表35 区別人口増減率
区 分 | 昭和 35~40年 | 40~45年 | 45~50年 |
千代田 中 央 港 新 宿 文 京 台 東 墨 田 江 東 品 川 目 黒 大 田 世田谷 渋 谷 中 野 杉 並 豊 島 北 荒 川 板 橋 練 馬 足 立 葛 飾 江戸川 合 計 | △ 20.4 △ 20.6 △ 9.4 0.1 △ 2.3 △ 10.2 △ 4.2 2.5 △ 1.1 1.7 7.0 13.7 0.4 7.2 10.2 2.7 8.0 △ 2.5 15.6 42.2 25.9 18.4 27.9 7.0 | △ 20.4 △ 19.9 △ 7.3 △ 6.0 △ 7.6 △ 16.1 △ 11.5 △ 1.2 △ 6.1 △ 1.2 △ 2.8 6.0 △ 3.3 0.4 2.8 △ 5.2 △ 4.8 △ 11.3 △ 1.2 21.3 11.1 3.8 10.1 △ 0.7 | △ 16.9 △ 13.2 △ 6.5 △ 6.0 △ 7.7 △ 13.8 △ 10.8 △ 1.0 △ 7.9 △ 3.6 △ 5.9 2.3 △ 3.9 △ 1.5 1.4 △ 9.4 △ 2.6 △ 11.8 5.6 6.0 6.5 △ 4.5 6.0 △ 2.2 |
(注) 国勢調査人口。
【強まる財政需要】 しかし、このような人口増加の鈍化、または人口の減少は、区にたいする財政需要の圧力を必ずしも弱めていない。それは、同時に、財政需要の増大をもたらす他の要因がますます強まっているからである。たとえば、都心区または副都心区においては、夜間人口の減少と反対に昼間人口が増大し、それが公共施設や行政サービスにたいする需要を高めている。また、人口や企業の集中にともなう地価の高騰は、行政コストのなかの用地費をいちじるしく増大させた。そのうえ、福祉施策の遅れや公害、交通混雑などにたいする区独自の対策をもせまられている。また、公共施設の整備の立ち遅れは、とくに人口増加率の高い周辺区において大きく、その充実はいぜん住民の強い要求となっている。
【財政規模の拡大】 二三区全体の歳入歳出総額の対前年度増加率は、四十一・四十二年度の一五・六%から四十五年度には一九%に上昇し、四十七年度には二〇%を上回るようになった(表36・37)。さらに、四十九年度には三〇%をこえる伸びを示すが、これは四十八年の石油危機に端を発した従来の騰勢をはるかに上回る異常な物価高騰・悪性インフレの発生の影響である。この事態に対処するための政府の強力な総需要抑制策の結果、五十年度の財政規模の増加率は急激に低下することになるのである。
表36 歳入決算額の対前年度増減率(23区)
区 分 | 昭和 41 年度 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 |
総 額 特別区税 財政調整交付金 国庫支出金 都支出金 区 債 | 15.6 9.0 21.5 19.6 1.9 208.2 | 15.2 16.4 30.0 20.5 18.0 14.2 | 13.4 8.9 13.9 17.6 9.0 △28.7 | 16.7 10.9 21.6 13.2 65.1 16.6 | 19.3 17.9 26.3 16.8 31.3 167.9 | 19.3 20.9 28.3 17.2 △15.6 156.0 | 23.3 18.1 7.5 31.6 56.3 18.3 | 24.8 12.1 57.8 34.2 △ 7.7 82.8 | 36.2 26.5 41.0 30.4 23.1 90.8 | 10.6 3.3 15.0 37.0 14.6 11.7 |
(注) 『地方財政統計年報』昭和51年版による。普通会計。
表37 歳出決算額の対前年度増減率(23区)
区 分 | 昭和 41 年度 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 |
総 額 人件費 物件費 扶助費 普通建設事業費 | 16.2 13.0 14.3 16.8 18.9 | 15.8 18.4 21.0 19.6 13.8 | 13.6 18.0 13.3 15.6 8.4 | 18.0 19.6 17.7 17.7 21.3 | 19.4 19.8 15.5 22.7 17.9 | 18.5 22.1 18.0 14.0 17.6 | 23.0 29.3 14.6 27.2 16.1 | 21.9 23.8 17.7 38.7 16.6 | 38.9 26.7 30.1 32.4 62.1 | 13.1 36.4 22.5 35.9 △23.0 |
総務費 民生費 土木費 教育費 | 21.6 21.2 13.2 15.2 | 12.6 13.3 13.5 22.3 | 14.9 21.0 5.3 11.7 | 8.2 29.4 20.4 19.5 | 11.5 25.6 14.4 23.2 | 17.1 19.8 15.6 19.1 | 26.2 25.2 16.3 22.7 | 15.1 35.1 14.3 21.3 | 36.7 36.8 34.6 44.3 | 15.4 23.8 △ 1.5 0.2 |
