第七節 特別区制度の改正と不況

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【地方自治法の改正】 昭和四十九年六月に、地方自治法の一部を改正する法律が公布され、一〇年ぶりに特別区制度の大幅な改正が行なわれた。改正の内容は、区長の公選、都と区の事務の再配分、配属職員制度の廃止、区の財政自主性の確立などを骨子とするものであった。
【区長公選実現】 区長公選を実現させたのは、区民の区長公選運動の盛り上がりであった。これが今回の法改正の大きな推進力となったといってよい。また、都と区の間の事務配分については、特別区は法律または政令により都が処理することとされているものを除き、原則として市の処理する事務を処理することができると改め、区を市なみの自治体へと近づけた。配属職員制度の廃止も、区の完全自治体化への大きな一歩と評価することができる。
【財政制度の根本的改革は見送り】 しかし、今回の法改正は、財政制度については具体的には言及せず、現行制度を前提とした改善を示唆するにとどまった。したがって、五十年度からの都区財政調整の制度および運用についても、部分的な改善の措置はとられたものの根本的な改革は見送られた。この問題は、今後の検討に残されることとなったのである。
【財政調整の改善点】 五十年二月の都区協議会において確定された都区財政調整に関する改善の主な内容は、次のようなものであった。
 
(一) 自由財源の拡大(改正前の一〇%から一五%へ拡大)
 イ 基準税率を九〇%から八五%に改定する。
 ロ 「その他行政費」を新設し、区税等の五%相当額を見込む。
 ハ 「調整費」を新設し、五%相当額を見込む。
(二) 人件費の算定方式の変更(単位費用により算定)
(三) 計画事業費の算定方式の変更
 イ 一般分については、単位費用により算定
 ロ 義務教育施設分については、単位費用に準ずる方式により算定
 
【人件費の算定方式】 改正前の人件費の算定方式は、固有職員については、すでに定員標準給方式がとられていたが、配属職員については、定員現給方式であった。四十九年の法改正で、配属職員制度は廃止されて、すべての職員が区の固有職員となり、職員定数は区がそれぞれ自主的に決定することとなった。それにともない、人件費の算定も単位費用によって行なうことに改められたのである。
【計画事業の算定方式】 また、計画事業については、従来、一件算定方式で、すなわち、都が「特別区公共施設整備計画」にもとづいて、一件ごとに審査、決定する方法で算定されてきた。この方式は区相互間の施設水準の格差を是正しようとする意図にもとづくものであったが、反面、区の自主的財政運営を阻害するという批判が強かった。今回の改善では、この批判にこたえて、一件算定方式が廃止され、その単位費用化が図られたのである。ただし、義務教育施設整備事業については、事業の性格上、個別の需要を反映しうるより事業量に単価をかける方法が採用されることになった。
【昭和四十九・五十両年度の財政調整の比較】 昭和五十年度の都区財政調整当初見込額を四十九年度のそれと比較すると、表47のようになる。事務事業の移管については、四十九年十月の都区協議会で、法令の改正によって新たに区の事務となる三六項目の事務のほか、従来都が処理している事務事業であっても、地域住民の日常生活に密着した事務は積極的に区に移管するということで、六〇項目の事務が移譲または委任されることとなった。
 

表47 都区財政調整当初見込額

区    分昭和
49年度
当初見込
昭和
50年度
当初見込
50/49
特別区税227,242275,12021.1
自動車取得税交付金9,3548,587△8.2
特別区民税等減免△8,110△7,448△8.2
総   計 (A)228,486276,25920.9
(A)×基準税率 (B)205,637234,82014.2
自動車重量譲与税 (C)2,9402,841△3.4
基準財政収入額 (B)+(C)=(D)208,577237,66113.9
基本需要222,964272,19822.1
計画事業107,26572,027△32.9
一般分
義務教育施設
59,761
47,504
41,900
30,127
△29.9
△36.6
移管事務事業19,043皆 増
その他行政費13,813〃 
調整費13,813〃 
基準財政需要額 (E)330,229390,89418.4
差   引 (E)-(D)121,652153,23326.0
調整交付金 (F)124,135156,36026.0
調整3税 (G)310,338363,62817.2
調整率 (F)/(G)40.0043.00

(注)1.移管事務事業のうち,基本需要分は,17,614百万円,計画事業分は1,429百万円である。
 2.『特別区概要』昭和50年版。


 
 これらの事務に要する経費の当初見込額は一九〇億四、三〇〇万円で、これに「その他の行政費」と「調整費」の新設による財政需要増を合わせると四六六億六、九〇〇万円となり、基準財政需要額の約一二%を占める。これらの措置によって、基準財政需要額は前年度当初見込みにたいして一八・四%増加し、財政収入額の増加率一三・九%を大幅に上回ることになったため、調整三税(市町村民税法人分、固定資産税、特別土地保有税)にたいして調整交付金が占める割合(調整率)は、前年度の四〇%から四三%に引き上げられることとなった。
【二三区および港区の財政構造の変化】 事務事業の移管、都区財政調整の改善等の結果、二三区および港区の財政構造はどのような点が変わったであろうか。
 表48・49・50は、四十九年度と五十・五十一年度の歳入歳出構成を比較したものである。
 

