植物相の変化

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 八〇万年前以降になると、地球の気候はおおよそ一〇万年ごとに冷涼な氷期と温暖な間氷期を繰り返すようになり、それに対応して日本列島の植生も規則的に変化した。全体としては、間氷期はブナ属など多様な温帯性落葉広葉樹に加えて温帯性針葉樹や照葉樹もみられ、氷期には針葉樹林が主体を占める。また、氷期の中でも湿潤な時期にはスギやヒノキ属、トウヒ属バラモミ節などの温帯性針葉樹が、乾燥した時期ではトウヒ・エゾマツ・チョウセンゴヨウ・コメツガなどの亜寒帯性針葉樹が卓越する。
 港区のある関東地方を中心に、最終間氷期以降の植生を詳細に見ると、当初は落葉広葉樹や温帯性針葉樹が優勢で、他地域に比べて照葉樹は少ない。最終氷期に入ると落葉広葉樹も次第に減少し、やがてスギやトウヒ属バラモミ節などの温帯性針葉樹が主体となる。さらに気温が低下した六~七万年前ごろにはトウヒ属を中心に、カラマツ属・モミ属・ツガ属・マツ属を伴う亜寒帯性針葉樹林を中心とする植生に変化する。最終氷期の中でも相対的に温暖な時期には、一時的に落葉広葉樹が優勢となる時期もあったが、姶良(あいら)カルデラの噴火を契機とした気温の低下により、再びチョウセンゴヨウ・トウヒなどの亜寒帯性針葉樹林に交代する(図2-1-3-1)。しかし、この時期の森林植生は低地部や谷底、台地斜面に限られており、台地上では多少の落葉広葉樹や針葉樹があるものの、乾燥に適応したイネ科・ヨモギ属・カヤツリグサ科・シダ類などからなる草原が広がっていた。

図2-1-3-1 北海道上川町・滝上町浮島湿原

最終氷期のもっとも寒い時期には、南関東地方の気候は現在の北海道に近く、写真のような針葉樹林を中心とする植生が広がっていた。