魚類の捕獲時期

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 魚類についてはどうであろう。伊皿子貝塚では大量のクロダイの鱗(うろこ)が出土したが、これらを分析した結果、夏~秋(八~十月)に入る資料が多く、四月から産卵期(五~七月)の間に入る資料が僅か八パーセントに過ぎないことが確認された。このことから、伊皿子貝塚を形成した人びとは、夏から秋にかけて盛んにクロダイ漁を行っていたと推定された。現在も、クロダイ釣は夏から秋を最適としており、分析結果と合致する。
 魚類の鱗を電子顕微鏡で観察すると、年輪と嘴(くちばし)状の突起が並ぶ隆起線を見ることができる。さらに、年輪が形成される場所では隆起線が不連続する「たち切り」現象が観察される。たち切り現象は、産卵期に鱗の成長が休止した後、新たな隆起線が再び形成されることによって引き起こされるもので、そこが新しい年の開始を示している。鱗を用いた捕獲時期の検討は、こうした鱗の性質を活用して行われた。   (髙山 優)
 

図3-コラム2-2 クロダイの鱗