(注) 『地方財政統計年報』昭和51年版による。普通会計。
区の財政規模の拡大には、前述のような大都市に特有な財政需要の増大やインフレの進行に起因する部分が大きいが、そのほか制度上の変更にともなう部分も少なくない。ここでは、これらの要因との関連で、四十一~四十九年度における区財政の変化の中身を検討することにしよう。
まず、歳出について、このような総額の増加率の上昇を引き起こした経費は何であろうか。
【性質別歳出の伸び】 性質別分類でみると、四十四年度の上昇は人件費と普通建設事業費の増加率の上昇によるものであり、四十五年度の場合は人件費、とくに扶助費のそれによっている。また、四十七年度の歳出総額の増加率は人件費と扶助費の増大によって上昇している。四十八年度はとりわけ扶助費の増加率が大きく、これと人件費の増加率が総額の伸びを支えている。さらに、四十九年度の歳出総額の大幅な増加は、普通建設事業費が六〇%以上も増大したことによるものである。
【老人医療費無料化等の施策の反映】 このような人件費の増加には給与改定のほか、保母や学校給食調理士・栄養士などの民生・教育関係職員の定数増にともなうものも含まれている。また、四十七年度の扶助費の急増は、老人医療費の無料化、生活保護基準の改正、児童手当制度の平年度化などによるものである。四十八年度の扶助費も老人医療費負担制度の平年度化などによって大幅に増加した。
これらの経費の増加率を比較すると、人件費、扶助費のそれは一般に高く、物件費、普通建設事業費のそれは概して低い。
【性質別歳出構成比の変化】 このような増加率の相違は、各経費の歳出構成比の変化となってあらわれている(表38)。すなわち、人件費の比重は四十八年度まで、二九%から三四%へと徐々に上昇し、四十九年度に若干低下した。扶助費のそれも、四十四年度までは一二%台であったのが、四十五・四十七年度には一三%、四十八・四十九年度には一四%台と次第に増加した。これにたいして、物件費の比重は四十五年度以降は低下の傾向にあるし、普通建設事業費の場合も同様の傾向が認められる。ただ、後者は、四十九年度に上述の大きな伸びを反映して、比重が五%ちかくも上昇した。
表38 性質的歳出決算額の構成比(23区)
区 分 | 昭和 40 年度 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 |
人 件 費 物 件 費 扶 助 費 普通建設事業費 公 債 費 財政調整納付金 そ の 他 合 計 | 29.1 12.8 12.0 32.0 0.0 2.4 11.7 100.0 | 28.3 12.4 12.1 32.7 0.1 2.0 12.4 100.0 | 29.0 13.1 12.5 32.2 0.2 1.6 11.4 100.0 | 30.1 13.1 12.7 30.7 0.4 1.3 11.7 100.0 | 30.5 13.1 12.7 31.5 0.8 1.0 10.4 100.0 | 30.6 12.6 13.0 31.1 1.2 0.6 10.9 100.0 | 31.5 12.6 12.5 30.9 1.5 0.7 10.3 100.0 | 33.1 11.7 13.0 29.2 1.8 0.7 10.5 100.0 | 33.7 11.3 14.7 27.9 2.0 0.2 10.2 100.0 | 30.7 10.6 14.1 32.6 2.2 ― 9.8 100.0 |
(注) 『地方財政統計年報』昭和51年版による。普通会計。
特別区の歳出構造の特徴は、一般の市町村に比べて、人件費や扶助費の構成比が高く、逆に普通建設事業費のそれが低いことにあるが、この期間を通じてこの特徴はいっそう強まったといえる。
【目的別歳出の伸び】 次に、目的別分類による経費についてみると、四十四年度は民生費、土木費、教育費の増加率が、また四十五~四十八年度は民生費と教育費の増加率が歳出総額のそれを引き上げていることがわかる。また、四十九年度はとくに教育費の増加率が高かった。同年度の普通建設事業費の大幅な増大が、とくに教育費と関連していたことがわかる。
【民生費、教育費の増大の原因】 このように、この期間には、民生費と教育費の増加が、大体において歳出総額の伸びの原因となっていた。土木費の伸びは四十四年度を除いて、総額のそれを下回っている。民生費の増大の要因としては、前述の老人医療費の無料化や生活保護基準の引上げ、保母の大幅増員などのほかに、保育所・児童館等の施設の拡充と運営の充実なども指摘できる。また、教育費の場合は、周辺区における校舎等の新増築、その他の区での老朽校舎の改築、公害校舎対策、屋内運動場・プールの整備や特別教室保有基準の改善など義務教育関係の需要がいぜんとして強かったうえに、幼稚園や社会教育にたいする要望が高まってきたこともその増大の原因である。