表48 歳入決算額の構成比

区  分23 区港 区
昭和
49年度
5051495051
特別区税
特別区交付金
国庫支出金
都支出金
繰 越 金
諸 収 入
特別区債
そ の 他
合  計
37.5
22.7
10.3
4.6
6.7
6.6
6.5
5.1
100.0
35.0
23.6
12.7
4.7
6.7
5.9
6.5
4.9
100.0
36.2
23.7
13.8
4.8
4.9
5.8
4.3
6.5
100.0
54.9
0.3
5.1
2.8
4.1
4.1
17.7
11.0
100.0
65.3
0.7
8.0
3.7
3.6
4.2
7.0
7.5
100.0
66.0
4.3
9.0
3.8
3.3
3.9
2.1
7.6
100.0

(注) 『特別区概要』による。普通会計。


 

表49 目的別歳出決算額の構成比

区  分23 区港 区
昭和
49年度
5051495051
総 務 費
民 生 費
衛 生 費
商 工 費
土 木 費
教 育 費
公 債 費
そ の 他
合  計
15.4
26.1
1.0
1.7
16.6
34.9
2.3
2.0
100.0
15.7
28.6
4.4
1.6
14.4
30.9
2.5
1.9
100.0
16.2
30.5
5.2
1.5
14.1
27.8
2.8
1.9
100.0
24.6
14.4
0.3
1.2
23.6
31.0
3.0
1.9
100.0
25.7
22.3
5.2
1.9
11.5
27.1
3.6
2.7
100.0
23.0
22.1
5.7
1.4
11.2
30.2
4.0
2.4
100.0

(注) 『特別区概要』による。普通会計。


 

表50 性質別歳出決算額の構成比

区  分23 区港 区
昭和
49年度
5051495051
人 件 費
物 件 費
扶 助 費
補 助 費 等
普通建設事業費
公 債 費
そ の 他
合  計
30.7
10.6
14.1
2.8
32.6
2.2
7.0
100.0
37.0
11.5
16.9
3.3
22.2
2.4
6.7
100.0
39.5
11.4
18.4
3.3
18.0
2.7
6.7
100.0
27.2
7.4
6.3
2.2
47.2
2.7
7.0
100.0
45.0
10.6
11.0
3.2
16.3
3.6
10.3
100.0
45.9
10.5
12.0
3.2
16.5
3.9
8.0
100.0

