【区税の比重は低下から上昇】 ただ、この比重は、この期間をとおして一貫して上昇してきたのではなく、前項で二三区についてみたように、急激な低下と上昇をたどっている。すなわち、三十一年度の七〇%台から三十四~三十六年度には六二~三%へと急落し、三十七年度から上昇に転じ、三十九年度には八〇%ちかくに達するという経過である(表25)。
これは四十年代に、区税の比重が漸減傾向を示すのと対照的である。
表25 歳入決算額の構成比(港区)
区 分 | 昭和 31年度 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 |
特 別 区 税 公営企業・財産収入 使用料・手数料 国 庫 支 出 金 都 支 出 金 寄 付 金 繰 越 金 繰 入 金 雑 収 入 合 計 | 70.8 2.1 2.3 ― 4.7 0.0 12.7 ― 7.4 100.0 | 67.3 2.1 2.1 ― 9.2 ― 11.5 ― 7.8 100.0 | 60.4 3.3 2.3 0.1 12.4 ― 9.0 0.7 11.9 100.0 | 62.0 2.2 2.0 0.1 14.3 0.0 11.3 ― 8.1 100.0 | 62.9 2.3 1.8 0.3 12.0 0.0 8.6 1.4 10.8 100.0 | 63.4 7.1 1.5 0.2 6.5 0.0 10.4 0.3 10.7 100.0 | 67.8 2.8 1.1 0.2 8.7 0.0 6.5 7.0 6.0 100.0 | 75.3 2.2 1.1 0.1 3.1 2.0 9.5 1.6 5.1 100.0 |
(注) 一般会計。
【都支出金の比重の低下】 区のもう一つの重要な財源である都支出金の構成比は、三十年度の一八%から、三十九年度には一・四%にまで低下した。この期間を通じて、この比重は二三区平均に比べるとかなり低い。これは、港区の区税の比重が高いことや、都支出金の交付の対象となる事業(中心は小・中学校の建設費)が相対的に少ないためであろう。そのほか、繰越金の比重がかなり高いことも注目される。これは二三区全体についていえることでもある。
【目的別歳出構成の変化】 港区の目的別歳出構成にも、前項で二三区について指摘したような変化があらわれている(表26)。すなわち、区役所費、教育費の比重の低下と三十六年度以降の土木費、厚生事業費の比重の増大である。教育費も三十六年度を境に比重が大幅に低下している。しかし、港区が二三区平均と異なっているのは、納付金の比重の増大である。その比重は、二十七~三十年度は一〇%未満であったが、三十一~三十五年度は一〇%台に上り、途中、三十六年度は一〇%を多少下回ったものの、三十七~三十九年度は二〇%前後をしめるにいたった。歳出の五分の一が実は港区民にたいするサービスのための支出ではなかったのである。
表26 目的別歳出決算額の構成比(港区)
区 分 | 昭和 31年度 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 |
議 会 費 区役所費 土 木 費 建築行政費 教 育 費 厚生事業費 産業経済費 選 挙 費 財 産 費 諸支出金 納 付 金 合 計 | 4.0 35.2 10.7 0.1 30.6 0.9 0.4 0.4 1.0 4.2 12.5 100.0 | 3.4 30.2 8.7 0.1 35.7 0.8 0.4 0.2 0.5 4.5 15.5 100.0 | 2.7 29.1 11.3 0.1 37.5 1.0 0.4 0.4 2.3 3.2 12.0 100.0 | 2.5 26.4 12.9 0.1 39.5 0.8 0.4 0.6 0.8 3.8 12.2 100.0 | 2.9 27.3 12.8 0.1 34.8 3.3 0.4 0.3 0.8 3.4 13.9 100.0 | 2.4 26.8 14.7 0.1 24.5 6.3 0.3 0.1 12.6 2.5 9.6 100.0 | 1.8 21.8 15.7 0.1 27.6 6.6 0.4 0.3 4.1 2.5 19.2 100.0 | 1.7 27.1 11.1 0.1 28.9 5.9 0.4 0.4 1.8 2.4 20.2 100.0 |
(注) 一般会計。
以上のような区財政の状況のなかで、区議会ではとくにどのような点が問題となったか。
【納付金問題】 その一つは納付金の問題である。昭和三十一年十一月の区議会は、昭和三十一年度都区財政調整に関して、次の意見書を都知事に提出することを決定している。