【公共施設の水準】 昭和四十六年三月末現在の小・中学校等の整備状況は表39のとおりで、施設の充実をはかるために、なお巨額の事業費が必要であることを示している。とくに、周辺区における教室・屋内運動場・プールの不足が目立っている。また、土木費の伸びが低かったのは、道路舗装率の上昇とともに区の土木事業がほぼ頭打ちになってきたためとも考えられるが、周辺区では、なお舗装率のきわめて低いところもある。公園の整備も全般に貧弱で、区間のアンバランスが大きいことにも注意しなければならない。
表39 公共施設の整備状況(昭和46年3月末現在)
区 分 | 小 学 校 | 中 学 校 | 道 路 | 公園 | |||||||||
保有 学校 数 | 校舎 不足 学校 | 木造 比率 | 屋体 不足 学校 | プール 未保 有校 | 保有 学校 数 | 校舎 不足 学校 | 木造 比率 | 屋体 不足 学校 | プール 未保 有校 | 改良率 | 舗装率 | 1人当 り面積 | |
千代田 中 央 港 新 宿 文 京 台 東 墨 田 江 東 品 川 目 黒 大 田 世田谷 渋 谷 中 野 杉 並 豊 島 北 荒 川 板 橋 練 馬 足 立 葛 飾 江戸川 合 計 | 14 18 27 36 21 29 29 35 37 22 61 60 22 28 41 29 42 27 47 48 59 49 47 828 | 1 2 2 2 4 14 3 9 14 17 8 12 88 | % 0.0 1.1 4.1 15.6 8.1 0.0 5.1 12.6 34.8 36.4 31.0 36.5 32.1 32.9 38.1 21.7 10.2 15.9 22.8 25.9 18.8 26.7 14.7 21.5 | 12 27 21 25 30 10 53 52 16 40 35 15 36 43 4 4 39 462 | 1 1 1 3 1 1 4 5 3 18 8 2 48 | 5 6 11 15 12 12 12 18 16 12 27 28 9 14 23 13 18 15 20 21 26 21 20 374 | 1 1 1 2 6 8 2 4 25 | % 0.0 0.0 15.2 26.5 9.9 0.1 8.6 8.9 14.6 30.9 29.8 47.5 9.0 23.1 33.8 13.6 12.0 11.7 34.3 33.1 27.7 40.7 28.4 24.2 | 5 9 10 12 16 1 13 21 5 6 14 9 14 11 14 6 9 175 | 1 2 5 2 4 1 3 6 12 1 5 5 47 | % 100.0 87.4 86.6 97.6 55.8 79.0 94.7 100.0 52.6 77.7 75.9 48.5 72.1 51.5 44.2 38.6 70.6 52.3 65.7 60.7 35.5 60.6 74.6 63.6 | % 100.0 97.1 98.4 99.8 100.0 80.4 99.4 99.3 98.5 29.8 64.9 29.8 99.6 94.3 91.7 54.3 44.2 67.1 79.9 12.6 61.0 27.6 25.1 60.2 | m2 3.02 3.45 2.46 2.47 1.39 2.96 1.09 0.91 0.43 0.30 0.92 1.71 3.33 0.40 0.62 0.23 1.17 0.51 2.11 0.59 1.71 1.09 1.32 1.31 |
(注) 『都政』1972年7・8月号,156ページ。
【目的別歳出構成比の変化】 この期間における総務、民生、土木、教育の区の四大経費の構成比は、表40のように変化した。つまり、総務費、土木費は低下し、教育費は漸増し、民生費はかなり急速な上昇をみた。民生費は四十四年度以降、土木費を上回るようになった。なお、比重自体は大きくないが、公債費のそれが次第に増大してきていることと、財政調整納付金の比重が三十九年度から四十年度にかけて大幅に減少したのちも漸減をつづけ、四十九年度にはゼロになったことも注目される。
表40 目的別歳出決算額の構成比(23区)
区 分 | 昭和 40 年度 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 |
