港区域の寺社の特色

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 三章では、一節で近世日本の宗教に関する動向を概観した上で、二節以降で港区域の寺社地について解説する(「宗教」の語は、近世において特定の身分・組織を形成した仏教・神道などを主に指す)。まず本章への案内として、港区域の寺社の特色を簡単に整理しておくと、次の五点のようになるだろう。
 第一に、中世から勢力を持っていた有力寺社がある一方で、近世都市江戸の建設の中で新たに創建された寺社が数多くある。他地域から移転してきたものもあり、一七世紀を通じて寺社が増加した(図3-1-1)(本章二節一項。一章一節三項も参照)。

図3-1-1 「寛永江戸全図」より芝・西久保周辺の大寺院と寺町
臼杵市教育委員会所蔵


 第二に、徳川将軍家の菩提寺(ぼだいじ)である芝の増上寺(浄土宗)をはじめとして、幕府とつながる有力寺社が多い。増上寺については、特に本章三節で詳述する。また、愛宕の円福寺・真福寺(共に新義真言宗)や青松寺(せいしょうじ)(曹洞宗)、芝の金地院(こんちいん)(臨済宗)や泉岳寺(曹洞宗)、白金の瑞聖寺(ずいしょうじ)(黄檗(おうばく)宗)、麻布の善福寺(真宗〈浄土真宗、一向宗〉西派)などの諸寺院の事例についても、本章二節で取り上げたい(寺社の所在地の表記は、史料により異なる場合がある)。一方、愛宕権現社・赤坂氷川社・麻布氷川社・芝神明宮(飯倉神明宮)などの有力神社や修験については、本章四節で取り上げる(愛宕の円福寺の解説もある)。
 第三に、中小の寺社も多く、一部の寺院は寺町と呼ばれる寺院密集地区に所在し、江戸城の外郭部を構成した(本章五節。一章一節三項も参照)。特に芝・高輪・三田(口絵8)・麻布などに寺院が密集することとなる。
 第四に、寺院の宗派に注目すると、浄土宗・真宗・日蓮宗(法華宗)・曹洞宗が多いが、その他の宗派も確認でき、特定宗派に限定されない都市的な特徴がうかがえる(本章二節一項参照)。また、神社の祭神は多様であり、神仏習合(しゅうごう)(後述)にも注意を要するが、比較的多くの稲荷社が確認できる(本章四節参照)。
 第五に、諸寺院は、町人・百姓(近世前期には百姓も多く居住)のみならず、武士の菩提寺ともなっている。これは、巨大な武家人口をかかえる江戸の特色が表れたものである。参勤交代と関わり、大名家の菩提寺・葬地も設けられているが、この点については本章二節のコラムで解説する。
 なお、本章五節では寺社建築について解説し、続く六節では、考古学の成果を踏まえて寺院境内や墓所の実態を浮き彫りにしたい。一方、寺社の行事や人々の信仰については、詳しくは五章を参照されたい。