(二) 財政調整と港区財政の運営

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【事務移譲と財源措置】 昭和二十七年の地方自治法改正によって、区は新たに道路の維持管理および清掃事業、公益質屋の設置管理、公共溝渠の管理等の事務を担当することとなった。その結果、二十七年度に公益質屋の設置管理が区に移譲され、それにたいして一億四、〇〇〇万円の財源措置がとられた。また、二十八年度には、特別区道の設置管理が区に移譲され、それにともない三億九、〇〇〇万円の財源措置がなされた。そのほか、公共溝渠や公衆便所の設置管理も区に移された。
【土木費、教育費の比重の増大】 港区では、都の「一応の財政措置」が示されるのをまって、二十八年七月提出の追加更正予算(補正第二号)に、「特別区道、道路修繕、清掃、公衆便所の管理その他地方自治法の改正により区へ移管」された事務事業に要する経費を計上した。これによって、港区の土木費はかなりの増大をみた。決算額でみると、二十八年度の土木費は二十七年度の五五%増である(歳出総額の伸びは三三%)。したがって、土木費の歳出構成比もこの間に一一%から一三%へと上昇した。もっとも、教育費の伸びも大きく、対前年度比四六%で、構成比も三〇%から三三%へと増大している(表13・14)。
 

表13 歳入決算額の構成比(港区)

区 分昭和
28年度
2930
特別区税
公営企業・財産収入
使用料・手数料
都支出金
寄付金
繰越金
雑収入
 合  計
63.9
1.2
2.4
11.4
0.1
14.1
6.9
100.0
68.7
1.4
2.3
10.9
0.1
8.8
7.8
100.0
62.9
2.3
1.9
18.1

7.5
7.3
100.0

(注) 一般会計。


 

表14 歳出決算額の構成比(港区)

区 分昭和
28年度
2930
議会費
区役所費
土木費
建築行政費
教育費
厚生事業費
産業経済費
選挙費
財産費
諸支出金
納付金
 合 計
4.5
36.4
12.9
0.1
32.9
0.9
0.6
0.6
0.6
5.0
5.6
100.0
4.7
37.4
9.4
0.1
32.2
1.1
0.5
0.5
0.6
4.6
8.6
100.0
3.6
34.7
9.1
0.1
39.6
1.0
0.4
0.6
1.1
4.9
5.0
100.0

(注) 一般会計。


 
【財政調整と区の財政運営】 前述のように、この時期も、都区財政調整が難航したため、港区の財政運営も困難な状態がつづいた。次に、この状況についての当局者の説明を聞いてみよう。
 昭和二十八年十月の追加更正予算(補正第五号)の提出にあたって、区長は次のよりに説明している。
 
   本年度当初予算におきましては都区財政措置等の見通しが明確でありませんでしたために、経常的経費を不十分ではありましたが一応の年間予算といたしましてこれを計上し、各種事業に要する経費は殆んど計上できなかったのであります。その後緊急止むを得ない事務事業の執行に要しまする経費を四回に亘りまして追加計上いたして参ったのであります。ところが本年度もすでに年度の半ばを過ぎました現在、なお都区財政調整の問題も確定に至りませず財源捕捉も非常に困難でありまするが、学校建設を初め各種事務事業で早急に予算計上を図らなければ区政の運営に支障を生ずる惧れのあるものがたくさんございますので、これらの所要経費……を追加計上いたしまして本案を提出いたした次第でございます。(昭和二十八年十一月二日・区議会での説明)
 
 さらに、その後の経過は、次のとおりであった。
 
   御承知の通り昭和二十八年度当初予算は不十分ながら一応の年間予算を計上したのでありますが、その後特別区税、繰越金その他を財源といたしまして、六・三制整備を初め道路補修等各種事務事業並びに職員の給与改訂に要します経費等、これらを七回に亘り追加計上して参ったのであります。……
   教育費におきまして若干未執行の分が予想せられますことは、誠に遺憾に存ずる次第であります。(昭和二十九年三月十二日・区議会での区長の説明)
 
【地方財政危機】 また、この時期は朝鮮戦争による動乱ブーム後の不況期であった。昭和二十八年十月には、国際収支の急速な悪化に対応して金融引締めの措置がとられ、二十九年度の国の予算は一兆円の緊縮予算として編成された。この緊縮政策は地方財政をもしめつけ、このため地方財政は深刻な状態に陥った。全地方自治体に占める赤字団体の数は、二十八年度一八%、二十九年度三八%、三十年度三三%、三十一年度二二%、三十二年度一五%にたっした。これらの数字は当時の地方財政危機の深刻さを物語っている。都および区の財政も不況の圧迫で緊縮を余儀なくされた。これが財政調整をいっそう困難ならしめたことはいうまでもない。
【不況の影響】 昭和三十年三月八日の区議会で、区長は二十九年度の区財政にたいする不況の影響について、次のようにふれている。
 
   歳入の根幹でありまする特別区民税が地方税法の改正に基づきまして納期の変更がなされましたために年度当初における歳入に空白を生じ、いちじるしく財政運営に困難を生じましたことはすでに御承知の通りでありまして、収支の均衡をはかりながら事務事業の推進に努めて参りましたが、一般経済界の不況によりまして予算計上額の収支が相当に困難を予想せられたのでありまして、徴税強化等の措置を講じ、鋭意努力を傾注して参りました結果、おおむね所期の目標を達成し得る見込みと相成りました。
 
【経費の抑制】 昭和三十年度の予算編成も、「経常的な経費につきましては人件費及び消費的経費は極力これを抑制し……また、各種事業経費につきましては……真に緊急やむを得ない経費の計上にとどめまして、その他の新規事業経費につきましては都と区との財政調整がまだ本格的に決定になっておりませんし、また、地方税法改正の希望もございまするのでそれらを相待ちまして各種財源を勘案し改めて御審議を願うことといたした次第であります」(昭和三十年三月八日・区議会での区長の説明)というような状況で、不況と財政調整の遅れのため明確な見通しが容易に立たなかった。
【地方税法の改正】 ここでいわれている地方税法の改正は同年八月に行なわれ、これにともなって十月に東京都特別区税条例の一部が改正され、これを受けて同月、港区特別区税条例の一部を改正する条例が区議会に上程され可決された。この改正によって、所得割の税率が従来の一〇〇分の一八から一〇〇分の二一ヘと引き上げられた。また、改正後の区税条例の規定は、区民税に関する部分は三十一年度分から、その他の部分は三十年度分から適用された。