総 務 費 民 生 費 土 木 費 教 育 費 公 債 費 財政調整納付金 そ の 他 合 計 | 18.5 19.2 22.9 31.3 0.0 2.4 5.7 100.0 | 19.4 20.1 22.3 31.0 0.1 2.0 5.1 100.0 | 18.8 19.6 21.9 32.8 0.2 1.6 5.1 100.0 | 19.0 20.9 20.3 32.2 0.5 1.3 5.8 100.0 | 17.5 22.3 20.7 32.6 0.8 1.0 5.1 100.0 | 16.3 23.4 19.8 33.7 1.3 0.9 4.6 100.0 | 16.1 23.7 19.3 33.8 1.6 0.7 4.8 100.0 | 16.5 24.1 18.3 33.7 1.8 0.7 4.9 100.0 | 15.6 26.7 17.1 33.6 2.0 0.2 4.8 100.0 | 15.4 26.1 16.6 34.9 2.3 ― 4.7 100.0 |
(注) 『地方財政統計年報』昭和51年版による。普通会計。
【歳入の伸び】 これらの経費に対応する財源の状況はどうであったか(表36)。特徴的な点は、まず第一に、歳入の中心である区税の増加率が、四十二年度と四十六年度を除いて、歳入総額のそれをかなり下回っていることである。第二に、これとは逆に、財政調整交付金が四十七年度以外は総額の伸びを超える伸びを示していること、第三に、国庫支出金の増加率が概して高く、総額のそれよりも低かったのは、四十四~四十六年度の三年だけであること、そして第四に、都支出金と区債の増減率の変動が大きいことである。
【歳入構成比の変化】 こうした増減率の変化の結果を歳入構成比の推移でみると(表41)、区税の比重は四十~四十二年度の五〇%台から四十八年度には四〇%に低下し、四十九年度には四〇%を割ってしまう。一方、交付金は四十・四十一年度の一四%台から漸増し、四十八・四十九年度には二〇%を超えるようになる。この変化は三十年代の後半にみられたものとは対照的である。三十五~三十九年度には、区税の比重がいちじるしく増大し、都支出金の財政調整の枠への組み入れがすすむなかで、交付金の比重は一〇%前後で推移していた。
表41 歳入決算額の構成比(23区)
区 分 | 昭和 40 年度 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 |
特別区税 財政調整交付金 国庫支出金 都支出金 諸 収 入 繰 越 金 区 債 そ の 他 合 計 | 54.0 14.1 8.9 5.6 5.7 6.7 0.4 4.6 100.0 | 50.9 14.8 9.2 5.0 5.8 7.4 1.1 5.8 100.0 | 51.4 16.7 9.7 5.1 5.6 7.0 1.1 3.4 100.0 | 49.4 16.8 10.0 4.9 5.5 6.7 0.7 6.0 100.0 | 46.9 17.5 9.7 6.9 5.5 6.4 0.7 6.4 100.0 | 46.3 18.5 9.5 7.6 5.8 5.3 1.5 5.5 100.0 | 46.9 19.9 9.3 5.4 5.2 5.2 3.3 4.8 100.0 | 44.9 17.3 10.0 6.8 5.8 5.5 3.1 6.6 100.0 | 40.3 21.9 10.7 5.0 6.6 5.6 4.6 5.3 100.0 | 37.5 22.7 10.3 4.6 6.6 6.7 6.5 5.1 100.0 |
(注) 『地方財政統計年報』昭和51版による。普通会計。
そのほか、変化が大きいのは区債で、区が起債権を得た四十年度の〇・四%から四十九年度の六・五%にまで増大した。区債は、とくに投資的需要の多い周辺区の重要な財源となった。これにたいして、国庫支出金、都支出金の比重の変化はそれほど大きくはないが、国庫支出金のそれは四十七年度以降、一〇%を超えるにいたった。これは、老人医療費無料化、児童手当の支給、生活保護事業などにたいする国庫支出金の増加によるものである。都支出金の比重の変化には一定の傾向は認められない。しかし、この期間にも、都支出金の財政調整への振替えはかなり行なわれた。
【調整率の増大】 このように、この期間には、財政需要の伸びにたいして区税の伸びが追い付かず、財源の不足を補てんするために財政調整交付金が大幅に増大した。そのため、二三区の財政需要額が財政収入額を上回る分を補う固定資産税(府県税相当分を除く)と都民税法人分(市町村税相当分)の一定割合(調整率)は、四十年度二五%、四十一年度二六%、四十二年二八・五%、四十三年度三〇%、四十四年度三一%、四十五年度三二・二五%、四十六年・四十七年度三六・七五%、四十八・四十九年度四〇%と急速に上昇した。もっともこの間、四十三年度に公害校舎対策費、四十六年度に義務教育施設整備費と河川関係費にかかわる都支出金を財政調整の枠に組み込むなどの変更が行なわれたことや、単位費用の改定がなされたことも調整率引上げの要因となった。
【納付区の減少】 財政調整交付金の急増に対応して、納付区も急速に減少した。四十年度に納付区は千代田、中央、港、新宿、渋谷、杉並の六区であったが、四十六年度には千代田、港、渋谷の三区となり、四十九年度には納付区はなくなった。