考古学の研究は、原始・古代を対象とするものと思われがちであるが、物質的資料(遺跡・遺構・遺物)を分析するという方法にもとづけば、その対象は近世にもおよぶ。近世を研究対象とした近世考古学という学問は、昭和四四年(一九六九)に提唱されたが、実際に調査が本格化したのは一九八〇年代後半の都心部においてであった(岩淵 二〇〇四)。こうした中で、港区は早くから近世遺跡の発掘調査に取り組んできた先進的な自治体であったが、近世遺跡の調査は『新修港区史』刊行後のことであるため、新出史資料として今回の近世編でその成果を紹介する。近年の自治体史では、一章を設けて近世考古学の成果を紹介することも珍しくないが、今回は、とくに考古学の成果を別にまとめず、内容に即して、古文書や絵図を使った叙述とあわせて配列し、一体化を図った。
なお、近世考古学の学史と港区の関係については、つづく次節で詳しく述べたい。