コラム2 炭素14年代測定法

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 自然界に存在する炭素には、中性子と陽子の合計数の違いにより、炭素12・炭素13・炭素14の三種類がある。それぞれの割合は、中性子と陽子の合計が一二個の炭素12が全体の九三・八パーセントを、一三個の炭素13が一・〇七パーセントを占め、一四個の炭素14はごく微量である。自然界でこの比率は基本的に一定であり、光合成あるいは食物連鎖の過程で炭素を体内に摂取する動物・植物もその比率は変わらない。しかし、動植物が死んで新たな炭素の補給が止まるとその比率に変化が起こる。動植物の死後も安定的な炭素12と13とは異なり、不安定な炭素14は約五七三〇年でその数が半減するからである。この原理を利用して、遺跡から見つかる動植物由来の遺物を用いた年代測定方法を開発したのが、アメリカのシカゴ大学のリビーであり、その功績により昭和三十五年(一九六〇)にノーベル化学賞を受賞した。
 最初に開発された測定法は、炭素14が崩壊する際に出る放射線を測る方法(ベータ線計測法)であったが、近年は、加速器を用いて試料中の炭素14を直接数える、加速器質量分析法(AMS法)が主流となっている。その結果、必要な試料の量は一ミリグラム以下とより微量になり、測定時間も大きく短縮され、約六万年前までの年代測定が可能となっている。
 また、この年代測定法は、自然界の炭素12・13・14の比率が一定という前提に基づくものであるが、近年の研究では宇宙線の変動や、海洋に蓄積された炭素の放出によりその比率が変化し、測定結果にも誤差が生じていることがわかってきた。現在、長い年月の間に湖底などに積み重なった年縞(ねんこう)堆積物や年輪年代を用いて実際の暦年代に近づける補正作業が進められ、より高精度な遺跡出土遺物の年代が得られるようになっている。   (渡辺丈彦)