(二) 財源難の「富裕区」

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【地方税法改正の遅れ】 前項でのべたように、昭和二十五年度には、シャウプ勧告にもとづいて地方税制の根本的改革が行なわれたが、地方税法の改正は七月に、東京都特別区税条例および港区特別区税条例の制定は九月まで延びた。そのため、歳入の約四分の三を占める区税の賦課徴収が後半期に集中することになり、収入と支出との時期的なずれが生じ、区は都からの一時借入金と繰越金によってやっと急場をしのいだ。また、これが予算執行面に与えた影響も大きかった。
【昭和二十五年度の財政運営】 区長は、二十五年度歳入歳出決算についての説明のなかで、この状況を次のようにのべている。
 
   昭和二十五年度当初予算は以上述べましたように地方税法改正の未決定により区歳入が未確定でありましたために一応人件費、事務費等の経常経費のみを主として計上し、事業経費は殆んど計上せずして、いわゆる骨格予算として編成されたものでありますが、その後地方税法改正の遅延、都納付金並びに二十三特別区調整納付金に対する折衝等各種の事情に制約されまして、これを肉付けいたしますいわゆる補正予算の編成が極めて困難な状況にありましたために、事業の計画につきましても遅延を来し、これに加うるに、朝鮮動乱による諸物価の高騰等によりまして学校建設等予算執行の面にも相当の影響を受けたものであります。そのためその後八回に亘り追加更正を行い計上いたしました予算も年度内に執行できずに事業繰越の止むなきに至ったものが学校建設その他数件にのぼりますことは誠に遺憾に堪えないところであります。(昭和二十七年一月三十一日・区議会での区長の発言)
 
 こうして、二十六年度の繰越金は歳入の一三%にもたっしていた。
【区税収入の大幅増加】 しかし、地方税法の改正と特別区税条例の制定によって、港区の区税収入も大幅に増大し、歳入構成比は二十四年度の六八%から二十五年度の七五%へと上昇した。この比率は二三区平均を約一〇%も上回っている。そこで、いわゆる富裕区ということで、二十五年度には一億二六二万円の納付金を納付することになった。これは歳出総額の二八%にあたる額である(表9・10)。
 

表9 歳入決算額の構成比(港区)

区 分昭和
25年度
2627
特別区税
公営企業・財産収入
使用料・手数料
都支出金
寄付金
繰入金
繰越金
雑収入
 合  計
75.3
0.9
1.4
9.3
0.1

7.0
6.0
100.0
65.4
2.0
1.5
8.4
0.1
0.7
13.4
8.5
100.0
68.8
2.3
2.2
6.4
0.2

12.0
8.2
100.0

(注) 一般会計。


 

表10 歳出決算額の構成比(港区)

区 分昭和
25年度
2627
議会費
区役所費
土木費
建築行政費
教育費
文化体育費
厚生事業費
産業経済費
選挙費
財産費
諸支出金
納付金
 合  計
4.7
32.5
5.6
0.1
21.7
0.5
1.2
0.3
1.0
0.2
4.0
28.2
100.0
5.4
37.3
11.3
0.1
27.1
0.9
0.9
0.7
0.6
0.5
5.2
10.1
100.0
4.9
40.1
11.1
0.2
28.7
1.3
1.2
0.9
0.9
1.1
6.4
3.2
100.0

(注) 一般会計。


 
【富裕区か】 では、この改革で港区は、これほど多額の納付金を出すほど財政的余裕が生じたのであろうか。区長の説明はこのような見方を否定して、むしろ苦しくなったことを強調している。
 
   本年度におきましては税制の改革により区税収入は前年度区税収入予算額約一億四千三百万円に対しまして一躍二億八千万円となるのでありますが、これらの収入のうち東京都納付金及び二十三区の財政調整資金として納付することに相成りますものを差引きますと、本区の財政需要に充当し得る額は約一億六千万円程度となるわけであります。従って実質的な増収は(この約一億六千万円から前年度区税収入約一億四千三百万円を差し引いて――注)僅かに一千七百万円程度に過ぎないのであります。而してこれを歳出について考えて見まするに、一般職員の昇給等によりますところの人件費の増加、学校におけるところの児童生徒の増加等による人件費並びに物件費の増加いわゆるPTA負担経費の肩替り分としての学校の諸経費、区税徴収事務費等既定経費の増加及び新規事業移管に伴いますところの経費の増加等約二千四百万円は、この区税収入増加を振り当てることに相成りますので、区の財政の実質は前年に比べましてゆとりがあるとは言い得ないのであります。(昭和二十五年十一月六日・区議会での区長の説明)
 
