町の運営

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「町記」には「月番」や「大月番」など、いくつかの役割が登場する。通常、各町では家主が毎月交替で月行事(がちぎょうじ)を務めたが、青山六か町の「月番」はその月行事に相当すると考えられる。町運営に関する最初の「町記」の記事は「月番」の務め方についてであり、「幕府の法令(「御触書(おふれがき)」)が到来したら、どのような内容であっても控えの帳面に書きあげ、触れ回らせて、その法令を次に送達すること。また、町入用の計算や出納を行い、月末の決算時(「晦日勘定(みそかかんじょう)」)には三十日行事の立ち合いの上で確認・押印すること。とにかく何事によらず世話をすること」とある。青山六か町では、「月番」が法令伝達や町入用(本節三項参照)の運用など、町運営の中心を担っていた。
表4-1-2-1は「月番箱」に収められた書類の一覧である(「月番箱中附渡帳面」)。付(つ)け渡(わた)し(「附渡」)とは事務や書類の引継の意であり、「月番」たちは町運営の書類を箱に入れて管理し、自身の任期が終わると次の「月番」に箱ごと書類を引き渡したと考えられる。引継書類の中には「町記」のほか、幕府の法令を書き留めた「御触書摹(おふれがきも)(模)帳(ちょう)」(「摹」は「うつす」の意)や「人別(にんべつ)帳」(江戸時代の戸籍簿、本章三節二項参照)を確認できる。公役(くやく)銀(本節三項参照)、町火消(まちびけし)(後述)、町入用(本節三項参照)、神社・祭礼などに関する帳面があり、「月番」は様々な用務を担ったことが知られる。

表4-1-2-1 月番箱の帳面
「町記」* をもとに作成


 
 青山六か町では、表4-1-2-1以外にも表4-1-2-2の書類が宇兵衛という人物の下で管理されていた(「宇兵衛方預ケ置申候事(うへえかたあずけおきもうしそうろうこと)」)。表4-1-2-1の「人別帳」に対して、表4-1-2-2では「人別控古帳面」と過去の控えであることから、表4-1-2-2の書類は現用文書ではなく、過去の重要書類や、先例を参照するために保管された書類、つまり半現用文書と考えられる。

表4-1-2-2 宇兵衛が預かる書類
「町記」* をもとに作成


 
 青山六か町には「大月番」も存在したが、「大月番」は六か町で金銭を負担する際に各町への負担の割り当てや徴収を行い、六か町で寄合を開く際にはその世話をした。「町記」には「大月番箱ニ有之候(これありそうろう)品ニ、前番之(の)通勤帳江相記(へあいしるし)、順達可致候(いたすべくそうろう)」とあり、「大月番」も「大月番箱」で書類を引き継いだとみられる。ただし、先にみた宇兵衛が「大月番」に相当するのかどうかは不明である。
 青山六か町には、ほかにも「世話役」などが存在するが、それぞれがどのような役割を担ったのか、「町記」からその詳細を読み取ることは難しい。少なくとも青山六か町では、「月番」や「大月番」をはじめとする様々な役割の者が町運営を担い、その書類は「月番」の手元に置く現用文書と、特定の人物が一定期間保管する半現用文書に分けて管理されるなど、「月番」を中心に組織的・機能的な町運営が行われていたと考えられる。