(五) 区民の消費生活と消費者行政

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【戦後の消費者運動】 戦後間もないころ、各地に主婦連、生活協同組合が結成され、極端な物資窮乏のなかで人びとの生活を維持するための動きがすでに表われていた。昭和二十一年(一九四六)五月には食糧メーデーが行なわれ、同年八月の第一回NHK街頭録音は「あなたはどうして食べていますか」というテーマであった。当時の運動はなによりも食糧を確保することが主眼であったが、そのかたわらで不良マッチ追放運動やマーガリン、牛乳などの品質審査もはじめられていた。
 

表7 芝浦市場作業実績

  畜種
年度別
屠 畜 数 (単位,頭)

(仔馬)
仔牛緬羊・
山羊
計(頭)
昭和22年
23年
24年
25年
26年
27年
28年
29年
30年
31年
32年
33年
34年
 
35年
 
36年
 
37年
 
38年
 
39年
 
40年
 
41年
 
42年
 
43年
 
44年
 
45年
 
46年
 
47年
 
48年
 
49年
 
50年
 
51年
 
52年
 
14,401
16,191
19,180
31,273
29,270
40,236
49,886
57,485
79,663
75,454
65,683
76,797
79,420
 
73,881
 
71,057
 
73,098
 
85,927
 
88,324
 
70,945
 
46,753
 
36,214
 
49,148
 
68,798
 
74,076
 
76,874
 
74,547
 
57,583
 
72,273
 
67,423
 
63,377
 
69,698
 
4,648
6,221
6,261
7,371
11,041
11,847
23,328
27,714
18,983
25,104
20,294
22,080
24,762
(1,284)
21,992
(2,494)
21,007
(3,634)
22,211
 
18,298
(1,348)
10,628
(1,093)
9,632
(752)
4,550
(505)
3,883
(425)
4,145
(340)
1,296
(46)
424
(6)
298
(0)
91
(2)
73
(0)
58
(0)
53
(0)
47
(0)
45
(0)
58
282
299
1,147
1,345
1,211
1,693
6,155
29,248
16,788
10,415
11,318
11,326
 
10,545
 
7,458
 
6,280
 
6,612
 
5,912
 
3,749
 
2,245
 
1,804
 
3,109
 
4,214
 
3,467
 
2,125
 
846
 
233
 
2,250
 
461
 
992
 
835
 
62
116
51
610
620
1,320
3,928
5,365
3,624
3,540
5,506
5,136
4,101
 
4,781
 
3,434
 
2,581
 
2,194
 
1,510
 
1,212
 
1,010
 
30
 
8
 
31
 
7
 
2
 
10
 
2
 
1
 
0
 
0
 
0
 
12,509
37,550
158,968
227,374
182,988
339,947
319,290
261,713
312,401
420,035
461,073
537,390
469,986
 
310,279
 
569,211
 
640,086
 
391,280
 
425,051
 
403,964
 
442,916
 
403,440
 
370,142
 
367,777
 
491,053
 
506,370
 
500,790
 
483,101
 
434,970
 
293,308
 
306,591
 
330,723
 
31,378
60,360
184,759
267,775
225,264
394,561
398,125
358,432
443,919
540,921
562,971
698,945
589,595
 