【都区財政調整に関する意見書】 昭和三十一年度都区財政調整に関する意見書
都から内示のあった昭和三十一年度特別区財政措置については、貴意の通り了承することは本区財政の破綻となり、納付不可能となる事は明らかで、自治区としての存立を危殆におとしいれるものであり、区政の円滑な運営は期し得ないと思考される。ここに港区議会は本内示に反対し、これらの改訂を行われるよう、左記について善処されることを強く要望するものであります。
記
一 本内示における基準財政収入額の見積りは過大であり、収入見込額を相当超過している。従来本区と
しては徴税事務については人員の配置、其他歳入の確保について格段の努力を払って来たのであるが、
本年度の算定方法は二三区画一的な為、徴税意欲を沮喪させるものであり、本区の実状を無視した納得
し得ない措置と考えられるので再考慮されたい。
二 基準財政需要額については、地方自治法施行令第二百十条の六第一項の規定による必要且つ充分の財
源とは云い得ない。又特別区は大都市行政の有機的な一体性を否定するものではないが、本財政調整は
自治行政を行うに必要な自主財源を認めていない。このことは、地方自治法に認められた特別区の権能
を抹殺し、財政的には行政区への顚落であると断定せざるを得ないので、区の自主性を認め、区民要望
の公共事務事業の執行が円滑に出来得る様財政需要額の増額方について再考をされたい。
右地方自治法第九十九条第二項の規定に基き意見書を提出します。
【委員会での論議】 この意見書を提出する建議は、総務財政常任委員会から出された。委員長は、この委員会で、都から示された財政需要額の算定について、「単位費用そのものが妥当でないではないか、講堂の建設とか、区としての自主的な仕事が今後できなくなってしまうのではないか、区民から請願が出されてそれについての財源的な考えが今後できなくなってしまうのではないか」というような、いろいろの質問があったこと、また、財政収入額の算定については、「これではあまりにも過酷で過大に算定してあるのではないか、この収入を決定すれば、今までの予算はむしろ減額更正しなければならなくなり、自治区としての特別区は認められなくなるのではないか、過去において行なわれた二部授業が行なわれないために、学校の増築をしてきた港区の特殊性も認められず、区民の要望の強い事業も今後は予算化できなくなるのではないか、行政区に、財政的には転落してしまうではないか」などの批判があったことを報告して、前記の意見書を都に提出することを建議することに決定したと説明している。
【問題となった収入見込額の算定方法】 港区を含めて、納付区側のとくに大きな不満は、この年度から都行政部が採用した財政収入見込額の算定方法にあった。行政部はこれまでの方法に代えて、過去三ヵ年の実績を基礎とする最小二乗法を採用した。そして、この方式をもっとも科学的かつ合理的であるとして、これによる税収見込額を最後まで崩さなかった。しかし、その結果は、基準財政需要額の算定が不十分なこともあって、区の余裕財源を残らず吸い上げることとなったために、納付区側の猛烈な反発を招くにいたったのである。港区議会の意見書にもあるように、これでは、区は都から割り当てられた仕事しかできない行政区に成り下がってしまい、区民の要望にも応じられないというのが区側の主張であった。
この年度は、都が財政需要額に多少の余裕をみることで、いちおう政治的な妥協に達したが、このことは、政治的な結着によらなければ財政調整が決まらないことを示していた。このような財政調整をめぐる都区の対立は、この期間もつづき、都支出金の交付の遅れとともに、前期と同様、区の計画的な財政運営を困難にした。
【区民の税負担の問題】 特別区民税の改正と区民の税負担の問題も区議会で論議をよんだ。
昭和三十二年十二月の区議会には、区民税所得割の税率引上げ等を内容とする「港区特別区税条例の一部を改正する条例」が上程可決された。これによって所得割の税率は、従来の一〇〇分の二一から一〇〇分の二八に引き上げられ(昭和三十三年度分は一〇〇分の二六)、合わせて所得割額の最高制限額が定められた。
この税率引上げにたいしては、「今度の住民税の引上げは所得税が減額になれば、勤労者にとっては大幅な減税の結果、住民税の税率を今度は一〇〇分の二六、三十四年度は一〇〇分の二八に上げても負担は余りかからないという……御説明がありましたが、住民の所得税負担額は年々増加いたしておるということは否定できないのであります。……政府がいうところの所得税の減税に伴う地方財政の赤字のために住民税の引上げをやるというようなことではなくて、そういう負担はやはり地方交付税によるところの、今は交付税率は二六%ですけれども、これを二八ないし三〇%に上げる、……そうして住民の身を軽くしていただかなければならないと思うのであります」と、住民の負担増加を問題とした議員の発言もあった。
