租附加税及家屋税附加税の一部及区民税並びに自転車その他若干の所謂雑種税等に限定されておりまして、その範囲は極めて狭く局限をせられておるのであります。本来地方税として市町村に賦課権を与えられておる営業税に対する附加税は都と一体的関聯性を有するということを理由といたしまして三億五千万円に達する固有財源を都条例を以て抑えられて全然与えられておりません。又区民税の如きも都民税に比べますればその割合は極めて僅少でありまして、現在の状況におきましては区の財政は誠に貧弱であり、到底区の自主性はこれを行うことを得ないのみならず旧来の事業維持をいたしますにも著しき困難を来たすという状況にあるのであります。(昭和二十三年六月二十三日区議会での区長の発言)
【昭和二十二年度歳出】 では、このような貧弱な区の財源は、主としてどのような経費にふり向けられたか。表4は、昭和二十二~二十四年度の港区の歳出決算額の構成比である。歳出の九割ちかくが区役所費と教育費によって占められている。区役所費の比率がもっとも高く、二十二年度は六七%にもたっしているが、その費用の大部分は区職員の「俸給及諸給」である。したがって、区の事務事業としては、教育費が支出のほとんどを占めていたことになる。
【巨額の小中学校整備費】 しかし、もちろん教育費がこれで十分であったわけではない。「この小学校及中学校の施設経営は区の事務事業のうちの最も重要な部門に属しておるのであり、殊に戦災によって焼失いたしました小学校の復旧及相当に荒れております小学校々舎の修繕、或は又新制中学校の校舎の整備、その他学校附属の諸施設の整備等学校教育に直接必要でありまする設備を整えますることは正に区における教育関係事業当面の問題であります。而してこれが整備に要します経費は相当の巨額に上るのでありまして、この本来の仕事であり、本来の負担となるべき教育費の財源すら現在における区の財政事情においては急速なる実施の困難なる状況にあります」と区長は前述の発言につづけてのべている。
【学校施設等の状況】 昭和二十二年四月に、学校教育法が施行され、六三制義務教育が実施されることになり、これにともなう校舎等の整備が、戦災によって焼失した校舎の復旧等とともに、区の重要な仕事となったが、区の財政状況からいって、それは容易なことではなかった。次の発言はこの様子を具体的に伝えている。
 
   このために教員の諸君は非常な苦労しておられる。当区においてもすでに新制中学ができておるのでありますが、併し校舎はない。教材はない。校具もない。子供達は机も椅子も借りておるという状態であります。教師の人達は使う文房具にも不自由をしておるという状態であります。又戦災校の復興の問題が今日は建議案として沢山出ておりますが、戦災校の復興も修理その他のことが、先程も聞きますと、非常に貧弱、一校一万円位だということでありますが、今日の状態ではガラス窓を入れるのにも、それで足りるかどうか分からない。この冬の寒さに向って窓ガラスの壊れた儘で可愛いい子供達を勉強させようということは非常に無理だと思うのであります。況んや教具類その他の物を買う金などは殆ど予定がつかない。(昭和二十二年九月三十日区議会での議員の質問)
 
【寄付金】 そこで、区民から寄付金を集めるという方法がしばしばとられた。しかし、これについては、区民の負担増とともに、次のような、教育上好ましくない問題が生じたことも指摘されている。
 
   寄附金を集めるということになりますと、現に麻布学校においては一人四百五十円というような名目の下に集めてみたのでありますが、なかなか集まらない。多く出す人は一万円、片方は五十円しか出せない人がある。そういうものも子供達が書いたものを持って行ったり、来たりするのでありますから皆知る。そういうことがあの幼い感じ易い子供達の心にどんな影響を与えるか。又先生達に対してもそういう子供達に対して本当に差別をしないような態度がとれるかどうか。非常に気遣われるのであります。(同上)
 
【物価高騰と滞納】 教育のほかにも、区にたいしては、住宅、食糧、街灯、浴場、公設質屋、遊び場、図書館、保育所等さまざまな要求が出されていたが、財源不足で何もかも手が回らないというのが実情であった。とくに、「インフレーションの昂進に因る諸物価の高騰に伴い事務事業の遂行に要する経費の漸増と所謂一、八〇〇円ベースより二、九二〇円ベースへと職員待遇改善費の大幅な増額により財政需要は急激に膨張し昨年十月一日以降本年三月三十一日の間に於て七回にわたり予算の追加増額が行はれ」(第一回「財政事情」・昭和二十三年五月一日)、区はその財源捻出に苦しんだ。また、その予算の執行も、「東京都の財政難による交付金の交付遅延、区税の滞納による税収入の不円滑及金融難等」(同上)のため容易でなかった。