こうして近世の宗教が形を整えていった。その中心的な位置にある仏教と神道(神祇信仰(じんぎしんこう))は、葬祭・祈禱などを通じて人々の生活と結びついた。加えて、儒教的な道徳も普及していった。それにより、宗派的な多様性や身分的・階層的な格差を伴いつつも、大枠では共通の宗教文化が成立した(尾藤 一九九二)。
このような宗教文化は人々と動物・自然との関係からも、うかがうことができる。例えば港区域では、江
戸時代後期に伊皿子(いさらご)の大圓寺(だいえんじ)(曹洞宗)境内にあった犬や猫の墓石が確認されており、これらの動物が仏式の供養の対象となりえたことがわかる。墓石に刻まれた文字から、武家で飼われていた犬が含まれることも判明している(港区立港郷土資料館編 二〇〇二)。
近世に成立した宗教文化は、明治維新期に再編されるが、失われることはなく存続した。そして昭和期の高度経済成長以降、地域の共同体が衰退する中で、徐々に解体してきている。もっとも、人々と寺社とのつながりや神仏をめぐる宗教意識は、今日でも失われてはいない。よって近世の宗教文化は、私たちの多くにとって、遠くて近い存在と言えるだろう。
次項では、このような宗教文化と関わりの深い江戸幕府の政策について、確認しておきたい。 (上野大輔)