(注) 『特別区概要』による。普通会計。


 
【不況の深刻化】 この比較で注意しなければならないことは、この時期に「戦後最大の不況」が起こったことである。前節でもふれたように、四十八年後半の石油危機によって激しさを増した物価上昇は四十九年に入ってもおとろえをみせず、政府はインフレをおさえるために総需要抑制策をとりつづけた。その結果、四十九年後半からは景気の冷え込みによる不況の深刻化がすすむことになった。しかし、一方では、いぜん物価の上昇傾向がつづき、いわゆるスタグフレーションの状態があらわれた。五十年に入ると、この状態はいっそう深刻になった。そこで、政府はたびたび不況打開策を打ちだすが、景気回復の足どりはきわめて緩慢であった。
【低下した歳入の伸び】 五十年度における二三区全体の歳入総額の対前年度増加率は一〇・六%で、前年度の三六・二%を大幅に下回った(表36)。港区の場合、五十年度の歳入は四十九年度のそれよりも一七・五%も少なかった(表42)。いうまでもなく、不況の影響である。
【区税の落ち込み】 この影響はとくに区税の伸びにあらわれている。二三区全体で、区税の対前年度増加率は、四十九年度の二六・五%から五十年度の三・三%へと急激に低下した。港区の場合、その低下はもっと激しく、四十九年度に対前年度二七・五%の増加であったのが、五十年度には四十九年度よりも一・八%減少した。この点について、港区の『予算執行の実績報告』は「従来、順調に伸びてきた税収が本年度に落ち込んだことは、区政二〇余年の歴史でははじめてのことであります」とのべている。とりわけ、土地等の譲渡所得の大幅減少の影響が大きかった。そのほか、財政調整交付金の伸びも前年度と比べるとかなり低下した。
【高い国庫支出金の伸び】 しかし、歳入のなかで、国庫支出金だけはいぜん高い増加率を示した。二三区全体で三七%、港区は三〇・七%の伸びである。この原因の一つは、保健所法をはじめとする衛生行政関係法令にもとづく衛生費負担金の増加で、保健所業務等の区移管にともなうものである。それと同時に、不況が深刻化するなかで、生活保護費や老人医療費、児童措置費等の伸びが引き続き大きかったためである。これは、歳出面で扶助費や民生費が五十年度も高い増加率を示していることと対応している(表37・43)。これらの経費は財源難を理由に削減できる性質のものではなく、むしろ不況のなかで増大する傾向にあった。
【区債】 区債の伸びも、五十年度には大幅に低下した。港区では、四十九年度に発行額が極端に多かったこともあって、五十年度はそれを六七%も下回った。しかし、歳入に占める比重は、二三区平均では四十九年度と変わらず、港区ではもちろん急減しているが、それでも二三区平均を若干上回っている。このなかには「昭和五十年度における地方交付税及び地方債の特例に関する法律」による財源不足対策債も含まれている。港区の場合、その額は九、四〇〇万円で、区債発行額の六・五%にあたる。
【歳入歳出構造の変化】 四十九年度から五十年度にかけての歳入歳出構造の変化は、以上のような財源または経費の伸びの相違を反映している。たとえば、保健所業務等の移管の影響は、歳入面では、国庫支出金の比重の上昇、歳出面では、衛生費や人件費の比重の増加にあらわれている。
【決算収支の状況】 四十九・五十年の不況の影響は、決算収支の状況にも明暸にあらわれている。港区の五十年度の実質収支は五億七、六〇六万円で、前年度のそれと比べると五億一五九万円の減(単年度収支の赤字)となっている(表51)。前年度の剰余がそれだけ食いつぶされたわけである。この状況は、五十一年度もつづき、実質収支は、五十年度のそれよりもさらに減少した。五十一年の経済情勢もいぜん景気の中だるみ状態がつづき、区税の伸びが低かった反面(対前年度比一二・七%)、公共料金の値上げ等による経費増や人件費、扶助費等の義務的経費の当然増(対前年度比一六・九%増)が大きかったためである。もちろん、このような状況は地方財政の全般的な傾向であった。
 

表51 港区決算収支状況

区 分昭和49年度5051
歳入総額A
歳出総額B
歳入歳出差引A-B=C
翌年度へ繰越すべき財源D
 実質収支C―D=E
 単年度収支F
財政調整基金積立額G
実質単年度収支F+G
25,097,002
23,799,320
1,297,682
220,030
1,077,652
933,768
18,113
951,881
20,705,388
19,554,599
1,150,789
574,729
576,060
△   501,592
54,296
△   447,296
23,086,672
22,073,799
1,012,873
549,969
462,904
△   113,156
71,275
△    41,881

(注) 『特別区概要』による。普通会計。


 
【港区予算編成方針】 最後に、この時期における港区の予算編成方針についてみておこう。
【昭和五十年度予算】 五十年度予算は従来と同様、「次代をになう世代の健全な育成」、「区民の安全と生活環境の整備」、「区民生活の安定と向上」の三本の柱を基本施策として編成された。また、このなかで、重点施策として、四十九年度の「老人対策」、「心身障害者対策」、「緑化対策」、「保護を必要とする人のための施策」が踏襲された。
【昭和五十一年度予算】 つづいて、五十一年度の予算編成では、五十年三月に議決された港区基本構想にもとづき、「生命と健康を守る環境の整備」、「住民福祉の向上」、「明るく豊かな人間性の形成」、「地域経済の安定」、「都市基盤の充実」の五本を基本的施策の柱とし、このなかで「災害対策および緑化の推進」、「老人・児童・心身障害者(児)福祉の充実」、「学校教育の充実」、「中小企業と振興対策」を重点施策として取り上げ、暫定実施計画(五十一年三月決定)の具体化を図っていく方針がたてられた。
【昭和五十二年度予算】 さらに、五十二年度には、五本の基本的施策を柱としながら、「特に現在の経済的不安定の状況、震災等による危険性並びに次代をになう児童、青少年を育成する必要性に鑑み、社会経済情勢の変化に弱い立場にある区民への配慮、災害から区民をまもる対策、教育・保健施設等の基盤整備を重点に年間総合予算を編成する」という方針にもとづいて予算が編成された。
【基本計画、実施計画の策定】 港区実施計画(五十二~五十四年度)は五十二年二月に決定されたが、五十三年一月には、昭和六十年度を目標とする港区基本計画が決定をみた。さらに、同年二月には、五十三年度を初年度とする改訂実施計画が策定された。こうして、基本構想、基本計画、実施計画が予算編成の指針として確立され、総合的・長期的・効率的な行財政運営が図られることとなった。