東京二三区域の大部分を覆うとされる荏原郡と豊島郡は、先にも触れた『和名類聚抄』によると、次の郷を各々統轄しているとされる。じつは『和名類聚抄』は写本によって記載が異なり、校訂に難しい問題があるが、代表的な高山寺本(こうざんじぼん)と大東急記念文庫本とによってそれぞれの郡に属する郷名を列記すると次のようになる。ここでは右の二本のいずれか一方に記載があれば、すべて掲載することとした。それぞれで地名表記が異なり、二本を併記するときは( )内が大東急記念文庫本の表記である。
荏原郡
〓(4画くさかんむり+補)田加万多[(加萬太)] 田本[多毛止] 満田[上音下訓] 荏原[(江波良)] 覺志[加々志(加々之)] 美田(御)[三多( )]
木田支太(木多) 櫻田[佐久良多(佐久良太)] (駅家)
豊島(嶋)郡
曰[比乃止](日頭[比乃度]) 占方[宇良加多(宇良加太)] 荒墓[安(阿)良波加] 湯島(嶋)[(由之万)] 広岡 (余戸)
(駅家)
余戸(あまるべ)とは、五〇戸をもって一郷に編成した際に生じた端数戸の郷。各地に存在したが、次第に固有名詞化していった。駅家(うまや)には、後述する古代交通路に置かれた施設を中心とし駅戸(やくこ)や駅田(やくでん)が付属したが、やはり郷と同じ行政区画となっていった。