【学校施設の格差】 昭和二十五年度の歳出では、前述のように納付金の比重が大きく、これが教育費を上回ったが、予算の重点が学校施設整備を中心とする教育問題におかれていたことに変わりはなかった。しかし、この時期になると、学校施設も応急整備から質的な充実が問題とされるようになってきた。たとえば、この問題について、議会で次のような質問が行なわれている。
 
   多くの学校は焼けたのでありますが、これらの学校も地元住民各位並びに区におけるところの犠牲をもちまして、どうやらバラックの校舎ができ上がったのであります。然るにこれらの校舎と焼け残ったところの鉄筋コンクリートの校舎におきましては教育施設の点において格段の相違があることを私達は見逃がすことができないのであります。例えば一例を申しますならば、鉄筋コンクリートの赤羽校或いは桜川小学校と、焼けたところの御田小学校或いは芝浦小学校とはそれこそ雲泥の差があるのでありますが、これらに対しまして何らかの予算措置を以て即ち緊急対策費をここに計上しない限りは焼けたところの学校は生徒がますます遠ざかるのはこれは火を睹るよりも明らかでございます。如何に学校を定めましても子供達は自分達の行くところの学校がバラック建てで学校器具も十分に備え付けていないということになれば勢いみんな脱法手続によりまして、設備の充実しておる既存学校に行くということは人情の然らしむるところでございます。若しこれを徹底的に防止し、港区の教育施設の平等化を図らんとするならば、これに対し思い切ったところの予算措置を講じない限りは、これらの不安は私は断じてなくならないと思うのであります。(昭和二十五年十一月六日・区議会での議員の質問)
 
【昭和二十六年度の財政運営】 昭和二十六年度も、地方税法の改正が予想されたこと、区にたいする事務移譲について未解決の問題が殘されていたことなどのため、当初予算はいわゆる骨格予算として編成された。
 港区特別区税条例の改正は、前述のような都区間の折衝を経て、二十六年六月の区議会に上程可決された。主な改正点は使用人税が廃止されたことと、従来区税として賦課徴収されていた区税の法人分(均等割)が都税となったことである。
 このように、区税条例の改正が遅れたうえに、「産業経済界、殊に中小商工業界の不況は、本区歳入の根幹をなしている区税収入に深刻な影響を与え、一時は予算計上額に達し得るかが危ぶまれた」と区長は区議会で報告している(昭和二十七年十二月十九日)。そのうえ、小中学校施設の整備、道路の復旧、厚生事業等に要する莫大な経費について、「現在の如く財政措置を東京都に依存する状態におきましては容易にこれが所期の目的を達し得られないことであります」(昭和二十七年三月二十八日・区議会での発言)と区長が訴えるような状況であった。
【中小公園等の区移管】 なお、二十五年度から、都区調整協議会の決定にもとづいて、中小公園、児童遊園、図書館などの設置管理が区に移譲され、それにともなう財源措置がなされた。その結果、とくに土木費の比重が二十五・二十六年度に増大し、二十六年度以降、歳出決算額の一割前後を占めるようになった(表10)。
【昭和二十七年度の財政運営】 これまで、当初予算は地方税法の改正や都の財政措置が未決定であったため、つねに骨格予算として編成されてきた。しかし、二十七年度は、「都におきましても一応年間予算として当初予算を編成するという方針であり、区の財政措置につきましてもこの方針によりまして都区双方におきまして数次にわたる交渉をいたしました結果、これが措置について一応の妥結を見ましたので、昭和二十七年度の予算は年間予算として、これを編成計上することにいたしたのであります」(同上)ということで、年間予算が提案された。
【都支出金の交付の遅延】 とはいっても、財源未確定のため、最重点施策である六三制の整備をはじめ土木その他の事業については、はじめから十分な予算が計上されたわけではなかった。そのため、前年度同様、五回にわたる予算の補正が行なわれ、最終予算の規模も当初予算の一・四倍にふくれた。この補正の中心は都支出金で、当初予算で一、三九〇万円であったのが、第一回補正(七月)で二、四四六万円、第二回補正(九月)で三四九万円、第三回補正(十二月)で七九六万円、第四回補正(二月)で五、三三九万円追加されて累計額一億三二〇万円となり、第五回補正で四、三九二万円減額されて、結局五、九二八万円となった。第五回の減額は、給与措置費交付金等が納付金の減額および区税の増徴見込分によって財政措置されたためであるが、このような都支出金の決定の遅れが、財政調整の難航と相まって、いぜん区の自主的・計画的な財政運営の障害となっていたのである。
【公益質屋の区移管】 なお、昭和二十七年度から、従来都が経営していた公益質屋が区に移管された。港区では、二十七年三月、区営公益質屋設置に関する条例と質屋事業特別会計予算が区議会に上程され可決された。これに要する資金には、都からの一時借入金が充てられた。