多彩な時代様式

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 港区は、都市開発がめざましい東京都心という立地でありながら、優れた近世寺社建築が数多く集積する地域である。平成一八年(二〇〇六)に行われた港区内の歴史的建造物悉皆(しっかい)調査の結果では、中世から近世、近代にわたる優れた寺社建築九一棟が確認され、そのうち近世の本堂建築は、一六棟に及んでいる(港区教育委員会編 二〇〇六)。本節では、これら港区内に現存する近世寺社建築を題材とし、その造形の特色や建築を生み出した社会的背景を探っていきたい。
 港区内の寺社建築の大きな特色は、時代様式の多彩さと言える。一般的に近世寺社建築は、その意匠的な特色が江戸時代の中でさえ、時期に従って細やかに変遷をとげることが知られている。その時代様式の変化を網羅的に辿(たど)ることができるほど、幅広い時代の建造物が現存するということになる。加えて、現存する建築の時代的な古さも特筆される。東京都内では数少ない、江戸時代前期の建築が港区に残るからである。
 はじめに、江戸時代の各時期を代表する建築を取り上げ、多彩な港区内の寺社建築を概観しよう。