421,478
 
672,167
 
744,256
 
504,311
 
531,425
 
489,502
 
497,474
 
445,371
 
426,552
 
442,116
 
569,027
 
585,669
 
576,284
 
540,992
 
509,552
 
361,245
 
371,007
 
401,301
 

 
【「消費革命」】 昭和三十年代に入ると、日本経済は戦後復興の段階から飛躍拡大の段階へと転換をとげる。神武景気、岩戸景気といったことがいわれ、所得の向上に支えられた個人消費も拡大していく。洗濯機、冷蔵庫、テレビは「三種の神器」と称され、プラスチック製品が出まわり、化粧品の大々的な宣伝が人目をひきつけた。なにもかもなかった戦争直後には思いもよらなかったほどの大量で多種多様な商品が街に出まわりはじめ、人びとの生活は食生活、衣料品を中心に「豊かさ」をみせてきた。昭和三十四年『国民生活白書―戦後国民生活の構造変化―』において「消費革命」という言葉が登場するまでになっていたのである。
 こうした「消費革命」が人びとの生活向上の願いに支えられていたことは事実であるが、企業側のさまざまな新製品の開発、マスコミにのった大量宣伝、流通革命とまでいわれた大量販売方式(スーパーマーケット、ディスカウントストアーなど)の展開によっていっそう拡大発展したことをみなくてはならない。
【消費ブームの正体】 「消費ブーム」といっても、あくまでも営利追求を至上とする企業戦略がイニシァティブをとったブームであったのである。このことは、人びとの生活の必要から商品が生みだされるのではなく、企業論理の追求上から、企業が新たに大量の需要をつくりだすため、消費者の欲望をかきたて、商品が販売されるということであった。マスコミの発達、生産―流通技術の革新、巨大化がそれらを可能にしたのである。「リッチでハッピー」というコマーシャル用語がふりまかれ、「消費者は王様」などといった言葉までが街に流布し、人びとは使い捨てを半ば強制されるように、つぎつぎと新しい商品の氾濫にさらされることになる。しかも、消費者は商品に関しては、しろうとであり、その必要性、品質などについての正確な判断を下せないうちにコマーシャルにあおられ、つい買ってしまうということになりがちであった。
【消費者問題の深刻化】 利潤第一の営利企業の論理と、よい品を安く求める消費者の論理とは、食い違いをつねに孕んでいる。消費の拡大はこうした食い違いの拡大、深刻な対立を表面化させた。ニセ牛缶事件(不当表示)、欠陥ヘアスプレー事件、中性洗剤有害論争、欠陥自動車問題、電気製品の価格カルテルなどの問題が消費ブームがあおられるかたわらで、つぎつぎに起こっていた。有害食品、有害薬品といった直接生命にかかわる問題すら頻発しはじめた。森永ヒ素ミルク事件、サリドマイド事件、カネミライスオイル事件などは、一大社会問題にまで発展していった。企業社会の前に著しく無力な状態におかれていた消費者は、こうして人間として生きる権利を危機にさらす破目にたち至ってしまったのである。
【欠陥商品の告発 消費者保護基本法の制定】 消費者は結束し、欠陥商品、有害食品などの追放に立ちあがらざるを得なくなった。甘味料チクロ含有食品、ホルマリン含有食器の告発・追放が呼びかけられ、二重価格が発覚したカラーテレビの不買運動も組織された。食品公害、薬品公害が指摘され、欠陥プレハブ住宅が告発されるなど、徐々に運動は着実な成果をみせはじめた。こうしたなかで、消費者側に「弱者」としての地位に甘んずることを拒む権利意識がしだいに培われてきたことは見逃されてはならない。昭和四十三年五月、消費者保護基本法が制定されたのもこうした一連の消費者運動のたかまりのなかに位置づけられるべきであろう。
【行政理念の確立 地方自治法の改正】 この基本法制定以前にも、割賦販売法や家庭用品品質表示法など個別の法令はあったが、統一的な行政理念が明確とはいえず、各部門がバラバラでしかも後追い性を色濃くもち、深刻化する消費者問題に有効に対処するには、きわめて不十分であった。基本法が制定されたことで事態の急速な好転が招来されたわけではないが、少なくとも、対企業上における消費者の不平等な地位を理解し、消費者の立場にたち、消費者の利益擁護を図る体系的な指導理念が確立したのである。この後、食品衛生法、農林物資規格法、宅建業法、景表法などの改正が相ついでなされた。昭和四十四年三月、地方自治法が改正され、消費者保護が地方公共団体の事務として明確にされたことも大きな前進であった。
 しかし、法令の整備がなされても実効性をもたなくては意味がないし、民間の消費者運動だけでは明らかに限界がある。国民生活センター(高輪三丁目一三番)をはじめ、各地の消費生活センターにおける苦情相談、商品テスト、情報提供などの活動が行政機構として保証されるのは、昭和四十年代半ばまで待たなくてはならなかった。東京都が消費生活条例を制定したのは、昭和五十年になる。
【港区の消費者行政】 港区においては、昭和四十七年、従来の商工課経済係を消費経済係に改編し、消費者保護をめざした消費者行政を本格的にはじめている。以下、その事業概要を述べてみよう。
 
  (1)  消費者教育事業
    区民向けに消費者としての権利意識を向上させるための知識や情報を継続的に提供する――消費者教
   室の開催(年2回)、「消費者だより」、「消費者ハンドブック」などの発行、区広報紙上に定期的に情
   報を載せる。
  (2) 消費者団体育成事業
    区内の消費者団体(消費者の会、生活学校など)に知識、情報の提供を行ない、保護育成に努める。
  (3) 安定供給事業
    諸物価の安定を図り、家計の安定に寄与するため、関係各業界の協力を得て、生鮮三品すなわち豚肉
   の産地直送事業、魚、青果物のお買得品のすいせんなどを実施する。
  (4) その他の主な消費者保護行政
    被害救済のため消費者の苦情、相談、紛争を処理する相談窓口の設置。資源の有効利用も考慮した不
   用品交換事業の開設。事業者と消費者との懇談会の設置。事業者への立入検査、調査、指導などを実施
   する等々。
 
【消費者行政の不十分性】 こうした消費者行政は前述の消費者保護基本法の理念に従い、地方自治法にもとづいて、消費者のおかれた弱い立場を理解し、その利益を擁護、増進させることに重点を置いている。だが、消費者問題処理の先進国欧米諸国などにくらべると、まだまだ不十分で後追い的であり、消費者の保護になりきらず、事業者(企業)の利害との調整に終わってしまうこともある。もっとも、事業者(企業)がつねに「強者」あるいは「悪者」として割りきれるわけでもなく、一面では彼らも消費者であり、区民でもあり、こうした点を考えれば消費者行政の困難さをうかがいしることができるだろう。
【消費者運動の成長】 一方、消費者運動は以前の個別的でたぶんに情緒的な反応―反対運動の色あいを徐々にうすめ、消費者の権利思想の普及、確立を背景に、個別的な告発よりも、問題の事前発見、被害の未然防止の動きを強めてきている。(昭和四十八年の石油タンパク問題は、その嚆矢であった。)これらは、公共料金をはじめとする消費者物価の監視などで地道で理詰めの作業を積み重ねてきた消費者運動の蓄積の成果であり、最近では企業経理の内容にまで立ち入った運動が出現するなど、日本の社会に根強くある生産・販売中心の考え方に変更を迫るものになっている。