各地の寺院は、本山を頂点として全国的に展開する教団を構成した。仏教教団は、寺院に所属する僧侶と家に所属する門徒によって主に担われる。その組織を考える上では、本末(ほんまつ)関係と寺檀関係がまず注目される。その制度化された形態を、本末制度・寺檀制度と呼ぶ。ただし、仏教教団はその他にもいくつかの要素を内包していた。
寺院・僧侶レベルの要素としては、①本末関係(本末制度)、②触頭(ふれがしら)制度、③教学・修行に関する制度 ④寺院・僧侶の格(等級)に関する制度、などが知られており、これらは寺院・僧侶の上下関係や支配関係を規定するものであった(朴澤 二〇一四、二〇一五)。①~④は調和的に併存するとは限らず、摩擦や対立を引き起こすことがあった。例えば、①と②それぞれの上下関係の齟齬(そご)をめぐる紛争が生じ、②の上下関係の再編などによる解決が図られた。
このように、教団組織は単純な一枚岩ではないが、全体を統御する独自の規律があり、紛争への対処に際しても依拠する必要があった。重要なのは、寺院で作成・保持された、僧侶・門徒らを律する寺法である。これは、幕藩領主の寺院法度と整合性を保ちつつ、宗派ごとに独自の広がりを有した。また、寺領の領民に対して寺院が発した法規もある。その他、門徒らの講にも独自の規律があった。