平成に入ったころ、行政調査の主役は原始・古代の遺跡から近世遺跡に変わった。現在、港区内で行われている発掘調査のほとんどが近世遺跡を対象とする行政調査である。その件数は毎年度三~四件程度であるが、調査件数・規模は増加・拡大の傾向にある。これらの発掘調査は、事業主体・調査規模などにより、東京都埋蔵文化財センター・民間発掘調査機関が分担して行うこととなっているが、時に港区教育委員会が直接調査にあたることもある。こうした近世遺跡調査体制の確立や調査研究の進展に、近世遺跡の保護行政に自治体が積極的に取り組む必要性を早くから唱え、都心区が進めてきた近世遺跡の発掘調査全般に指導的役割を果たした滝口宏(早稲田大学名誉教授。一九一〇~一九九二)の功績を忘れることはできない。
近世遺跡の発掘調査は、今後も間断なく続けられるであろう。しかも、近世遺跡調査の進展が、原始・古代・中世の考古学的資料・情報の発見という副産物をもたらしている点にも注意しておきたい。原始第二~四章や古代で取り上げられている多くの遺跡は、近世遺跡との複合遺跡なのである。近世遺跡を主体とする行政調査により、考古学の分野から港区の歴史を立体的かつ具体的に綴るうえで貴重な資料や情報は着実に蓄積されている。しかし、その一方で、文化財保護の本来の目的である遺跡自体の現状保存は難しく、また多種多量の出土品の保管など様々な課題も抱えている。 (髙山 優)