【所得割の課税標準を所得に改正】 つづいて、昭和三十六年十一月には、住民税所得割の課税方式の変更を中心とする地方税法の改正(四月)および東京都特別区税条例の改正(十月)にともない港区特別区税条例の全面改正が行なわれた。この改正によって、前項でのべたように、所得割の課税標準は前年の所得について算定した総所得金額等によることになった。この結果、区民税収入が大幅に増大したこともすでにふれた。
【区税条例改正に関する意見書】 港区議会の総務財政常任委員会は、同年十二月九日、「本案は区民への影響を充分考慮しなければならないので連日に亘り慎重審議を行ってきたのですが将来に改悪的要素を含み区民生活に影響を与える問題とも考えられるので都其の他へ充分反省させるべきであるとの結論に基き」(委員長説明)、次の意見書を都に提出することを決定した。
東京都特別区税条例改正に関する意見書
従来市町村民税は所得割課税方式として五方式が認められてきたのであるが、いずれも所得税の課税を基礎としているため、所得税の改正により、その影響をこうむってきたのであります。そのために所得税の減税に伴いわずかばかりではあるが区民税もその恩恵の一端をこうむってきてはいるが、今回の改正に伴い国の改正の影響を中断し、地方税制の自主性を唱ってはいるが、これは明らかに天下り的改正で区民に税の負担を増加させる要因を含むもので私共としては納得できないものであります。ひいては地方財政を圧迫し、中央集権制の復活にもなりかねない物議をかもす恐れもあるので私達はここに将来税制改正に伴い地方税に負担の掛らぬ合理的な方法により地方公共団体の崩壊を未然に防ぐ方途を十分研究し、区民の利益を損なわぬよう努力することを要望します。
なお、この決定については、継続審議すべきであるという少数意見が付された。その理由の一つは、まだ審議すべき問題がたくさん残されていること、もう一つは、「この条例は区民の利益を守る立場に立っていない」ということであった。
【区民税軽減実施に関する意見書】 それから一年あまりたった三十八年三月に、区議会はさらに「区民税の軽減方実施に関する意見書」を関係方面に提出することを決定した。その内容は次のとおりであった。
区民税の軽減方実施に関する意見書
現行区民税は昭和三十七年度から所得税の軽減に伴う地方財政の確立を目的として改正されたものでありますが、この一ヵ年間の実績から判断し必ずしも適正な制度とはいい得ないものがあります。特に低所得者に対してはむしろ生活実態を無視した極めて苛酷な制度として一般国民の不満はさらに高まり、いまや政治への不信に拍車をかけようとして居ります。
しかも現在の特別区という制限された自治体のもとでは増徴した区民税を直接区民に還元する方途は甚だ困難であると云わざるを得ない事態に直面して居ります。従って私達は憲法に定める地方自治の本旨に則とり、区長公選制の復活、一般市制による行財政の実現を念願し、長期に亘り政府その他関係方面に要請し続けて参りました。
ここに私達は港区議会の議決を経て現行区民税率の軽減と適正なる地方税の改善を強く要請する次第であります。
【PTA学校後援費の問題】 この時期においては、PTA経費の負担軽減もまた大きな問題であった。たとえば、昭和三十七年三月の区議会では、「私の調べによりますと、小学校において二十六校で二千三百三十万円、この内訳は、純然たるPTAの経費一千六十五万円、学校後援費一千二百六十万円となっております。中学校においては一千四百八十万、純然たるPTAの経費が七百三十七万、学校後援費七百三十三万となっております。昭和三十五年に地方財政法の一部が改正せられ、三十六年四月より義務教育の学校職員の給与及び手当、校舎の維持、修繕費等を父兄に負担させてはならない要旨が政令となって通達せられております。にもかかわらず学校後援費は小学校分一千二百六十万、中学校分七百三十三万という大きな金額が父兄の懐中より学校維持費として負担させられているこの事実は、明らかに地方財政法の違反になると思うが、いかがお考えになりましょうか」という質問があり、これにたいして教育長が「学校の後援費につきましては、三十五年度から三十六年度の予算を比べますると、大体において小学校・中学校合わせまして一千万円軽減しておりまするが、しかしそれではどうにもならないと私は考えております。今後そうしたPTAの経費軽減という問題については十二分に取り組まなければならぬというように考えております」と答えている。