東歌

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 武蔵国の古代の景観を知り得る史料のひとつに『万葉集』巻一四に収められた東歌がある。合計二百三十首余りあり、東海道遠江以東、東山道信濃以東の一二国の歌が含まれている。そのうち九首が武蔵国の歌と明記されている。
 武蔵野の草は諸向きかもかくも君がまにまに我は寄りにしを(『万葉集』巻一四・三三七七)
 これは、武蔵野の原野の草が風にしたがって一斉になびくさまを詠んでいる。広大な原野をイメージさせるのに充分である。また「う(を)けら」の花を詠んだ次の歌もやはり武蔵野の原野を彷彿とさせる。
  恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ(『万葉集』巻一四・三三七六)
 「う(を)けら」とはキク科で山野に自生する白朮(びゃくじゅつ)のこと。薬用にもなるが、既述した『延喜式』典薬寮にみえる、武蔵国貢納の雑薬二八種のなかには入っていない。