今日の激しい社会変動、とくに技術革新や情報化のもとで、国民の日常生活は大きな変化を強いられており、それは人間の生活を豊かにする反面、一方では生活環境を一段と悪化させている。それゆえ住民がこのような現代社会の諸問題を少しでも解明し、より豊かな市民生活を送ることができるように各分野の専門講師を招き、年二回成人大学講座を開設している。
右に明らかなように、この成人大学は、学習内容ばかりでなく、国民の教育水準が上昇している現在、社会教育学習も、大学との連携により大学が保有する物的・人的資質・能力を活用して一般開放し、より高度なものにという意図をもっているのである。したがって、昭和二十五年以来継続されている成人学校とはその内容をやや異にしたより学問的、専門的な性質を有するものである。
本区においては、幸い慶応義塾大学関係者の積極的協力を得ることができ、各分野の教授陣を招いて成人大学講座を開講し、以来こんにち(昭和五十一年度)までに合計一四回開催している。この成人大学講座は、毎回好評で定員六〇名のところ受講希望者は約二倍ほどあり、その期待にこたえられないのが現状である。したがって当然のことながら、受講生のなかから定員増加の要求がおこっており、これにこたえていくことが当面の重要な問題となっている。しかしさらに、講師との話合いや参加者との交流を求める声も少なくなく、この講座が参加者の個人的な向上にとどまることなく、地域の発展や社会生活の連帯にもつながるような学習の内容と方法をもって実施できることも今後の課題とされるのである。なお、発足以来一四回にわたる成人大学講座のうち第九回以降のテーマを掲げれば表33のとおりである。
表33 第九回~第一四回の成人大学講座の内容
No. | テ ー マ |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 | 日本の中小企業問題 I 日本の中小企業問題 II 現代小説の諸問題 I 現代小説の諸問題 II 計量経済学的モデル分析の可能性と限界 化学療法に残されたもの――がんおよびウイルス I 独占禁止法と消費生活 I 独占禁止法の改正問題 II 化学療法に残されたもの――がんおよびウイルス II 成長の制約 |
昭和50年度(第10回)
No. | テ ー マ |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 | 市民生活とコンピューター 技術発展の恩恵 市民生活とコンピューター 情報化社会の諸問題 現代西洋美術論 I 現代西洋美術論 II 人畜共通寄生虫病 I 人畜共通寄生虫病 II 70年代の国際関係と第3世界 ポルトガル植民地の解体と南部アリフカ問題 私たちの地方財政を考える I 私たちの地方財政を考える II |
昭和50年度(第11回)
No. | テ ー マ |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 | 社会保障の効果と限界 考古学的に見たわが国古代の舟 I 政治家の条件 考古学的に見たわが国古代の舟 II 生活をめぐる危険とその管理 各種選挙区制の利害得失について 青年期の心理とその病態 I 青年期の心理とその病態 II 大気汚染の話 I 大気汚染の話 II |
昭和51年度(第12回)
No. | テ ー マ |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 | これからの老人福祉 I これからの老人福祉 II 女性の一生におけるホルモンの役割 生殖生理学の発展とその応用 ことばと文化 I ことばと文化 II 英米法の常識 I 英米法の常識 II 資源・エネルギーの電気化学的考察 I 資源・エネルギーの電気化学的考察 II |
昭和51年度(第13回)
No. | テ ー マ |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 | 多国籍企業の問題 I 多国籍企業の問題 II 日本新聞の現状と問題点 麻 酔 管理工学 I 管理工学 II 現代政治と選挙 I 現代政治と選挙 II 歴史と歴史観 I 歴史と歴史観 II |
昭和51年度(第14回)
No. | テーマ |
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 | アメリカの政治の新しい流れと日本 I アメリカの政治の新しい流れと日本 II 新海洋法秩序と日本 I 新海洋法秩序と日本 II 国際社会の中の日本 I 国際社会の中の日本 II 日本外交の過去と将来 東南アジア諸国と日本 流通と消費者 日本の企業経営者 |
【成人セミナー】 ところで、港区においては昭和五十年度からはさらに、「成人セミナー」を開設している。これは、先の成人大学の専門的・総合的な教育機能を社会教育としてよく活用してはいるものの、それはまだ「総花的学習形態」にとどまっており、区民の間からこれに対して、より深く学習し、研究したいとの要望が出されていたのをうけて設置されたものである。発足の昭和五十年度は、一つのテーマを設定し、討議・討論ができるように人数も三〇名程度におさえ、宿泊を含めて六日間同一講師による学習が、第一回は「人口問題」第二回は「日本の都市構造」について行なわれた。また、翌五十一年度は、第一回が「日本人と外国文化」、第二回が「中国の伝統思想と現代」をテーマに、それぞれ宿泊二日を含めて八日間ずつの日程で開催された。
このようなセミナーは、文字どおり、研究グループとして、一定の課題について共同で学習・研究するものであり、通常の講義形式による専門的知識等を習得するだけでなく、受講者の年齢・性別・階層・職業・思想等の差異性を前提として、主体的な参加により、より幅広く、より深く、一定の課題を共同で研究することにより、現実の諸課題を自主的に学習し、問題を解決する能力・方法等を身につけることを究極的目的としている点において、成人教育の質的充実に大きく寄与するものである。