理科学的分析からわかったこと

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 年代測定の結果は、左側が一二二五±一五年、右側が一二一〇±一五年と、ほぼ同年代であった(表3-コラム-1)。これを暦年代に当てはめると、ともに八世紀後半から九世紀後半となり、奈良時代後半から平安時代前半に相当する。また、取り上げ時の崩壊を防ぐために骨に塗られた石油系保存材の影響の可能性もきわめて低く、弥生時代のウシではないことが示された。しかも、第二号方形周溝墓の上方では九世紀の住居跡(第一号住居跡)が発見されており、この時代にウシの頭骨を収めた土坑が貝層を掘り込んでつくられていても不自然ではない。
 伊皿子貝塚遺跡出土のウシは、長く弥生時代の「日本最古のウシ」といわれてきた。しかし、理化学的年代測定の結果により、八世紀後半から九世紀後半のウシであることが示された。ウシの頭骨を置いた目的については、雨乞いなどの何らかの儀礼に伴う犠牲獣として、意図的に土坑内に収められたと考えられる。本遺跡からはこのほか、第一号住居跡からウマの臼歯が出土している。両者はほぼ同時期であると考えられるが、関係は不明である。しかし、少なくとも伊皿子貝塚遺跡周辺には古代に牛馬がいたことは確実であり、当時貴重であったこれらの動物が、どのように利用されていたかを知るうえで重要な手掛かりといえる。
(髙山 優・大西雅也)
 

表3-コラム-1 炭素14年代測定結果